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48.帰還

「っとと!」


「大丈夫か?」


「うん。ありがとう」


 足元がフラフラだ。

 どうしてだろう。

 気が抜けたからかな?

 とにかく、なぜか1人で歩けないほど、私は疲労してしまっていた。

 シズクに肩を貸してもらいながら、ようやく立っている状態だった。


「いやそれは別にいいんだけどよ……急にどうしたんだよ?」


「うん……アイツとは前にちょっと色々あってね……」


「そもそもシステムとどうやったら揉められるんだよ……」


「アイツはシステムなんだけど、ただのシステムじゃないんだよ……」


「なんじゃそりゃ」


 それにしても、やってしまった……

 いくら売り言葉に買い言葉とはいえ、まさか全冒険者に通知をしてしまうだなんて……

 いや、きっとまだ大丈夫!

 『Free』の仕様上、名前なんて自分から名乗らない限り、そうそうバレることなんてないんだ。

 だから別に焦る必要なんて……ないよね?

 もし仮に見つかったとしても、単なる同名だと突っぱねれば……

 やっぱり、改名した方がいいのかな?

 いやでもさすがに……ああ、ダメだ。考えがまとまらない。

 今は深く考えるのはやめておこう。


「さて……じゃあとりあえず、街に戻ろっか。さすがにこれ以上は戦えないや」


「だな。あ~でも、俺もあのエリアボスに一撃だけでも与えたかったぜ。結局最後まで当たんねぇとか……情けねぇ!」


「それだけ警戒されてたってことだよ」


「ん~とりあえず、そういうことにしておくかぁ……しかし、その点カノンは凄いよなぁ……特に最後なんてまるでアイツの来るところがわかってるみてぇな動きだったもんな!」


「え? そ、そうかな?」


「ああ! 急に回り出した時は、何事かと思ったんだけどなー!」


「ハハハ……」


 実際、本当に来るところが見えてたんだよねぇ……

 あの現象、一体なんだったんだろう?

 たしか血が目に入ったタイミング起きたような?


 私は試しにあの時と同じ状況――つまり、片目をつむって周りの見渡してみた。

 すると……


「うげぇ……」


「どうしたんだ? やっぱどこか具合でも悪いのか」


「あ、う、ううん。なんでもないから安心して」


「ならいいんだけどよ……」


 あの時と同じように、物体がブレて見えたのだった。

 どうやら、片目になることがあの現象を引き起こすトリガーということなのだろう。

 そして、ほぼ同時に私を襲う倦怠感。

 この感覚は知っている。

 【光魔法】を使った時と同じ感覚だ。

 つまり、この現象は精神力を消耗すると……どうやらそういうことらしい。

 でも、これは果たして魔法と呼んでもいい代物なんだろうか?

 私がマリアさんからもらったスキルにも、そういった現象の説明はなかった。

 まさか、マリアさんに限って、説明不足ってことはないだろうし……だって、仮にもあの【美女屋】の店主なんだよ? ありえないと思う。


「と、とにかく、出発しよう! アクアもずっとあのままじゃかわいそうだし」


「そうだな。行くかー!」


 それにしてもエリアボス……か。

 未だに信じられないが、私達は本当にエリアボスを倒しちゃったんだよね。

 しかも3人と1匹で。

 シズクは1発も当たらなかったと悔しそうにしているけど、要所要所では凄く助けられていたのは言うまでもない。もちろん、【虎吉とらきち】にもだ。

 現に私が人狼の攻撃で血を出していた時も、必死で近寄らせないようにフォローしてくれていたんだしね。

 まさに3人と1匹で勝ち取った勝利。

 そう言い切って間違いない戦いだった。


 なのにあのシステムときたら、よりにもよって私だけ名前を公表するとか。

 絶対わざとなんだろうなぁ……だってあのシステムのやりそうなことだもん。

 単にあった事柄だけを通知すればよいものを……本当に意地が悪いというかなんというか……

 ダメだ……また腹が立ってきた……もうシステムのことを考えるのはやめよう。

 報復手段を考えるのもとりあえず後回しだ。

 とにかく、疲れた……


 こうして、私達は【ニューディール】へと帰還することにした。

 私は【虎吉】の背を借りて、アクアはシズクにおんぶされながらだったけどね。

 【虎吉】の毛はフカフカのモフモフだった。

 それもう、凹んでいた気分を振り払うかのようにワシャワシャと!

 十分に堪能させていただきました! スッキリ!


 街に着く前にはアクアが目を覚ましたので、【虎吉】はインベントリに戻して、今度は私がシズクの背中へ。

 その際、【虎吉】はお腹が減ったのか例のアレを私にねだってきた。

 本当によく食べるなぁ……色んな意味で。

 まぁそのお陰でインベントリ内のアレの個数は大幅に減少し、今やなんと146個となっていた。

 あんまり減ったように感じないのは、あの集団戦や人狼戦が終わったあとにも若干生産されてしまったからだ。

 そう、人狼はその約半分がアレへと変貌を遂げてしまっていた。

 なにせ、上半身がねぇ……それはもうパーンって……

 ええ、すべてやりすぎた私が悪いんです。ごめんなさい。

 一応、下半身はインベントリに入っているんだけど、果たしてギルドは買い取ってくれるのだろうか?

 不安しかない。


 ……言っててなんだけど、これだけ聞くとサイコだなぁ……下半身だけて。

 ちなみに、私がそれを見て平気でいられるのは、断面などがそれほどリアルに描写されていなかったからだ。

 これも18歳以下はデフォルトで設定されているらしい。正直ありがたかった。

 でもそれならアレの描写ももうちょっと穏やかにならないものかなぁ、と思ったり。

 断面はダメで、アレはOKとか……運営の判断基準はよくわからない。


「ここでいいよ。シズクおろしてもらえる?」


「もう大丈夫なのか?」


「うん。歩くくらいなら大丈夫」


「そっか……なんなら門の中まででもいいんだぜ?」


「気持ちは嬉しいけど、それはさすがに恥ずかしいよ」


「俺は別に構わねぇんだけどなー」


 なんでちょっと、名残惜しそうにしてるんだろう。

 私をおぶっても重いだけだよ?

 いや、別に太ってるってわけではないよ!

 そう絶対に!

 ……私は誰に弁解しているんだろう。


 えっと……アクアはなんで屈んで私に背中を見せているのかな?

 気持ちは嬉しいけど、病み上がり(?)のアクアに背負われるわけないでしょ。

 そもそも私よりも体格が小さいんだから、無理はしないでね。


 さて、ともあれようやく街へ帰ってこれた。門はもう目の前だ。

 街に入ったら、一旦ログアウトして夕飯まではゆっくりゴロゴロしよう。そうしよう。

 今の時間は……うわっ、もう7時じゃん。


「私、街に着いたら先にログアウトするね」


「そっかーもう夕食だもんねー」


「2人もちゃんと食べるんだよ」


「ああ」


「わかってるよ、もーお母さんみたい」


「それだけ2人の体を心配してるんだよ?」


「ムフフゥ。カノンありがとうね!」


「ちょ、ちょっとあんまり私の名前を大声で言わないでね」


「え? どうしてー?」


 そっか……アクアは寝てた……っていうか気絶してたから、知らないんだよね。


 私は倒してからの経緯をアクアに説明した。


「うわーまた有名になっちゃったねー!」


「うぅ……あんまり言わないで……全然嬉しくないんだから……とにかく、そういうことだから気をつけてね」


「わかったー!」


 あだ名……考えた方がいいのかなぁ?

 んーそれも含めて全部後回しだ後回し!

 やっぱり、問題は先送りにするに限るね!

 どんどん積み重なってるともいうんだけどさ……


「そういや、次、何時頃ログインする予定なんだ?」


「ん~少し遅くなりそうかなぁ? とりあず21時頃でいい? 遅れそうならまた連絡するね」


「「オッケー」」


「――まぁ!」


「ん? なんだ?」


 誰かの叫び声がどこからか聞こえてきた。

 なんだろうと思い、私達は周囲を見渡すと、前方から物凄い勢いでこちらに向かって走ってくる人影を発見。

 どんどんと近づいてくる。

 知り合いでは……ないよね? 見たこと無い顔だ。

 一体なんなんだろ?


「――様ぁ! お姉様ぁ!」


「うわぁ!」


 その子は、そのままの勢いでシズクへと突進。

 ガシッと音が聞こえるほどに両手でしっかりとシズクを捕まえた。

 え? 何? どいういうこと?


「あぁ~! シズクお姉様ぁぁあ!」


「な、なんだ!?」


「あー! お姉様お姉様ぁ!」


「こ、こらッ! 離れろ!」


「あーお姉様の匂いがする! 現実なのよね! 夢じゃないんだよね! スーハースーハー! クンカクンカ! あーシズクお姉様ぁ!」


「こいつ聞いちゃいねぇ!」


 いやホントにどういうことっ!?


 私達の前に変態が現れた。




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