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第二章 【神聖帝国】3. 潜入 パート6

潜入に成功し、エリシアの元へ向かうフィンとノクス。

そこに何が待ち受けているのか?


二人が廊下に出たときは、日は落ちきっていなかったが、辺りは既に薄暗くなっていた。

エリシアの部屋につながる廊下には、まだ明かりは灯されておらず、人の気配はほとんどしない。

唯一、人を見たのは通りがけに見えた、厨房へ続くであろう廊下だった。

使用人たちが大慌てで何かの支度をしている。

【昼と夜の境界線】

この言葉がしっくりくる光景だった。

昼に訪れていた貴族たちの喧騒と、これから始まる煌びやかな晩餐会。

その、ほんの僅かな隙間の時間。

日が完全に落ちる前には、使用人たちが廊下の蝋燭に明かりを灯しに出てくるはずだ。

その前にエリシアの部屋までたどり着かなければならない。


『ここからはフィンさんの勘が頼りです。頼みますよ。』


ノクスが小声で言う。


『分かってるって、任せとけっての。あの影たちの一件から、俺の勘は研ぎ澄まされてる気がするんだよな。』


フィンが小声で答える。

―本当でしょうか・・・―

王都に向かうときに一度【勘】が外れている事を思い出し、ノクスは一抹の不安を覚えた。

だが、今はフィンの勘を信じるしかない。

実際、フィンは的確に人を避け神殿の中を進んでいく。

まるで何かに導かれているように。


『本来の道順からは外れちまったけど、多分、この先を真っ直ぐ行った突き当りがエリシアの部屋だ。』


言い切るフィンに、ノクスは驚く。


『よく分かりますね。勘とは凄いものなのですね。私は途中から、【また】迷子になっていると思って不安でしたよ。貴方の勘は、まるで魔術のようだ。』


【また】という言葉が少し引っかかったが、しきりに感心するノクスに、フィンは小声で囁く。


『いや、勘じゃないぜ。どうやら俺達には協力してくれる奴がいるみたいだな。・・・まぁ、これは勘だけどな。』


フィンはここにたどり着く前から違和感に気付いていた。

ノクスや普通の人間では気が付かないようなサインが、そこかしこに残され、人の気配を教えてくれていたのだ。

最初は半信半疑だったが、進むにつれ確信に変わっていた。

―これは俺に向けてのサインだ―


『よく信じましたね。罠だとは思わなかったのですか?』


ノクスの不思議そうな顔を見ながら、フィンは答える。


『最初は疑ってたけどな。でも嫌な感じはしなかった。それに、俺にしかわからないようなサインだったし、罠ならノクスにも分かるようにすると思ってさ。何にせよこれを仕掛けた奴は相当【デキるヤツ】だろうな。』


―【デキるヤツ】―

その言葉に二人は、ある人物の顔を思い出す・・・はずだった。

だが、特徴がなさ過ぎて、どうにもハッキリと思い出せない。

その人物こそ【デキる男】コムニス。

今ごろ神殿のどこかで、掃除でもしている事だろう。


『さぁ、エリシアに会いに行こう。』

『そうですね、久々の再会ですから、きっと驚くでしょうね。』


二人が歩きだそうとした、その時だった。

フィンが険しい表情でノクスを片手で制する。


『おかしい・・・さっきまで見えてたサインが消えた。』


フィンの言葉に、ノクスの身体が固まり、冷たい汗が背中を伝わる。


カツン・・・

カツン・・・

カツン・・・


いつの間にか後ろから足音が近づいてくる。

とっさに身を隠そうとしたが、金縛りにあったように体が動かない。

足音の主が、二人に話しかけた。


『ああ、そのまま聞いてくれればよい。』


その人物は、優し気にそう告げると、静かに名乗った。


『私はエリシアの兄【ルシアス】。妹が世話になったね。』


エリシアの兄、ルシアス・・・二人にいったい何を告げるのか?

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