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40.騒動

本日は2話更新となります。

この話は1話目です。

ご注意ください。

「あ、そうだった!」


「うおっ!? 急にそんな大声出してどしたんだ?」


「アレを変えないといけないんだった!」


「アレ? ってなんだ?」


「痛覚設定!」


 ここにきてようやくと言っていいのかなんというか。

 私は、痛覚設定を変更することを思い出した。

 まぁ、思い出したというより、メモを見ただけなんだけど……


「ああ~それかぁ……それなぁ……」


「ん? シズクどうしたの?」


 見ればシズクの表情が硬い。

 どうしたんだろう?


「いやまぁ……やってみりゃわかるよ」


「え? あ、うん」


 どういう意味なんだろう。

 わからないけど、とにかく言葉通り、私はメニューから『痛覚設定』をタップした。

 そこには、痛覚の項目と、両端に『10』と『100』と書かれたバーが表示された。

 どうやら、これをスライドさせて変更するみたいだ。

 最低は『0』じゃないんだね。

 ちなみに現在、矢印は『100』を指している。つまり『痛覚100パーセント』の状態ってことなのだろう。


「えっと……これをこうして……っと」


 早速『10』まで落としてみた。

 だって、痛いのはできるだけ避けたいからね。当然の選択だと思う。

 で、ウィンドウ下部にある『OK』を押せばめでたく設定完了と。

 何これめっちゃ簡単じゃん。

 もっと早くやっておけばよかった。


「これでよ……あ、あれ?」


 なんだろう。この感覚。

 一言で言うと……凄く気持ちが悪かった。

 足元がおぼつかないというか、立っているのに、立っていないような……いや、それどころか、体すらあるようでないような、そんなあやふやな感覚。

 幽霊ってこんな感じなんだろうか。


「なんパーにしたんだ?」


「えっと……とりあえず……10パーに……したんだけ……ど……なんなの……これ……」


 うわ……口元も!?

 凄く喋りづらい!


「すげー気持ち悪いだろ? 俺も変更してすぐに元の設定に戻したからなぁ……」


「そ、そうなん……だ……」


 これは……たしかにそうだろう。

 一応、全身動かそうと思えば動くのだ。

 でも、その感覚が極端に乏しい。

 試しに両手を合わせてお互いを握ってみる……が、ほとんど感触がなかった。


 ダメだこれ。ギブアップ。

 速攻で設定を『100』へ変更……する前に、なんとなく『90』に。

 ちょっとでも痛さを軽減できないかというたわいもない私の足掻きだ。


「はぁ~……だいぶ戻った……けど……」


 まだ気持ち悪い。

 先にあの感覚を味わったからだろうか。

 手をニギニギしてみると、かなり感覚はある。

 これならいけるかなぁ?

 でもなんだろう。たしかにあるにはあるんだけど……なんか違う。


 確認のため、太ももを15度上げてみた。

 ……13度しか上がっていない。

 ダメだダメだダメだ!

 この感覚はよくない。

 おそらくこれに慣れちゃうと、リアルでも狂う可能性すらある。

 やめよう。

 素直に設定を『100』に戻すことにした。


「ふぅ……」


「おかえり」


「ただいま……これきっついね……」


「だろ?」


「でも、なんでこんな設定があるんだろうね。特に『10』とか。絶対誰も使わないでしょ、これ……」


「まぁ掲示板でも、『10』は最悪の非常手段ぐらいにしか使いようがねぇって書いてあったくらいだからなぁ」


「非常手段?」


「ほら、たとえば……拷問? とかさ」


「拷問……」


 そんなことありえるの?

 いや、すべてが『自由』なこの世界なら、そういうことに巻き込まれる可能性もないとは言い切れないの……か?

 え? このゲーム、18歳以下は親の同意が必要とはいえ全年齢対象だったよね?

 ……ちょっと怖くなってきちゃったよ。


「まぁ対NPCってより、対冒険者対策なんじゃね? ってのが、一応出てる結論みてぇだけどな」


「あ、そういう……」


 世の中にはそういった人もいるという……ある意味『Free』運営サイドからのメッセージなのかもしれない。

 だとしたら、設定1つにメッセージを込めるとか……寡黙な運営らしいといえばらしいやり方だけどさ……そこは直接言おうよ。


 まぁβ時代にも実際PKはいたらしいし、私自身、現にこの世界で窃盗にあっているのだ。

 用心に越したことはないのだろう。


「……2人とも何してたの? なんだか凄く楽しそうだったんだけど……」


 振り返れば、魔法を一通り使い満足したのか、アクアが私達の側まで戻って来ていた。

 目が若干ジト目なのは、のけ者にされたからだと思っているからなのかな?


「そんなことないよ。ちょっと『痛覚設定』を変えてただけだよ」


「カノンは変えちゃったの?」


「ううん。変えたけど結局元に戻しちゃった。あの感覚には慣れそうになかったし。アクアは?」


「落とそうと思えば『80』くらいまでなら落とせたけど、今は『100』でやってるよー」


「なんで落とさなかったの?」


「カノンならきっと落とさないと思ったから! 一緒がいいもん!」


「別にそこまでま合わせる必要も……まぁアクアがそれでいいなら何も言わないけどさ」


「んじゃ、次は私に構ってー! 今度はシズクがアレを試すんでしょ?」


「ん? あ、ああ。そうだな。じゃあ俺も早速……」


 そこまで言ったところで、シズクが急に黙ってしまった。

 舌でも噛んだのだろうか? 口内炎に気をつけて!

 ちゃんとビタミンBを! って、さすがにならないか……ならないよね?


「なんか物音がしないか?」


「物音?」


「ああ、森の方から……」


「したかなぁ? アクアは聞こえた?」


「ううん。わかんない」


 シズクに言われて耳を澄ましてみると……たしかに何かの音が聞こえてきた。

 ってか、こんな音聞きとったの? あの雑談の中で? なんという地獄耳。


「ホントだ……なんだろ?」


「気になるなら見に行くか?」


「ん~……でも森だからなぁ」


 森については、以前掲示板でそれ用のスレッドがあったので、覗いてみたことがあったのだが……なんというか……酷いの一言だった。


 入ったが最後、無事に戻ってきた冒険者が1人もいなかったのだ。

 今ではあまりの難易度に半ば諦められているエリアなのだとか。

 そんなところにわざわざ足を向けるかと言えば答えは決まっている。


「森にはあんまり入りたくないかなぁ……」


「んじゃ、気にせず練習すっか」


「だねぇ~。じゃあ、シズクの――」


 ――バキバキバキバキッ!


「「……え?」」


 私達が再度練習に励もうとしたところで、それは現れた。


 ――モンスターの大集団。


 シカ、オオカミ、クマ、フクロウ。

 パッと見、わかるのはそれぐらい。

 あとは、なんか小動物みたいなのもいるっぽいけど……小さくてよく見えなかった。


 そんな、多種多様なモンスターがまるで1つの意思を持った塊のように、同じ方向に移動していた。


「ちょ、ちょちょちょ! 何あれ!?」


「わかんねぇ! でも、ここに居ちゃまずいのはたしかだ!」


「だね! アクア! 逃げるよー!」


「オッケー!」


 私達は急いでその場から逃げようとしたのだが……あれ?


「モンスターが進むこの方向って……」


「街……だな」


 大集団が行くその先には、【ニューディール】がある。

 むしろ、そこを目指しているようにすら見えた。


「カノンどうする?」


「やっちゃう?」


「……」


 街にこの大集団が向かえば、おそらく甚大な被害がでることだろう。

 下手をすれば、死者だって……

 冒険者はまだいい。だってデスペナはあるけど、死に戻りするだけなのだから。

 それに、ログアウトという手もある。

 街中であれば、犯罪を犯していないという条件付きではあるが、すぐにログアウトができる仕様なのだ。

 そうやって避難すればいいだけの話で。


 ただ、問題はこの世界の住人だ。

 死んだ場合は私達と同じように復活するのだろうか?


 ……わからない。

 『Free』はリアルな世界だ。

 それは、もちろんこの世界の住人にも同じことが言えるわけで。

 次、会いに行った時に、もしいなかったら……私はヤダな。

 たとえ、ゲームとは言えそんな思いはしたくなかった。


 私の脳裏には、今まで出会ってきた住人達の顔が浮かんでは消えていく。

 おっさん……目隠し受付嬢さん……サカキさん……スタンフォードさん……マリアさん……


 ん? あれ? これ、ほぼ大丈夫じゃね?


 死ぬイメージがこれっぽっちも湧かなかった。最後は特に。

 逆に全滅させてしまいそうだ。

 こう大規模魔法でドカーンって。


 ……まぁ……それでも……ね?


「少しだけでも減らしちゃおっか!」


 見知らぬこの世界の住人に被害が及ぶかもしれないんだしね。

 幸い私達はデスペナはあるものの何度でも蘇れる。

 やるだけやってしまっても、なんら問題はないだろう。


 私のその発言に2人は顔を見合わせると満面の笑顔で言い放った。


「うん!」


「だな!」


 さぁ、私達だけでどこまでやれるのか。

 やばい、ちょっとワクワクしてきたかも?




次回は23時更新予定となります。

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