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国防副大臣が失脚の上、投獄された。罪状は闇取引に大きく関わっていたことで、彼以外にも何人もの文官、武官が罷免の上投獄されたり、城内は大きく混乱した。その中にあって手腕を発揮したのが、宰相補佐官のケンネル・ベルカ、そして第一小隊長のロート・バジナだった。
エリシュカ・ツルカは流刑になり、その家名は取り潰された。
城内が混乱を収めたのは、それから二か月後で、平和が戻ってきたと思われた。
「緊張することないさ」
「母さん、声が震えてるよ」
ラダは両親と共に馬車に乗って、ベルカ家に向かっている。馬車の中では着飾った家族が居心地悪そうに乗っていた。
招待された段階で、服や装飾品なども届けられ、ラダ一家に断るという選択はなくなっていた。
店を休む日の分も支払うとまで言われたが、それはラダたち家族の誇りが許さなかった。着ていく服などの持ち合わせはなかったので、服は借りる事にしたのだが、正式なドレスなど身に着けたことがない。戸惑っているとイオラから申し出があって、当日着付けをしてくれることになり、その日を迎えてしまった。
「まあ、娘の可愛い姿を拝めることだけは嬉しいことだね」
「そうだな。そういう母さんも綺麗だぞ」
「父さんったら、そんなこと言っても何も出ないのに」
ラダの隣で両親たちが緊張をほぐそうとしているのか、他愛もない会話していた。
(正式にお呼ばれなんて緊張する。こんな綺麗なドレスも……)
ベルカ家の人たちは気さくで優しい。
彼女の中の貴族像とは異なる。けれども世界が異なることは変わらず、彼女は緊張してドレスを掴んでしまい、少し皺になったところを慌てて伸ばす。
「ラダ。ベルカ家の人たちはいい人なんだろう?緊張することないよ」
「そ、そうだぞ」
そう言いながらも両親の緊張はほぐれていない。三人はそんな状態で馬車で揺れ続け、屋敷に到着した。
「ようこそ。ベルカ家へ」
身分が低い者相手なのに、玄関先ではベルカ家当主夫妻、アレシュとケンネルが待っていて、使用人も勢ぞろい。
ホンザに手伝ってもらいながら馬車を降りて、ラダは卒倒するのではないかと思った。両親も同じ気持ちのようで、三人は顔を強張らせて屋敷へ入る。
テーブルについてからは、やっと雰囲気になごんできて三人の緊張は徐々に解けて行った。
「アレシュ。ラダちゃんに庭を案内したら。二人でも話をしたいだろう」
ケンネルがそう申し出て、アレシュはラダにどうするとばかり紫色の瞳で問いかけてきた。
庭に出て新鮮な空気を吸いたい、二人でゆっくり話したいことも事実だったので、ラダは頷いた。
「ごゆっくりね」
ケンネルがひらひらと手を振り、ラダは両親が少し心配になったが二人は行っておいでとばかり笑顔で送り出してくれた。
「綺麗……」
「よかった」
中庭は色鮮やかな花々が咲いていて、とても綺麗だった。
「デニスが張り切っていたんだよ」
「デニス?」
「ああ、うちに古くからいる庭師で、ホンザの師匠にあたる」
「ホンザさんの……」
ラダは頷きながら、庭を見て回る。
「この切り方、面白いですね」
「ああ、これはホンザだよ。本当、遊び心が溢れすぎだ」
恐らく熊を形どって作られた背の低い木があって、ラダは目を丸くする。
「いつの間に作っていたのか。デニスに叱り飛ばされるな」
「……庭の雰囲気とはちょっと違いますね」
デニスという人物がどういう人か知らないが、熊の形をした木は情景から少し浮いており、怒られることは想像できた。その上、へらへらと笑っているホンザまで頭に浮かんできて、ラダは笑ってしまう。
「やっと笑った。よかった。これはホンザに感謝しなければな」
「……笑ってませんでしたか?」
「ああ、ずっと緊張していただろう?」
「はい。だってこんなドレス着たことなかったし、汚してしまうと大変だと思って」
「ずっと言いたかったんだ。ラダ。とても綺麗だ。そのドレスに似合う首飾りも付けてくれて嬉しい。俺が選んだんだ」
「……アレシュ様が?」
「贈り物のつもりだ。貰ってくれると嬉しい」
「そ、そんな困ります」
「どうして?」
「だってこんな高価なもの」
ラダはアレシュが選んでくれたことが嬉しくてたまらないはずなのに、首飾りがとても重く感じた。装飾類は持ったことがないのだが、高価なものであることは理解できた。
「俺の気持ちだ。ラダ。好きなんだ。俺と結婚してくれないか?」
「け、結婚?!」
「もちろん、君はまだ十五歳だから、早すぎるし、ちゃんと待つ。でも婚約はしたい。後で、君の両親にも話すつもりだ」
「婚約……」
アレシュの事は好きなのだが、突然言われてラダは混乱していた。
「ごめん。でも気持ちを伝えたかったんだ。それは貰ってくれ」
紫色の瞳がひた向きに彼女を見ていた。
(私もアレシュ様を好き。でも結婚は……)
脳裏に、あの演劇の最後の場面が浮かぶ。
(クリスチナは平民だったけど、騎士で貴族のアレクセイと結婚した。でもそれは物語だから……)
「ラダ。迷惑だった?」
「そんなことはないです。ただびっくりして」
(物語だったらどんなにいいだろう。このままアレシュ様の胸に飛び込んで私もと言えるのに。結婚には身分という障害がある。現実の世界は物語とは違う)
アレシュは少し傷ついた顔をしていた。
けれどもラダはどう返していいかわからなかった。




