夜談
諏訪湖での一日を終え、別荘へ戻った四人。
翌日の予定を確認するはずが、話はいつの間にか湖と異界を巡る話へ。
分からないからこそ、想像する余地がある。
そんな夜の雑談です。
源一郎さん宅で七輪で焼いた魚をごちそうになってから、別荘の方に戻った。
帰る前に聞いたのだが、博物館のスタッフに教えてもらった人物は源一郎さんの知り合いでもあるそうだ。
40代の女性で、何代も前からこの付近に住まれていて、お祖母様までご健在らしい。
今回の件からも博物館のほうから事前に連絡されるようになっていると思うと言う話で、少し電話もしてもらった。
結論としては、やはり博物館のほうから電話が入っていたらしく、自分たちが明日にでもお邪魔したいという話をしてもらった。
先方も特に問題ないらしく、過去の歴史や伝承については伝えたいので歓迎するという話だった。
そこまで、予定がちゃんとまとまったところで、別荘の方の整理を再開していた。
とはいっても、必要なものはほとんどそろってしまっているので、後はカーテンを変えたりと装飾部分になっていた。
幸い、帰り道のホームセンターがまだ営業していたので、カーテンとテーブルクロスなどを調達して交換する。
そもそもが、澪の父である景一さんからの依頼なので、澪の趣味に合わせた形で完成となった。
少々ファンシーな気もするが、そこは澪のチョイスということで景一さんには納得してもらおうと思う。
「境さん、テーブルクロスの上に透明なのは敷くタイプですか?」
「そもそもクロスさえ敷かないタイプだが、どうした?」
「いえ、グラスやカップが滑らなくなるので、確認しておこうと思って…。」
なるほど、確かに自分はものぐさなタイプなので、グラスを渡すときにテーブルの上を滑らせたりする。
それができないということを伝えたかったのだろう。
たしかに、ズボラな行動はしにくくなるが、飲み物をこぼしたりすることを考えるとと思い、敷いておいてもらうことにした。
そんなことをしているうちに、明日の話になった。
特に何か気になることがあるわけではないのだが、中高年の女性から話を聞くというのは今回初めてになる。
なので、そのあたりのことについて、澪や野乃花ちゃんに聞いておいた方がいいかと考えた。
「明日、お邪魔するところだが…」
一旦話を切り出して三人の様子を見る。
澪と静流が反応しているのを確認して話をつづけた。
野乃花ちゃんが動画を見たままだが、そこはいいとしよう。
聞いていないように見えて、しっかり聞いていることも多いので好意的に理解しておくことにする。
「女性ばかりなので話し方が分からないんだが、いい案ないか?」
「40代の方と、そのお母様とお婆様ですよね。」
「ああ、そう聞いてるんだが、お婆さんのほうが100近いと聞いていて…」
目も耳もしっかりしているとは聞いているが、ちゃんと話せる自信がない。
そういったところは、正直言えば澪に任せてしまいたいところだった。
彼女は、老若男女問わず、やわらかく会話できるという才能がある。
「私の方から話してもいいんですが、静流さんの方が適任かと思います。」
「え、俺のほう?」
静流も意外だったようで目を丸くしていた。
澪の方には何か考えがあるようで、その説明を続けた。
「私は歴史とかは疎くて、伝承の話などですと、うまく聞き出せないと思うんです。」
静流も自分も黙って次の言葉を待つ。
興味や得意分野の違いが、話し方などの人当たりの部分にまで影響するとは考えていないからだ。
「お話を聞いた感じですと、伝承や伝奇などについて、お話しするのが好きな方なのかと思います。」
「ああ、だから俺のほうが、そういった話を掘り出しやすいってことかな?」
「はい、静流さんの興味のある話なので、続きを促したりという所で相性がいいんじゃないかなと。」
ここまで来てようやく納得がいった。
そこまで難しい話ではない。静流が好きな話を持ち掛けられると思うから、それを深掘りしそうな静流のほうが話が弾むということだ。
言われてみれば至極尤もな話で、澪に言われるまで気づかなかったことが少し恥ずかしかった。
たまたまではあるが、伝承や伝奇の話が出た関係で、静流が先日からの話について話を広げ始める。
「昨日の主の話もそうだけど、湖底から別世界につながるという話はよく聞くよね。」
「何か、国民的アニメで見た気がするな…」
「境から国民的アニメなんて単語が出るとは思わなかったよ。」
そういってみんなで笑う。野乃花ちゃんも聞いていたようで、テレビの前でジュースを噴いてしまっていた。
慌てて近くのタオルでふき取る。
寛ぐためにローテーブルを置いておいたのが良かったなと、この瞬間に実感した。
「いやまぁ、確かにそんな話があったよね。でも、湖底っていろんな所に繋がってるって話はあるんだよね。」
「ほう、例えばどんな話が?」
「まぁ、オカルトな話ではあるんだけども…」
湖底から地底世界に繋がっているとか、この世と異界の境目に通じているとか、色々な話があるそうだ。
湖が干上がりでもしない限り、その全てを調べるのは難しいだろうということもあり、想像は膨らむ。
その結果として、湖底から何かに繋がっているという話がたくさん生まれたんじゃないかというのが、静流の見解だった。
それと合わせて「そのほうがロマンがあるよね」と言って笑っていたのも印象的だ。
こういうところが、色々な人からの人気にもつながるのだろうと、ぼんやり感じていた。
「言われると、オカルトってロマンの一つなのかもしれないよね~。」
野乃花ちゃんが、テレビの前からダイニングテーブルのほうに戻りながら話の輪に入ってきた。
「分かることばかりだと面白くないよね~、分からないって素敵な気がするよ~。」
相変わらず、分かるような分からないような言葉を使ってくる。
何となく言いたいことはこうだろうというのは感じるのだが、やはり難しいなと思ってしまう。
澪も仲間だと思っていたのだが、全面的に同意してしまっており、少し負けた気分になってしまった。
もちろん、静流はそのロマンを持っているので、理解できる側に入っている。
「境も、理解不能な人物ではあるからね。」
そういって三人で笑っている。
失礼なのかどうなのかと、普通なら思ってしまうところだが、付き合いの長いこのメンバーであれば笑い話になった。
自分としては、そもそも他人を理解できるなんて烏滸がましいと思うので、笑い話でよかったと思う。
話が大幅に脱線してきたので、一度、明日のことを整理しておくことにした。
「明日の話だが、メインで話を進めてもらうのは静流ということでいいか?」
「ああ、俺は構わないよ。」
「私も、そのほうが話が進むと思いますし、野乃花ちゃんと私もフォローしようと思います。」
野乃花ちゃんがフォローすると、何かお花畑が生えてきそうな気がしなくもないが、女性陣のフォローは助かる。
その方向で話を進めること、伝承や伝奇の内容を聞き、最近の異変と近しい内容が無いかについても検討すること。
それらと最近の異変との関連付けや整理については、自分が担当することになった。
「じゃあ、その方向で!」
静流が話を締め、男女別に風呂を済ませて、いつも通り動画を見ながら眠くなるのを待った。
明日のことを考えると、楽しそうな静流が印象的だった。
—— 伝承と伝奇。その中に、現実と重なるものがあることを、この後、知ることになった。
第110話「夜談」、お読みいただきありがとうございます。
今回は源一郎さんたちとの時間を終えた、その日の夜のお話でした。
湖底から別の世界へ――という話は、いかにも伝奇やオカルトらしい題材ですが、境たちにとっては少し笑い飛ばしにくい状況になっています。
翌日は、現在の諏訪湖から少し視点を変えて、この土地に残る昔の話へ。
伝承や伝奇と、境たちが実際に見聞きしたもの。
その二つを重ねていきます。




