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45.偉業

本日は3話投稿となっております。

この話は2話目です。ご注意ください。

「どうだっ!」


 人狼は私の攻撃をまともに受け、そのまま吹っ飛んだ。

 倒れたまま動かない。

 ……やったか!?

 わからない。

 でも、そんな確認はあとでいい!

 それよりもなによりも、私には最優先することがあった。


「アクアッ!」


 私達はアクアの元へ駆け寄る。

 動かない。けど、息はあった。

 当然だ。まだ死に戻りしていないのだから。


 私は即座に【光魔法】を唱えた。


 淡い光がアクアの全身を包む。

 名前を見れば、徐々にではあるが真っ赤だった名前が黄色へと変わっていっているのが確認できた。

 同時に私を襲う疲労感。結構きつい。

 たしかに多めに精神力を込めはしたんだけどさ。

 魔法って便利だけど、大変だ。

 アクアはこれを連発していたんだよね……ものすごい精神力だ。

 でもそんなことより何よりも。アクアが無事で本当によかった。


 私は黄色を超え、黒くなったアクアの名前を見ながら安堵していた。


「こんなことなら、俺も【光魔法】とっときゃよかったな……」


「いまさら言っても仕方ないよ。私が使えただけでも今はよしと思わなくちゃ」


「……そうだな。ところで、いつ気がつくんだろうな」


「どうだろう。起こしても大丈夫なのかどうかすらわかんないね」


「しばらく、そっとしておくか」


「……そだね」


 私はアクアの頭をゆっくり撫でながら、その寝顔を見守っていた。




『ガウッ!』


「どうしたんだ【虎吉とらきち】……ってマジかよ……」


「どうしたの? ってうわぁ……」


 【虎吉】に呼ばれて後ろを振り返れば、そこには人狼が立っているのが見えた。

 まさかあの攻撃を受けても、またすぐに立ってこれるだなんて。タフにもほどがある。


 ただ、どうやら相当のダメージを負ってはいるみたいで、脇腹を抑えながら、足元はおぼつかない様子だった。


「アクア……もう少しだけここにいてね」


 私はそっとアクアを地面に寝かせる。

 そして、【虎吉】に向かって話しかけた。


「【虎吉】、悪いけど、アクアを守っててもらえるかな?」


 これは保険。

 人狼が私達を無視してアクアを襲うという万が一の事態だけは避けるため。

 それだけは、絶対に阻止しなきゃいけない。

 だから【虎吉】にお願いした。


 【虎吉】はしばらく、私の目を見つめていたものの……


『ガウッ!』


 そう一声鳴くとその場におすわりしてくれた。

 どうやら同意してくれたみたいだ。よかった。

 これで心置きなく戦える。

 【虎吉】は耐久無限装備だ。

 こと守りに関しては、私達よりも万全だろう。


「じゃぁシズク、行こっか」


「ああ」


「勝手に【虎吉】にお願いしちゃってごめんね」


「構わねぇよ。丁度俺も同じこと言おうと思ってたからな」


「フフッ……」


「ハハッ……」


 私とシズクが人狼へと歩を進める。

 さぁ今から一緒にとどめを刺しに行こうか。




「まだこんな元気があるのかこいつっ!」


「ってか、こんなの聞いてないよ!」


 私達は、苦戦していた。

 あんなにキメにキメたのに……恥ずかしいじゃないかこのやろう!


 人狼は確かにフラフラだった。

 だからなのだろう。

 こいつ、急に4足歩行になりやがった!


 そのせいで、人狼の体勢が低くなったため、余計に攻撃を当てづらくなってしまったのだ。

 人狼ってことは半分狼ってことだもんね。

 こんなフォームチェンジもできるだなんて。

 最初に言っといてほしかったよ。

 まぁ言われたところで、こっちは何もできないんだけどさ。


「どりゃあ!」


「当たれコンチクショウ!」


 しかし、この人狼さっきから避けてばかりで攻撃をしてこない。

 一体何を狙っているのだろう。

 回復待ち?

 逆に不気味だった。


 油断……では無かったと思う。

 戦闘自体には特に気をつけていた。

 でも、うっかりしていたことを1つ私は思い出していた。


「やばっ!」


「カノン! お前血が!」


 そう、頭の血だ。

 拭きとるのを忘れていたのだ。

 というか、アクアに必死で【光魔法】による回復すらしていなかった。

 で、なんでそんなことに気づいたのかというと。


 その血が私の片目に入り、視界を半分失ってしまったからだった。


 まずいなんてもんじゃない。

 片目だけでなんてとてもじゃないが戦えない。

 まず距離感をとりにくくなった。

 これは近距離武器の私には致命的とさえ言えた。


 早く拭き取らないと。

 でも、目の前の人狼は当然そんな暇を与えてはくれなかった。

 むしろ、これをチャンスと見たのか、私への攻撃を開始しだしたのだ。

 本格的にまずかった。


「あ、あれ?」


 同時に違和感。

 現在、私は片目が見えない状態だ。

 だからこそおかしかった。


 物が二重に見えた。

 風で揺れる草木が、シズクが、そして、今まさに攻撃を仕掛けてこようとしている人狼が。


 自慢じゃないが私は両目とも視力は悪くない。

 だから当然乱視でもない。

 なのに物がブレて見えた。


 いや、正確にはまったく同じブレ方ではない。

 なんというか……残像というか、そんな感じ。

 動きの後ろに、同じような動きをした物が追っかけてきている……みたいな?


 物凄く奇妙な光景だった。


「カノン危ねぇ!」


「えっ?」


 しまった!

 目前に迫る4足歩行の人狼は私の喉元に向かって飛びついてきていて……私の喉笛を噛みちぎって……なかった。

 あれ?

 今たしかにそう見えたはずなのに。

 その直後、私がさっき見た人狼の行動とまったく同じ軌道を沿うように残像が動いてきていた。


 え? まさか……


 私は咄嗟とっさに横に避ける。

 直後、私の横を通り抜ける人狼。


 そこで気づいた。

 残像じゃなかったんだ。

 残像だと思っていた者こそ、本体だったんだ、と。

 なぜか残像が先行していたのだ、と。


 ってことは、これってもしかして……


「お、おいカノン! 何やってんだ!?」


 私はどんどんと本体を突き放し、先行する残像を確認しながら、回転を始めた。


 1回転……2回転……3回転……


 大丈夫、まだ回れる。

 これもすべて【宛転えんてん】のおかげだ。

 足がよりスムーズに動く。

 身体がより自然に思い通りになる。


 4回転……そして、5回転。


 たぶん、今の私の身体能力だと、この回転数が限界だろう。

 別に回ろうと思えば、まだまだ回っていられた。

 もちろん、先に目が回ってしまうので、際限なくとまでは言えないけれど。

 とにかく、身体的にはまだまだ余裕があった。

 だが、これ以上は回転速度の方が上がらなかったのだ。

 今の私の最高速度。

 つまり……私の現段階での最大の攻撃。

 それがこの5回転目。


 私は残像から寸分違わず移動してくる人狼に向かって、残像が残す軌跡と本体との間にそっと相棒を挟み込んだ。


 ――ッッッッッパーーーーンッ!!


 途端に響く盛大な破裂音。


 やば……これ……私またやりすぎちゃったかもしれない。


 そう思った時にはすでに何もかもが終わったあとだった。




『おめでとうございます。貴方達は【ニューディール森林】のエリアボス【マーヴェリック】の討伐に成功しました。この功績を全冒険者に通知いたしますか?』


 私がボーっとしていると、そんな声が辺りに響き渡った。


「シズク……これ……」


「ああ、いわゆるシステムメッセージってやつだな。声だけど」


「システムメッセージ……」


 そう、システムメッセージだ。

 つまり……


「やっと会えたなこのやろう!」


「ちょっ!? きゅ、急にどうしたんだよ」


「やいやいやい! ここで会ったが百年目! 忘れたとは言わせねぇぞ! 覚悟しやがれってんだ!」


 私の中にあるのかどうかすらわからない、おそらく無いであろう江戸っ子の血が思わず騒ぎ出してしまうくらい、私は憤っていた。


『……お久しぶりですカノン様。ご機嫌麗しゅう』


「いまさらご機嫌を取り繕ぉったってそうはいかねぇぞ!」


「ほ、ホントにカノンなんだよ……な?」


『カノン様。そうお気をお立てなさるな。殿中でござるぞ』


「てやぁんでぇべらぼぅめぇ!」


「ち、違う! こんなのカノンじゃねぇ!」


 相変わらず、調子のいいシステムだこと。

 だが、江戸は江戸でも私は下町の方なんだ!

 そんな武士が行くようなところの言葉で諭されても、私の心には響かないのだ!


『まぁそんなことよりカノン様。いかがなさいますか?』


「てやぁんでぇ! もちろんやってやろうじゃねぇか!」


『……承知しました。では全冒険者に通知いたしますね』


「「……え?」」




【ワールドアナウンス】

 本日未明、カノン様率いる3人パーティーが、【ニューディール森林】のエリアボス【マーヴェリック】を討伐したことが判明いたしました。

 調べによりますと、武器は鈍器のようなもので、本人曰く『カッとなってやった。だが後悔はしていない』とのこと。

 当局は今回の件を重く受け止め、各報酬などを用意するとしております。

 皆様も、カノン様に引き続きますよう、ご期待しております。




 私達の目の前にはそう書かれたウィンドウが突如として開かれた。

 システムが言うには、何やらこのメッセージを全冒険者へと通知したと、そうのたまっているらしい。

 文面がまるで犯罪者扱いなのは私の気のせいだろうか。

 いや、たしかにカッとはなってたし、後悔はしていないんだけどさ。


「シ……シ……シ……」


 私は震えていた。

 別に感動しているわけでは一切ない。

 むしろ逆だ。

 怒りたくて怒りたくて震えているのだ。

 

「システムゥウウウウ!! なんてことをしてくれたんだぁぁああ!!」


『はて? なんのことでしょうか? 私はカノン様に言われた通りの行動をとったまでですが?』


 う、うぜぇ……

 見える! 私には見えるぞシステム!

 キョトンと顔に書いてあるくらいにとぼけた顔をしているお前の姿が!


『キョトン』


「口に出して言いやがった!」


 どこまでも人を小馬鹿にしやがって……


「最初といい、今といい、どこまで人を馬鹿にすれば気が済むんだ!」


『バカにした覚えはございませんが……現に私が申し上げました通り、それはとてもいい武器でしたでしょう?』


「うぐっ……た、たしかに……」


 この相棒には今まで何度も助けられている。

 今では名実ともに相棒なのだ。

 く、くそぅ……何も言い返せない。


『それに今回も何も間違ったことは申し上げておりません。あ、報酬に関しましては、追って送付させていただきますので、ご確認くださいますようよろしくお願い申し上げます候なれば』


慇懃いんぎんっ!」


 やっぱり、私はこのシステムを好きになれそうになかった。




3話目もこの話と同時に投稿しております。

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