変質者に疑われたんですけど、俺なにかしましたかね…?
リヴに肩ぐるましてくれるよう迫ってたら、正義の見方っぽいイケメンにばっちり目撃されました。
「少年、そこの少女にいったい如何なる行動をしようとした?返答次第によっては少々手荒なことをせねばなるまい」
声のするほうを見ると、立派な馬に乗った男が張り詰めた顔でこちらを見つめていた。
年齢はたぶん、20代半ばあたりだろうか。白地に金糸と赤をあしらった布をゆったりと体に巻き付けたような服装をして、腰に剣を下げている。褐色の肌が精悍な顔つきをさらに際立たせていた。
つまりめちゃくちゃなイケメンがそこにいた。
「若!我々からお離れなさいますな。万が一のことがあっては大事になりますぞ」
馬に乗った人々が若と呼ばれたイケメンの元に集まってきた。
髭をたんまり顔に蓄えた姿は、まさしく砂漠の戦士というイメージを具現化したようだった。
「して、そちらの異国の少年少女は何者です?」
「わからん。オレも声が聞こえたからここに駆けつけただけだからな。ただ、少年のほうが奇妙な動きで少女に迫っていたのをこの目で見た」
馬に乗った戦士たち全員の目が俺をきつく見据える。
ホントにヤバイ。このままじゃ誤解されたまま殺されるかもしれない…!
「あ、あの」
俺が涙目になりながら必死に弁明を試みようとしたところ、俺の隣からリヴが力強く前に進みでた。
「ああああの、リリリリヴはお、襲われてなんかないよ!ゴ、ゴロウはトッテモイイヒトダヨ!」
俺以上に汗ダラッダラでテンパっている小動物がおった。
リヴがガタガタ震えながら弁明しようとすればするほど、馬上の男たちの目つきが険しくなっていった。
「リヴちゃんフォローありがと。でもちょっとそれ以上喋んないでくれると嬉しいかなぁ?」
なんで俺よりテンパってるんだ。逆方向に効果抜群の主張になってるじゃねぇか。
疑いから確信の目に変わっていく騎馬隊の人たち。
そのうちの一人がゆっくりとこちらに向かってくる。
手が自然な動作で腰に下げている剣の柄を握っている。
あ、詰んだわこれ。
「…まぁ待て。彼は人さらいじゃなさそうだ。そこの少女が震える足を引きずってまで彼の前に出ようとしてる」
「え?どういうこと?」
騎馬隊の中心にいるイケメンの声に俺含めて、その場にいた全員がリヴのほうを見た。
リヴの足は傍目から見てもはっきりと分かるぐらいに震えていて、それでいてなんとか前に進もうと俺のほうへ身体を傾けていた。
「ゴロウは何も悪くないもん」
笑顔を作ろうとしてもひきつってうまく笑えないリヴを見て、なぜか胸が締め付けられるような感覚になった。
「……薬かなにかであの少女が洗脳されている可能性は?」
「ここまで意識がはっきりとしているんだ。洗脳も薬もないだろう。あの少女は確固とした自分の意志で彼を守ろうとしたように思う。震えて怯えながらも前に出ようとしたところが何よりの証拠だろう。」
「確かに、奴隷であればあの場面なら一目散に逃げるか我々に助けを求めるはずですな」
俺に疑惑の目を向けていた騎馬隊の人たちから張り詰めた空気が緩んでいく。
そうして、騎馬隊の集団のリーダーと思しき人物―――イケメン―――が俺たちの方へ進みでたあと、馬から降りた。
「少年、疑ってしまって悪かった。たいへん器量のよい少女が襲われてると勘違いしてしまってな。つい狭隘な義侠心が出てしまった」
若と呼ばれていたイケメンは馬から降りたあと、俺に握手を求めながら謝罪してきた。
笑顔がとてもまぶしい。弁明にさりげなくリヴを褒め称える言葉を添えるとか、もう何から何までスマートでビビる。
これもう世の女性たち全員が堕ちても納得だわ。
「失礼な!リヴは少女じゃないよ!立派な大人なんだよ!」
「怒る箇所が斜め上すぎる…」
堕ちなかった猛者がここにいた。
世の女性たちから自主的にあぶれた藍髪の少女が、頬をハムスターみたいに膨らませて怒っていた。
「お前、どこから見ても少女だろ。14才ぐらいだろ?」
「しっつれいな!リヴは立派な16才なんだよ!」
「うっっっっそだろお前?!俺と2つしか違わねぇのかよ!?」
中学二年生ぐらいだと思ってたら高校一年生の年齢まで育ってたらしい。え?この精神年齢で?
「ちょっとゴロウ!今失礼なこと考えてるでしょう?!失礼なことを考えたほうが失礼なんだよ!」
「〝バカって言ったほうがバカ〟みたいな慣用句を使いたいんだろうが、事実を述べてるだけだぞそれ」
「ゴロウのおたんこなす!ゴロウには一生モテない呪いを掛けちゃうんだからね!」
「未来に生きる希望を無くすタイプの呪いはやめてお願い!」
呪いの質が悪すぎる…!
「そろそろ君たちのことを聞いてもいいかな?」
そばまで来ていたイケメンがゆっくりと話しかけてきた。
俺たちのバカ話がひと段落するまで待ってくれていたらしい。性格までイケメンかよ。
「まずいろいろ聞く前に、君たちは我々の言葉が理解できているように見えたけど、違うかな?」
「あ…そういえばそうだ。どうしてそんなに流ちょうな日本語が話せるんです?発音も完璧だし」
「ニホンゴ?あぁ、やはり君たちには我々がそちらの言葉を話しているように聞こえるのか」
「どういうこと?」
独り言を言い出したイケメンにリヴが質問を投げかける。
「君たち異邦人にはあまり理解できることではないかもしれないが…」
「何気に失礼だぞコイツ」
「ゴロウ、声を抑えるんだよ」
イケメンは俺たちの会話に気を悪くした風もなく、袖口から何かを取り出して俺に手渡した。
それは、五百円玉大ほどの大きさで虹色に光る宝石だった。
「うお…めちゃくちゃキレイだけど、なんでいきなりこんな宝石くれるんだ?」
「ゴロウ、もしかしてこの人、ぼーいずでらぶな展開なんじゃ…!」
リヴが隣で熱っぽく俺とイケメンを見比べている。この子砂漠に埋めたい…埋めたくない?
「何を言っているのかまったく分からないが、それは魔導伝達石と言ってね。異国のどんな言葉でもその場で翻訳してくれたり、遠くにいる人間とコミュニケーションを取れるようにしてくれる我が国とっておきの特産品だ。オレと君たちがこうして自然に会話できているのもすべて、マナ・スピーカーの賜物ってわけさ」
「……マジ?そんなドラ○もん並みの便利道具なのコレ?」
「でも、この宝石を貰う前からリヴ達とお兄さんは会話できてたよ?それに今もリヴはその、マナ・スピーカーっていうのを持ってないよ?」
リヴが珍しく的確な質問をしてきた。俺に渡された宝石がイケメンからの求愛表現じゃなかったからか、若干ぶっきらぼうな声音なのが頭痛いけど。
「そう、そこが君達のお手柄と言うべきかな。十中八九、このあたりは魔導伝達石の一大鉱脈地帯だろう。地面に足を着けているだけでこうして異国の者同士で会話できているんだ。かなり大規模な鉱脈とみて間違いないだろう」
「へぇ…。それはすごいけど、俺たちのお手柄って?」
「オレたち『砂漠の民』だけで探していると、当然だが使う言葉が同じで魔導伝達石が何処にあるのか見当つかないんだよ。かと言って魔導伝達石は我が国の領内のみで産出される宝物。やすやすと異国の者と組んで発掘などできるはずもない」
「なるほど。あれ?そうなるとあなた達にとって俺たちは『異国の者』になるんだけどそれは…」
俺の心配にイケメンはニコりと微笑む。そして手が腰に下げている剣の柄を握る。見渡すとイケメンの部下の方々も皆ニコニコしながら剣を抜く姿勢で止まっていた。
「あの…?」
「お手柄を上げた君たちを是非、我が国でもてなしたいんだ。一緒に来てくれるかな?」
「いや、ちょっと僕たち急用がありまして…」
「それは大変だ。急いでいるなら是非とも我が隊の馬に乗りたまえ」
「あの…行き先は…?」
「我が国一択だ」
「結論が変わってないんですが…」
俺の、蚊の鳴くような声で発した抗議は風に流れて消えていった。
現在の状況:ご褒美として強制連行らしいですね。なんですかこの状況? by主人公