対話
いつも読んでいただきありがとうございます。
少しずつですが、「違和感」の正体に近づいてきました。
今回はその一歩として、“繋がる”という変化が起きます。
ただ、繋がったからといって、すべてが分かるわけではなくて——
むしろ、分からないことがはっきりしてくる、そんな回になっています。
引き続き、ゆっくりと見届けていただけたら嬉しいです。
事務所のドアは既に開いていた。
既に静流が到着していることの証左だった。
「はい、そうですね。また折り返します。」
静流の声が聞こえる。
他にも誰かいるのかと思ったのだが、どうも電話らしかった。
「ただいま。」
「あ、帰ってきたね。ハイこれ」
そう言ってメモを渡してくる。
どうやらクライアントからお礼の電話と追加の依頼があったらしい。
自分たちが不在の間、電話番をしてくれたようで、静流らしいなと思った。
「さて、本題に入ろっか。」
「せやな、境、とりあえず例の指輪出してもらえるか?」
事務所の主を置き去りに、陽向が話を進め始めた。
特にこだわるところでもないので、言われるままにポケットから指輪を取り出す。
「昨日の指輪だね。あれ以降何か変わったことは?」
「特にないと思う。」
気が付いたらポケットの中にあったというのは不思議だったが、無意識にポケットに入れたのかもしれない。
少なくとも、昨日のように意識を持っていかれるようなことは無かったので、特にないと思った。
椅子の背もたれを前にして座っていた陽向が割って入ってきた。
「オトンの話通りなら、その指輪に何か伝えようとしたら良さそうやけど、できるか?」
「やってみる。」
陽向に言われたように意識を集中して少女とコンタクトを取ろうとしてみる。
ハッキリと話しかけられたわけではないが、少女が何かを伝えようとしたことはわかっていたので受け入れる気持ちで。
意識を集中するときに目を閉じていたので、眼前が白く薄れていったのかはわからない。
ただ、瞼を閉じたその先に少女がいるような感覚があった。
昨日と同じく、少女はただそこにいた。
身振り手振りはなく、ただ唇だけが動いていた。
音は聞こえないので、もっと耳を澄ませて少女の言葉を探した。
『…聞こえる…?』
確かにそう聞こえた。聞こえたというのが正しいかわからないが、そう伝わってきた。
「何か言いたいことがあるのか?」
『…やっと…つながった…』
「やっと?」
『…ここじゃ…ない…』
そこまでは伝わってきたが、そのままフェードアウトするように現実に引き戻された。
今回は静流や陽向が遮ったわけではなく、時間切れという感じだった。
「境、あの娘、“ここじゃない”って言うてたな?」
陽向は親父さんの教え通り、少女を呼び、自分が引き込まれているところに介入していたようだ。
その中で、少女の声というか伝えたいという意識を拾うことができたのだろう。
「ああ、“やっと”とか、“ここじゃない”って言ってた気がする…」
「“やっと”言うんは、こっちからアクセスしたことやと思うわ。で、“ここじゃない”ってのは何や?」
陽向の方が心霊現象などで慣れているからか、少女が何かを伝えようとしている内容をちゃんと把握していた。
ただ『ここじゃない』という言葉は、とらえ方が色々あるので意味を汲みかねているようだった。
二人で悩んでいると、何を悩んでいるんだという様子で静流が入ってきた。
「それ、彼女がいる場所の話なんじゃない?」
「なんでそう思うんや?」
「簡単な話だよ。二人は認識できる、俺はできない。」
見えないものの例として、簡単な例を挙げながら、
テーブルにあったメモにボールペンで事実を書いていく。
「ってことは、“存在しない”んじゃなくて、“認識できてない”だけなんじゃない?」
認識できないということを図で示す。
少女から自分に向けて『伝える意思』というベクトルが発生している。
陽向はそのベクトルを横から観測している状態になっていた。
そして、そこまでは枠で囲まれているが、静流は別の枠に入っていて、陽向と自分は両方の枠が重なるところに居た。
「たぶんだけど、“認知の外側”にいるんだと思う。」
静流が図の枠を「認知」という表現する形に書いてもらったのでイメージ的に理解できた。
ということは、少女は静流を認識できていないか、認識できていても適任じゃないと考えているんだろう。
なので、静流だけが認知の外側に置かれてしまい、少女の事を認識できないと。
ただ、今の情報だけだと何を伝えたいのかわからない。
もう一度接触しようにも、続けてやってみても問題ないものか分からず、一先ずコーヒーブレイクを入れることにした。
「しっかし、この介入法はやりたないわ~…」
陽向は非常に疲れた様子だったので、よほど体力とか精神力を消耗するのだろう。
やはり今日のところはこれくらいにするべきか。
「陽向も、ここしばらく居座ったままなんじゃないの?」
「せやな、そろそろ自分の布団で寝とかんと、オカンにしばかれるわ。」
そんな軽口をたたきながら、三人で笑った。
ここのところ張りつめていたから、こういった笑いを誘ってくれる陽向のキャラに救われる。
流石に自分もベッドで寝ないと、少々体が痛くなってきたところだった。
コーヒーと適当な菓子でコーヒーブレイクをした後、今日のところは解散することにした。
3日ぶりに一人の事務所で眠ることになる。
今までの緊張もあり、ベッドに入るとすぐに眠りに落ちた。
——事務所の窓に、少女が映っていた。
そのことに、境は気が付いていなかった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
第5話「接続」でした。
ようやく“声”が届くところまで来ましたが、
まだ断片的で、はっきりとした答えには至っていません。
今回のポイントは、
・媒介が機能したこと
・複数人で同じ現象に触れたこと
・そして、それでもなおズレがあること
このあたりを意識して書いています。
次回は少し視点を変えて、
日常側からのアプローチを入れていく予定です。
引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。




