気が合わない者同士
アレシュはいつもの通り、他の隊員の先輩騎士と一緒に、バジナ小隊長から今日の訓練の説明を受けた。それでは訓練を始めるという言葉の後、小隊長から残念な知らせがもたらされた。
いや、彼にとって残念であったのだが、他の隊員からは歓喜な喜びが漏れた。後、少しばかりざまあみろという声と。
「お昼は宰相補佐官からの差し入れがある。あのお店の料理だ。ありがたく頂戴しような」
「はい!」
アレシュ以外全員がそう返事をして、彼は兄を酷く恨んだ。
(ラダの店でまた余計なことを……)
そうして、暗い表情で訓練をしていると、先輩たちがからかってくる。
「うわあ、物凄いへこんでる」
「まあ、まあ。久しぶりに俺らと仲良く昼食な」
ラダの店に通うアレシュがあまりにも浮かれていて、羨ましいと妬んでいた先輩はげらげら笑いながら、彼に絡んだ。
「お前には悪いけど、ラダちゃん?だっけ?美味しいんだよな。あそこの料理。今度俺も連れて行けよな」
絡むのではないのだが、そう頼むのは二つ年上のエイドリアンで、一番アレシュと仲が良い先輩だった。
「あ、エイドリアン。俺もいきたい。アレシュ、俺も、俺もな。熱々のスープとかあるんだろう。食べたい!」
「……嫌です」
それらを無下に断ったのはアレシュで、先輩たちから野次が飛ぶ。
「なんだよ。その態度。別のそのラダちゃん目当てじゃないんだぞ」
「お前、それ営業妨害じゃないのか?」
「アレシュ。一度くらい俺らを連れていけ。そうじゃないと勝手に行くぞ」
そうエイドリアンから最後は押され、アレシュは渋々頷いた。
「じゃ、そのうち行きましょう。だけど、昼からちょっとすぎた頃ですよ。迷惑かかりますから。後バジナ小隊長から許可を貰わないと」
「そんなの大丈夫だって。バジナ小隊長もきっと行きたがると思うぜ」
「ああ。あの人なら」
そう先輩たちが話していたのだが、いざバジナをラダの店に誘ってみるとなぜか表情を硬くして、お前らだけで楽しんでこいと言われてしまった。アレシュは腑に落ちないと思いながら、来週、先輩たちを連れてラダの店に行くことにした。
(明日、明日はさすがに兄上も邪魔しないだろう。だから明日お昼行ったときにそのことを伝えよう)
会話の話題が見つかり、アレシュはにんまりと笑ってしまう。
「うわ、またアレシュの顔がだらけている」
「誰か、こいつを鍛え直せ」
「俺、やりますーー」
そうして今日もアレシュは先輩たちに訓練という名の扱きを受けることになった。
小隊長を除く六人のうち、三人と模擬戦をしたところで、交代となりアレシュは先輩たちの戦いを見学する。基本練習用の刃引きされた剣を使い、一対一で対戦する。剣を落としたり、相手が降参したらそこで終わりだ。
アレシュはそれなりに身長もあり、体格も騎士として相応しい体つきだ。けれども、第一小隊の先輩に比べると小柄の類にはいった。
技や速さでどうにか戦ってみるが、如何せん、力があり体力だけは十分の先輩には負かされることが多い。
年齢もまだ十八歳。まだまだ伸びると慰められるが、負けるのはやはり悔しかった。
「それでは午前中はこれで終わりだ。各自着替えて、再びこちらへ集合だ。昼食の差し入れがあるからな」
「はい」
バジナ小隊長の言葉で午前中の訓練は終了し、アレシュは先輩たちに共に着替えをするために宿舎へ向かう。
「お、あれ。イオラちゃんだぜ。あの涼やかなところがいいよな」
「あの大きな眼鏡を取ったら、あんな美人だったなんてなあ」
「おいおい、こっちに来るぞ」
第一小隊の面々は廊下を歩くイオラを見つけて、それぞれ好き勝手なことを言っていたのだが、こちらに気が付いた彼女が急に方向を変えて、アレシュを目指して歩いてきた。
(……何の用だ?また何か詰るつもりか……)
アレシュはイオラに対していい感情を持っていない。
前世では王太子として王を諫められなかった彼の無能さに怒り、今はラダに害をなしたところが気に食わなかった。
「アレシュ様、皆さま、ご機嫌よう」
イオラは完璧な淑女の礼をこなし、周りにいた先輩が感嘆の息をもらす。
「アレシュ様とお話をしたいのですが、お借りしてもよろしいしょうか?」
「あ、ああ」
「もちろん」
「なあ」
「アレシュ、二股はよくないぞ」
「そんなんじゃないですから」
イオラの問いに口笛を吹くもの、野次るものがいて、アレシュは怒鳴り返したいところをどうにか堪え、静かに返した。
「皆さま。誤解されないでくださいね。それでは。行きましょう。アレシュ様」
「先輩。先に行っていてください。俺は後から着替えていきますから」
彼女に素直についていくのは癪であったが、ここで断ると先輩たちに何を言われるかわからない。なのでアレシュはイオラの後をついていくと事にした。




