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交差

それぞれが見ていたもの。

それぞれが感じていた違和感。


それらが、初めて同じ場所に持ち寄られます。


言葉にできるものと、できないもの。

その間にある“ズレ”が、少しだけ形になっていく回です。


澪を自宅に送ってから、事務所までの道のりを歩いていた。

最近は夕方に街中を歩いて帰ることはなかったので、人間観察にもなって楽しいものだった。


事務所に戻ってから携帯を見ると、普段見ない数の通知があった。

皆、今日は暇だったのか、先ほどのグループチャットの方がにぎわっているようだった。

結果としては、明日、事務所に全員集合する形になった。


事務所は来客用の応接コーナーと、事務仕事をするためのデスクなどがあり、

応接コーナーにそこそこの広さをとっているので、全員が集まっても問題ない。


事務所のデスクに落ち着いて、これまでの事を整理してみることにした。

喫茶店の外にある電柱の付近にいた少女。この時は特に意識することは無かった。

単純に誰かを待っているだけだと考えていたからだ。


そして、翌日になっての事件。自分ではしっかりしているつもりが、意識を持っていかれていた。

白い霧がかかったような状態で、何かを伝えようとされていたことはしっかり覚えている。

ただ、周りから見た時に意識を持っていかれたように見えていたようだ。

自分の認識と、実際の状態に乖離があるのは少し怖いところだ。


その後、指輪を渡され、そのことを相談に陽向の自宅に行った。

その時に恒一さんと澄さんに、少女が今のところは悪いものではないという話をされた。

今のところはというのは気にかかるが、まずは対話する必要があるだろう。

そう思って少し対話を試みたが、今一つ繋がりが良くないようで断片的なものとなった。

この情報を聞いた澪が、思う節があるようだったので、全員集まる方向にしたのだ。


さて、一旦自分の中で整理できたところで、明日の集合に備えて早めに休むことにした。



——翌朝、目覚ましよりも先に目が覚めた。


コーヒー豆が切れていることに気が付いて、買いに行くのに事務所を出たところで澪に会った。

澪の手には小さな紙袋があり、コーヒーの香りがした。


「何というか、俺の考えていることが分かるのか…?」

「先日見たときに、あまりストックが無いようでしたので。」


交際している自分が言うのも何だが、こういう女性と一緒に暮らせれば快適だろうなと思った。


「さて、他のメンバーとは会っていないか?」

「いえ、今日はまだ会っていませんね。」


何気なくコーヒーメーカーの準備をしながら答えているあたり、流石だなと思った。

まだ朝早いこともあり、誰も到着していない。

先に澪と打ち合わせをしてもいいが、行き違いが起こらないように全員が集まってからとした。


暫くすると、陽向と静流が到着した。


「おはよう、やはり澪ちゃんは先に来てたんだね。」

「お邪魔やったかな。」


静流はいつも通りという感じで話しかけてきたが、陽向は少し茶化しながら入ってきた。

こちらもいつも通りのやり取りだ。


「あと二人やな。」


陽向が入口の方を窺いながら、残りのメンバーの事を口にした。

今のところは姿が見えなかったので、しばらく雑談していると、入り口に影が見えた。


「おはようございます。」


澪の方から声をかける。

入口付近にいた二人の女性が事務所の中に入ってきた。

残りの二人とは彼女らの事だった。


「おはよ、澪。境君もお邪魔するねー。」

「姐(あね)さん、いつも通りやなぁ。」

「姐さんはやめてって言ってるでしょ!」


陽向から姐さんと呼ばれる彼女は御影真琴(みかげまこと)さん。一つ上の先輩だ。

いつものやり取りだが、真琴さんは陽向の保護者にしか見えないことがしばしばある。


「おはようございます!陽向君も真琴さんもいつも元気だよね。」


その後ろから元気に挨拶してきたのが風見野乃花(かざみののか)。

澪の同級生で幼馴染で、自他ともに認めるスポーツ少女でもある。


「さて、みんな揃ったね。境、始められる?」


静流が話を切り出し始めてくれた。

どうしてもこの6人が集まると自然と騒がしくなってしまい、真面目な話を始めにくい。

ただ、こんな時でも重い感じがなく飄々と話し始められる静流は、こうやってまとめてくれることが多い。

静流のおかげでみんな助かっているはずだ。


「ああ、とりあえず事実関係だけ一通り説明する。」


そう言って、先日からの一連の流れを説明した。

真琴さんも、野乃花ちゃんも初めて聞く話だったので色々と疑問があったようだった。

澪も整理して話を聞くのは初めてではあるが、大体の内容は先日話していたので二人ほどの疑問はなかったようだ。


「境君、澪にはちゃんと説明したんだよね?」

「昨日ですが、ざっくり説明はしています。」

「ざっくり?」

「はい、それで、みんなを集めようとなったので。」


ざっくりという言葉に少し不満そうだったが、自分と澪の関係を知っているだけにモヤモヤしたものがあったのだろう。

ただ、その結果として、全員集合となったというところで納得したらしい。


「澪ちゃんは“待てない”って感じたの?」

「ええ、表現が難しいんだけど、焦(あせ)っているわけじゃないの。」

「ん?急いでいて待てないって話じゃない?」

「確かに時間がないという感じもしたのだけど、焦(じ)れているというか…」


珍しく、澪が言葉に悩んでいた。

彼女は自分の考えを言葉にするのが上手なのだが、その彼女をして言葉に困っていた。


「届きそうで届かない、だから待つしかなくても待ちきれないって感じゃないかしら?」


真琴さんが助け舟を出した。

確かに、届きそうで届かないときは、待ちきれないものだ。

そう考えていた時、野乃花ちゃんがそこに重ねた。


「それってさ、“届かない”んじゃなくて、“気付いてもらえない”だけじゃない?」


それを聞いて澪だけでなく、その場にいる一同がハッとした。

そうだ、静流が言っていた「認知の外側」の話だ。


「…もう、おるんちゃうか?」

「そうだね、俺も陽向と同じ意見だ。」


二人が俺に視線を向ける。

もうわかってるよなと言わんがばかりの視線だ。

鈍感な自分でも、言いたいことはわかっていた。


「もう一度、この場で呼びかけてみるか。」


そう言って、デスクに置いていた指輪を、皆が囲んでいる応接用テーブルに置いた。

これだけの人数で果たして声が届くかわからないが、満場一致で呼びかけることになった。


——その距離は、すでに詰まり始めていた。



7話です。


今回で主要メンバーが揃い、それぞれの視点が交差する形になりました。

同じ現象を前にしても、捉え方が違うことで見えてくるものがある、という構図を意識しています。


少しずつですが、これまで断片だったものが繋がり始めています。

次回は、その先にある“もう一歩踏み込んだ接触”に進む予定です。


引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。


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