エピローグ「永遠を紡ぐ黄金の糸」
それから、さらにどれほどの歳月が流れただろうか。
季節が何度も巡り、王国の街並みはさらに豊かに、華やかに発展を遂げていった。
アルフレッドは国王として玉座に就き、冷徹で無慈悲ながらも国を導く優れた君主として歴史に名を刻んでいる。
ガレッドは王国軍の総司令官として、他国からの侵略を幾度も退け、不敗の騎士と謳われていた。
ノアは魔術院の長として、歴史上のいかなる天才も辿り着けなかった魔法の深淵に到達し、新たな理をいくつも構築している。
彼らは後世の歴史書に並び立つ栄光を手に入れ、民衆から熱狂的な支持を集め続けた。
しかし、彼らが国を治め、戦い、魔法を極めるすべての理由は、ただ一つの場所に集約されていた。
王宮の最深部、誰も立ち入ることの許されない硝子の城。
そこに住むルシルは、歳月が過ぎてもなお、病に倒れたあの日の少年のままの姿を保っていた。
三人の強大な魔力が彼の時間を止め、肉体の老いすらも許さないのだ。
長く伸びた銀色の髪は月の光のように輝き、透き通るような白い肌には一切のくすみもない。
彼はまるで神々が残した美しい美術品のように、変わらぬ姿で鳥籠の中に鎮座していた。
夜の静寂の中、ルシルはバルコニーから星空を見上げていた。
背後からは、いつものように三人の足音が近づいてくる。
国王の威厳も、総司令官の威圧感も、大魔導士の冷酷さも、この部屋の扉をくぐった瞬間に消え去る。
彼らはただ、ルシルという神を崇拝する盲目的な信者へと戻るのだ。
「外は冷える。また君の体が冷たくなってしまうよ」
アルフレッドが後ろからルシルを抱きすくめ、その首筋に顔を埋めた。
彼の熱い吐息が肌に触れ、ルシルは小さく肩を揺らす。
「俺の手で温めよう。君の指先は、いつも氷のように冷たいからな」
ガレッドがルシルの前にひざまずき、冷えた指先を自らの息で温めながら、大きく無骨な手で包み込む。
「魔力石の光を柔らかく調整しておいた。君の瞳に負担をかけないようにね」
ノアがルシルの髪を優しく撫で、周囲を漂う光の玉を薄紅色の柔らかな色合いへと変化させた。
三人の熱が絡み合い、ルシルを深い安心感で満たしていった。
ルシルは星空から視線を外し、彼らの顔を順番に見つめる。
前世の記憶を思い出したとき、自分は誰からも愛されずに死んでいく悪役なのだと信じて疑わなかった。
本来のシナリオ通りであれば、彼らは今頃、光の魔力を持つヒロインとともに幸福な結末を迎えていたはずだ。
しかし、現実はこれほどまでに歪に捻じ曲がり、そして恐ろしいほどに美しい。
彼らはヒロインを捨て、世界を捨ててでも、ルシルという一つの命にすがりついた。
その結果が、この逃げ場のない永遠の鳥籠だ。
「……私は、本当に罪深い人間ですね」
ルシルの静かなつぶやきに、三人は甘く微笑んだ。
「君の罪は、私たちをこれほどまでに狂わせたことだけだ。そしてその罰として、君は永遠に私たちのそばにいる義務がある」
アルフレッドの囁きに、ルシルは小さく目を閉じる。
もう、この熱がない世界など想像もできない。
彼らの異常な執着も、過剰な保護も、すべてがルシルを生かすための黄金の糸となっている。
その糸はルシルの手足を縛り、自由を奪い、永遠にこの鳥籠から出さないための呪いだ。
しかし、ルシルはその呪いを心から愛していた。
彼らの腕の中で目を閉じれば、外の寒さも、過去の運命も、すべてが幻のように消え去っていく。
ルシルは自らの胸の奥で、三つの魔力が鼓動と混ざり合うのを感じていた。
もう、一人で歩くことも、一人で呼吸をすることさえも許されない。
彼らがルシルを独占していると同時に、ルシルもまた彼らのすべてを支配しているのだ。
その甘美な事実に気づいたとき、ルシルの唇から自然と静かな吐息が漏れた。
誰も愛さず、愛されずに死ぬはずだった悪役令息は、世界で最も重たい愛に溺れながら、永遠の幸福をまどろみの中で生き続ける。
誰の記憶にも残らずに消え去るはずだった悪役の少年は、この世界の裏側で、彼らだけの神として永遠に君臨し続ける。
硝子の城に閉じ込められた三つの影は、いつまでも彼を愛し、彼を守り、彼に縛られ続けるだろう。
それは、世界で最も歪で、最も美しく、そして最も幸福な悪役令息の結末だった。




