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命令1


「明後日スラヴィナ殿下が見学に来られるのだが、みんな、緊張しなくてもいいからな」


(スラヴィナ殿下が?)


 普段は姿を見せない団長が、稽古中にやって何を言うのかと思えば、トンデモナイことでラダは驚いてしまった。主催なのだから、見学にきてもおかしくないが、ラダの他にも団員たちもざわついている。


「皆さん。スラヴィナ殿下は優しい方です。ちょっとした粗相くらいでは怒ったりしませんのでご安心ください」


 そんな中、イオラが口を開き、団員たちは彼女がスラヴィナ付きの侍女であることを思い出したようだ。近場でじかに王女の傍に仕えている者がそう言うのだからと、団員たちは落ち着きを取り戻していく。


(粗相はしないと思うけど。会いたくないなあ)


 スラヴィナがまだアレシュのことを好きだと思い込んでいるラダにとって、イオラの言葉は意味がなかった。


「どうしたの?緊張する?」


 いつの間にヒューが傍に来ていて、ラダに心配そうに聞いてくる。


「はいはい。距離が近いっすよ!」

 

 ラダが答えるよりも先にホンザが二人の間に入った。


「最近よく邪魔するわね」

「ええ。俺はアレシュ様の庭師ですから!」

「そうなの?」

「はいっす!」


 二人がそんなやり取りをしている中、ラダは思い出す。


(そうか、ホンザさんはアレシュ様の……。最近どうしてるのか聞いてもいいかな)


「アレシュ様がスラヴィナ様の護衛として一緒に来ますからね。ラダちゃん、待ってるっす」

「は、はい?」

「ふーん。そういうこと。なるほどね」

「ヒューさん。邪魔はしないでくださいね!」

「邪魔?そんなことしないわよ。人聞き悪いわね」

「絶対邪魔する気っすよね?」


 (邪魔とか、そもそも。アレシュ様はスラヴィナ殿下の護衛なんだから、私と話す暇とかあるわけない。でも顔を見れるからいいか。元気かな。殿下の護衛……。きっと殿下の希望なんだろうな)


「ホンザさん。ラダさんはまだきっと勘違いしたままですよ。もう肝心なこと言わないと意味がないですから」


 二人の会話にイオラが加わってきた。

 

(勘違い?肝心なこと)


 ラダがイオラとホンザを交互に見る。ヒューも興味深そうに二人を眺めていた。


「イオラ様が伝えたのではないのですか?」

「伝えるわけないでしょう。この私が」

「だったら、俺が!」


 そうホンザが言ったところで、監督のバラリーの大声が響き渡った。


「ほら、そこ!稽古再開するよ。しゃべってないで!クリス、アレクセイ、舞台にあがって!」

「はい!」

「え、ラダちゃん、話が!」

「ホンザさん、後で聞かせてください」


(何の話だろう。聞きたいけど、今は稽古に集中しないと)


 気になりながらも、ラダはヒューと一緒に舞台に上がった。




 バジナ小隊長は本日の訓練の終わりに、思い出したように明後日の予定について付け加えた。


「明後日のスラヴィナ殿下の警護は、城外になる。エイドリアンとアレシュは劇場の見学中にも王女について回るように」

「バジナ小隊長!」


 アレシュは堪らず声を上げてしまう。


(劇場……。ラダのところだよな。なんで俺まで)


「なんだ?城外警護も珍しくないだろうが」

「ですが」

「これは命令ですよね。小隊長?」


 異議を申し立てようとしたアレシュの声を封じるように、エイドリアンが質問した。彼は先輩に非難の目を向けるが、エイドリアンは敢えて無視をしているのか、ただバジナ小隊長を真っ直ぐ凝視したままだ。


「もちろんだ。エイドリアンとアレシュに命じる。わかったな!」


 バジナは頷き、しっかりと答える。


「そういうことだ。アレシュ。覚悟を決めろ」

「先輩」

「さて今日はこれで解散」


 小隊長の合図で、第一小隊の面々はそれぞれ帰路につく。厩舎に真っ直ぐ向う者、宿舎に住んでいる者はそこへ戻る。


「じゃあ、またな」


 エイドリアンは城外の屋敷から通っており、他の先輩と一緒に厩舎へ向う。

 その背中を見ながら、アレシュの心に色々な感情が浮かんでは消える。

 ラダの姿を見れるという喜び、けれどももし会って嫌な顔をされてしまったら、という心配。またラダを気に入ってるというエイドリアンの兄のこともある。

 

「アレシュ」


 どれくらいその場に立っていたのか、声をかけてきたのはスラヴィナだった。




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