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旅の連れが腐っていました。

首都到着です

「さぁ、ここが我が国の首都、『シルクード隊商連合王国』『王都・カルヴァン』だ!」

「ふわぁ…!」

「おお…」


俺とリヴが同時に感嘆の声をあげる。目の前に広がる光景にただただ圧倒されていた。

目の前に広がるのは、巨大な都市だった。

―――入口から一直線に伸びている大通りとそれに沿って建っている真っ白な石で作られた家々が太陽の光を反射して通りを照らす。

軒先では白い布を天幕とした即席の屋台が並び、そこで様々な商品が並んでいた。


そこに行き交う人々は皆、活気に溢れていた。

だみ声で商品の魅力を喧伝する恰幅のいい店主。

値下げ交渉を仕掛ける邪悪な笑みの老婆。

店先でケンカを始める若い男二人。

そうした街の喧騒すべてが重なりあって、この国全体の音として響いてきた。


エネルギーに満ちているという言葉がぴったりきた。

この国がどういう国なのか分からないけど、少なくてもここに住んでいる人たちから陰鬱な空気は感じ取れなかった。


「ねぇねぇゴロウ!見たことないものたくさん売ってるよ!」


リヴがシャツの袖を引っ張る。


「この国のメインストリートは東西南北をまっすぐ貫いていてな。その交差する小高い丘の上に王族の住まう宮殿が建っているんだ」

「ホントだ!見える!」


リヴはまっすぐ通りの先を見つめている。

つられるように俺も前方を見ると、まっすぐに伸びている大通りはそのまま小高い丘を登っていき、頂上に宮殿と思われる建物が鎮座している。

屋敷や塔の屋根はそれぞれ円錐型かキノコ型に並べられており、その外壁は青やオレンジ色のタイルがモザイク模様に張られているようで、カラフルだった。

ずいぶん遠くにあるはずなのにしっかりと形を認識できるあたり、めちゃくちゃ大きい建物なんだろう。

宮殿といっているし、そういうもんなのかな?


「どこにいてもあの宮殿ならすぐ見つけられるから、道に迷わなくて済みそうだな」


俺がなんということもなしに感想を述べると、隣でイケメン隊長がニヤリと笑みを浮かべた。


「その通りだ少年!商売に限らずあらゆる意味で明確なことはいいことだからな。この街の道々を碁盤の目のように張り巡らせて、その中心の丘に宮殿を築く。そうすることで人々は迷うという人生の浪費をしなくて済むようになったのだ」

「物理的に迷いっぱなしの俺とリヴの現状が身に染みてくる言葉だな。というか、やけに嬉しそうに語るじゃないか。まるで自分の家を自慢しているような感じだぞ」


俺の軽口にイケメンは照れたように頬を掻きながら応える。


「オレは一応この国でそれなりに偉いしな。外に出ないときは仕事場が宮殿だしいろいろ身近に感じるのさ」


「あー、なるほど。ところでこのタイミングで尋ねるのも変なんだが、あなたのお名前を聞いてもよろしいです?」


イケメンが偉い立場にあることを思い出されて言葉遣いがアホの子になる俺。

リヴの話し相手になりながら偉い人と会話するとかスイッチの切り替え難しいに決まってるでしょ。


「おう、そうだった!答えてやりたいのはやまやまだが、これから急ぎで報告に行かなくてはならんのでな。また次会ったときに挨拶させてもらうよ。ザジ、この二人に街を案内してやれ」

「はっ」


ザジと呼ばれた髭の濃いおっさんが返事するのを鷹揚に頷き返して、イケメンは夕方から宵に切り替わる時間帯の大通りを一人まっずぐ馬を走らせて去っていった。


「さ、お二方、馬はここで降りて歩いて街を見て回りましょうか」

「うん!」


ザジの提案にリヴが元気よく返事する。その目は活気あふれる街を捉えて離さなかった。



「ねぇねぇゴロウ!これなに?ボクこれ食べたい」

「なんだろうなこれ…素朴なケーキ?」

「蒸かした芋をペースト状にして焼いたやつですな。ジャムにつけて食べると甘くておいしいですぞ」


髭をたんまり蓄えた体格のいい壮年の男性が横から丁寧に説明してくれた。

名前は、イケメン隊長からザジと呼ばれていたはず。

俺たちはザジさんに案内されて市場内のいろいろな店を見学させてもらっていた。

親切な店主が試食用だとくれた芋ケーキ(仮称)を小さな口で頬張りながらリヴがザジさんを見上げる。


「ところでおじさん、顔中すげぇ髭もじゃなんだけど自分の髭でかゆくならない?」

「いい所に気が付きましたね、お嬢さん。砂漠の男は髭を蓄えていることが恰好良さの証明なのですよ」

「髭があるとカッコイイの?でもイケメン隊長は髭なくても超カッコイイよ?」


リヴの発言にザジさんの目元がスッと細くなる。


「……まったく、近頃の若者は伝統のすばらしさを全く分かっておりません。この髭を古臭いだの、暑苦しいだのバカにしよって…なぜ髭のカッコよさを理解しないのか!」


オイオイオイ地雷踏み抜いちゃったよリヴさん。死ぬわアイツ。


「そ、そうですよね!髭カッコいいですよね!僕もそう思います!」

「そう?リヴはお髭ありすぎてもちょっと困るなー」


俺の顔をじっと見つめながらなんか意味深な発言をするリヴ。

状況をややこしくする天才なんじゃないかコイツ?


美少女からの意味深な態度と発言によって顔が赤くなるのと、その発言内容が素手で熊すら握り潰せそうな体格のザジさんを完全に挑発しているという事実に顔が青くなる。

すごーい!俺の顔、まるで二色信号機みたいだぁ~…!

その間、リヴ同様に俺をずっと見ていたザジさんがゆっくりと口をひらく。


「少年…」

「おわわわあわわあああのですね、さっきのリヴの発言は本心ではないというか、若さゆえの過ちと申しますか、すみません!後で説教しておきますんでころさフゴ!?」


俺の弁明が途中で何かに遮られた。背中に力強く回された腕と、目の前に押し付けられる分厚い胸板…。

これは、抱擁ほうよう…?


「少年、それがし、痛く感動しましたぞ!いやはや異国の少年と侮っていたことをお詫びせねばなりませんな。これほどまでに美的感覚の整っている若者に出会えるとは!もしや、故郷ではさぞ名のある名家の出身ではありませんか?」


俺の初めての抱擁ハグを奪っていった犯人が、熱を帯びた瞳で語ってくる。めっちゃ早口で。

あれだ、理解者をようやく得られたオタクとまったく同じ反応だ…。

俺は救いを求めて後ろにいたリヴを見やる。


「そんなゴロウ…ダメだよ…あのイケメン隊長との関係はどうなるの…ああっ…そんな、でも…」

「何が『ああっ…』だ死ね!いや死ななくていいから助けて!」

「もうちょっと、事の成り行きを見てから行動しようかと思うです…」


コイツ助けようとして庇った一分前の自分を殴って止めたい。なに顔赤くしてガン見してるんですか助けてくださいお願いしますなんでもしますから!


―――そうして俺とザジさんがくんずほぐれつしていた時、突然野太い男の声で怒号が響いてきた。


「なんだとテメェ!もういっぺん言ってみろ!?」




なんか揉め事っぽい気配

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