挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
Free 〜フライパンから始まるエトセトラ〜 作者:もじゃ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

45/51

44.人狼

本日は3話投稿です。
この話は1話目ですのでご注意ください。
『ガウガウッ!』

「ん?」

 【虎吉とらきち】が急に険しい表情で吠えだした。
 さきほどのまでの雰囲気とはまったく違う。
 剣呑だ。
 私達は【虎吉】が吠えている方向に視線を向けるとそこには……

「あれ……何かな?」

「人……じゃないよね?」

「獣ではあるみたいだけどな」

 森の中から、ゆっくりとソレは現れた。

 一言で言い表すなら、人狼。2足歩行の獣。
 サイズは大体2メートル弱くらい。
 そして……ソレはどうやら、こちらへと向かってきているみたいだった。

 うわぁ……がっつりこっちを見てる。
 きっと見逃しては……くれないんだろうなぁ。

「ボス……的な?」

「っぽいな」

「っぽいぽい」

 私達はそう茶化しながらも各々が戦闘体勢へと入っていった。



 ボスといえば、思い出されるが初日に倒された【ニューディール】から西に行ったところにある【ニューディール高原】にいたというエリアボスだ。
 たしか超巨大な人型の牛、いわゆるミノタウロスという奴だったはず。
 まぁ、何百人の冒険者が集まった軍隊という名の力技にあっけなく倒されてしまったわけだけど。

 でも、それは裏を返せばエリアボスの力はそれくらいの人数に相当するということで。

 私はエリアボスを直には見ていない。
 でも、間近に迫るこの人狼がそれに類する存在であることはなんとなく察することができた。
 なぜなら、こいつは私達に近づきながらも、同時に観察・・してきているのだ。
 これは今まで私が戦ってきたモンスターには見られなかった行動。

 ――知性。

 明らかにこいつにはそれが感じられた。 
 思えば、西のエリアボスにもそういったものがあったという。

 こいつはきっと強い。
 少なくともあの時のおっさん以上だろうなぁ。
 ってか、あの時のおっさんは手を抜いていたわけだから、そもそも比較対象になんてならないのだろうけど。

 ボス戦を前に私はそんな呑気なことを考えていた。

「アクアどう? いけそう? 疲れてない?」

「全然……とは言えないけど、大丈夫だよ」

「……そっか。じゃぁ最初お願いしてもいいかな?」

「任せて!」

 あのアクアが断言しないということは、おそらく相当疲れているのだろう。
 ごめんね。無理させちゃって。
 でもたぶん、こいつには多少無理でもしないと勝てそうにないと思うから。

「シズク……はいけそうだね」

「まだまだいけるぜ?」

「フフッ。頼りにしてるね」

『ガウッ!』

「うん。もちろん、【虎吉】もよろしくね」

『ガーウッ!』

 本音を言えばもう少し休んでいたかったんだけどなぁ。
 さて、ではやりますか。



『【ウォータートルネード】っ!』

 アクアの必殺技が戦闘開始の合図だった。
 綺麗な螺旋を描きながら、人狼へと襲いかかる……が。

「嘘っ!?」

 避けられた!?
 信じられなかった。
 まさか初見であの速度に対応できるなんて。
 化物か! あ、化物なのか。

 人狼は【ウォータートルネード】を直前で躱し、私達に向かってダッシュしてきた。
 速い!
 あっという間に距離がなくなり近距離戦へ。

『ガウッ!』

 迎え撃つのは【虎吉】。
 その鋭い爪で人狼を切り刻もうとしたのだが……

「なんなんだよこいつっ!」

「シズク危ないっ!」

「わかってらぁ!」

 【虎吉】の攻撃もあっさりと避け、そのままシズクに接近。
 シズクが【砕辰さいしん】を振るうがそれも避けられた。
 見かけから足は速そうだとは思っていたけど、この人狼は予想を遥かに超えていった。
 速すぎる!

 そして、私の目の前に。

「「カノンッ!」」

「こんにゃろう!」

 人狼が初めて見せる攻撃モーション。
 どうやら最初から狙いは私だったらしい。
 私も負けじと攻撃するが……

 ――ガンッ!

「うわっ!」

 打ち負けた。
 吹き飛ばされはしなかったものの、体勢を崩してしまう。
 どうやら、単純な力勝負では話になりそうにない。
 スピードだけじゃないのね!
 ここままだとまずい。

 見上げるとそこには、追撃の体勢に入った人狼が。

「うひゃぁ!」

 その爪を相棒で間一髪で受け止めた私は、後方に吹っ飛ばされかけた相棒の勢いそのままに、体を支点にして、相棒を回転させ――

 ――ガインッ!

 反撃したものの、人狼に防がれる。
 これくらいじゃさすがに無理か。

 でも、動きは止めたよ。

「どりゃぁあ!」

 シズクが【砕辰】を再度振るうがすでに人狼の姿はそこになかった。
 見れば、大きくジャンプして飛び退いたようで、10メートルほど先に着地しようとしている。
 でも、その距離ならまだ射程範囲なんだな、これが。

 ――パンッパンッパンッ!

 着地と同時に、アクアが発砲。
 これはさすがに避けられなかったのか被弾。
 どうよ!?

「……あんまり効いてないっぽい」

「銃弾通さないってどんな体の作りしてんのよ……」

「すばしっこいわ、パワーもあるわ、体は堅ぇわ……反則じゃね?」

『グルルルゥ……』

『……』

 無言で体を軽く払うと、再度戦闘態勢へと入る人狼。
 えっと……私達本当に倒せるのだろうか。 



 戦闘開始から十数分。
 私達は攻めあぐねていた。
 まず、【虎吉】とシズクの攻撃が当たらないのだ。
 躱すところをみると、当たればそこそこのダメージは入りそうではあるんだけど、とにかく、躱して、躱して、躱しまくられて、当たりそうな時も受け流された。
 アクアの銃による攻撃はいまいち効果が薄く、頼みの【ウォータートルネード】に関しては、使う仕草をすれば、即座に潰される始末。
 私に関しては、回転さえさせてもらえなかった。
 なので、実質私は防戦一方。だって打ち負けちゃうんだからね。
 で、それだけ戦ってでた結論。

「こいつ……絶対私達の戦い方見てたよね」

「まず間違いねぇな」

「ずるいっ!」

『ガーウッ!』

 思えば初撃の【ウォータートルネード】を躱せた時からおかしかったのだ。
 あの攻撃は【水魔法】と【風魔法】の【混合魔法】。
 つまり【風魔法】による速度アップがされているのだ。
 しかも、初撃ということもあり、アクアも余分に精神力を込めていたらしく、普段の倍の速度くらいはでていたはず。
 なのにそれをあっさり……とはいかないまでも、直前で躱せたのだから。
 シズクや【虎吉】、私に関しても、今までほぼ完璧に対応されていた。
 おそらくだけど、私達が集団戦をしている時に森の中から見ていたのだろう。
 いやらしいというかなんというか、知性があるってだけでモンスターってここまで強くなるものなのか。

「さて、どうしようか……なっ!」

 ――ガインッ!

 人狼の攻撃。
 人の話くらい最後まで聞いてほしいんだけど!

 こいつは終始、執拗に私を攻めてきていた。
 まるで、私さえ倒せばあとは余裕とさえ言うように。
 過大評価だとは思うけど、その分2人と1匹への攻撃は激減しているのだ。
 役割的には私は前衛の盾職といったところなのだろうか。
 そのせいで、せっかく新調した防具はすでにあちこちが傷まみれだった。

 攻防は続いているものの、戦況は依然膠着状態。
 お互いに決め手がない感じ。
 エリアボス……かどうかはわからないけど、おそらくそれに類するクラスのモンスターとこうして戦えているのだから、善戦していると言えなくもないのだろうけど。

「あ……」

「「アクアッ!?」」

 そんな中、突如アクアがグラついたかと思えば、その場に座り込んでしまった。
 見れば顔色が青い。相当無理をしていたのだろう。
 人狼戦では初撃以外魔法を使わせてもらえていないとはいえ、準備段階でも少なからず精神力は消耗するのだ。
 前回の集団戦と合わせればこうなるのも仕方がないのかもしれない。
 でも、今はそんな心配をしていられなかった。
 だって、アクアの前で、今まさに人狼が攻撃を仕掛けようとしている直前だったのだから。
 私達はその武器の性質上、どうしてもお互いに距離をとる必要があった。
 だから、アクアの異常に気づくのも遅れてしまったし、今も人狼の攻撃を代わりに防ぐにはあまりにも距離が遠すぎた。
 ダメだ、間に合わな――

「……なんてね」

 そう言うや否や、アクアは人狼の目の前で両手を合わせる。
 途端に巻き起こる暴風。
 な、何それ!?

「くらえっ!」

 アクアが起こしたであろう暴風は今まさに攻撃しようとしていた人狼を巻き込んだ。
 咄嗟に両手で顔面をガードしているようだが、その分全身には無数の傷が刻みつけられていく。
 吹きでる血。
 そして、今回の戦闘で初めて膝をつく人狼。
 どうやら、かなりのダメージを負ったらしい。
 アクア、グッジョブ!
 でも、今のは一体……

「【風魔法】なら見えにくいからね、身体の後ろで作ってたんだー。どう? 【風魔法】同士の【混合魔法】は! 痛いでしょ!」

 なるほど、そういう使い方もできたんだ。
 【混合】は何も別種同士を混ぜ合わせるだけのスキルじゃないってことなのね。
 どこでそんなことを練習してたんだろう。

「ぶっつけ本番だったけど、上手いこといってよかったぁ!」

 今思いついたんだ……
 ん? ってことは、あのフラついたのも演技ってこと?
 いくらなんでもギャンブル過ぎるでしょ!

「アクア~心配になるからそういうことはあんまりやらないでほしいな」

「もうダメかと思っちまったじゃねぇか!」

『ガウッ!』

 私達の抗議にアクアは疲労感を出しながらも、いつもの笑顔で謝った。

「ごめんごめん。でも、思いついちゃ――」

 アクアの声が聞こえたのはそこまでだった。

 アクアの体は十数メートル吹き飛び、地面に着いたそのあともその身は止まることなく、跡をつけながらしばらく転がって……止まった。

「「……ア、アクアァァアア!」」

『ウォオオオオオオオン!』

 人狼の遠吠え。
 その顔は怒りに満ち満ちていた。

 でもそれは私も同様で。
 だって、視界に映るアクアの名前が赤く染まっていたのだから。



「……何を」

 許せなかった。
 何が?
 人狼がアクアを攻撃したこと?
 もちろんそうだ。
 でもそれよりも何よりも……

 盾職だと自分で言っておきながら、アクアを守れなかった自分自身に何よりも怒りを感じていた。

「何やってんだぁあああ!」

 私は相棒を振り回す。振り回す。振り回す。
 だが当たらない。
 なんで……なんでなんでなんで!
 さっきまではあんなに当たっていたのに!

 シズクと【虎吉】ももちろん援護はしてくれているのだ。
 でも、それでも……当たらなかった。人狼は負傷しているはずなのに。
 アクアが必死で……ギャンブルで勝ち取った傷なのに。

 まるでアクアの取った行動はただの徒労なのだ……そう言われているようで。
 アクアが馬鹿にされているようで。

 そんなの許せなかった。
 許せるはずなんてなかった。

「当たれって言ってんだろう――ガッ!?」

 人狼の反撃が頭を掠める。
 ただ、今回は少々掠めたと言い切れるほど、軽いダメージではなかったみたいで。

「痛っ……」

 思わず人狼と距離をとり、頭に手をやってしまう。

 ――血。

 私の手にはそれが糊のようにこびりついていた。

 ダメだ。少し冷静になれ、私。
 おそらく怒りで頭が一杯になって攻撃が単調になっているんだ。
 だから当たらない。
 焦るな。大丈夫。アクアはまだ死に戻っていない。
 名前はたしかに真っ赤だけれど、そこにまだいるんだ。
 気絶しているだけだ。
 だから冷静になるんだ。
 こいつを倒してから、私が絶対に【光魔法】で治すんだ。

 血を見て逆に冷静になれた私は、再度シズクと【虎吉】が頑張っている最前線へ……行く前に1つだけ細工をした。
 どうかうまくいきますように。



 離れてよく見てみれば人狼にも、あまり余裕はなさそうだった。
 そりゃそうだ。だって全身傷まみれなのだから。
 シズクと【虎吉】の攻撃を避けてはいるものの、何度か危ない場面も見受けられた。
 チャンス。

「シズクごめん! おまたせ!」

「遅ぇ! 何やってんだ! 早く倒さねぇと!」

「わかってる!」

 シズクもどうやら相当焦っているらしい。【虎吉】もだ。
 飼い主? 持ち主? の気持ちは伝染するのだろうか。

 戦線復帰した私は、相棒を両手で持ち、そして、人狼に向かって振り回そうとして……

「あっ!?」

「おいっ!」

 すっぽ抜けた。
 遠くに飛んでいく相棒。
 そりゃそうなるだろう。
 だって、血でぬかるんだ手を拭いていなかったのだから。
 慌てて服で拭きとる。汚れるけどこの際しょうがない。

 その様子を避けながら見ていたのだろう。
 人狼は即座にターゲットを私に切り替え攻撃を仕掛けてきた。

 当然だよね。
 だって今の私は無手。無防備だ。
 お前なら、絶対そうくるよね。

 うん、知ってた。予想通り。

 私はあらかじめ表示させていた、インベントリと装備画面を素早く操作した。
 ……ていっても、スワイプするだけなんだけどね。
 それだけで、いいように事前に準備しておいたんだから。
 スワイプはもちろん、失敗しないよ?
 チュートリアルであんなに練習したからね。操作は完璧だ。
 何事も練習はしておくもんだね。

 そうして、インベントリに・・・・・・・入っている・・・・・相棒・・を再度装備し、人狼に相対する。

 驚愕する人狼。

 目の前で急に私の相棒が再出現したんだ。
 そりゃびっくりするよね。
 それに、お前はインベントリなんて機能も備わってないし、『譲渡不可』の装備も持ち合わせていない。
 予想できなくて当たり前だ。
 だからその当たり前ついでに……

「これでも食らっとけぇえええ!!」

 大振りになっていた人狼の攻撃を相棒で受け流した私は、その場で2回転。
 そうして、がら空きの横腹へ向けて……水平にした相棒を振り抜いた。


次回は23時更新予定です。
残る2話を同時に更新しますので、ご注意ください。
それで『1章』は終わりになります。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ