30.ファッションチェック
「アクアもシズクも、だいぶ感じ変わったね」
「まぁな!」
「ムフフーかわいいでしょー。カノンもそれすっごい似合ってるよー!」
「フフッ。ありがと」
2人とも【スタンフォード防具店】を出てからかなり上機嫌だ。
そういう私も指輪の件で相当凹んでいた気分が、だいぶ復活していたりする。
やっぱりお洒落って大事だね。初期装備も悪くはなかったんだけど、未だ町にいるほとんどのプレイヤーが同じ装備な現状、他とは違う装備を着たいという願望はあるわけで。
それがこうしてほぼ最高と思われる形でかなったのはいい意味で予想外だった。
紹介してくれたサカキさんにはホント感謝しかない。今度何かお礼を持っていこう。
シズクは黒を基調にした服装で身を包んでおり、急所のみをこれまた赤っぽい黒色の革で守るという、動きやすさを重視した防具となっていた。
ただ、急所のみとはいえ革自体が【ソリッドトータス】というモンスターの甲羅の内側にある皮を加工した物を使用しているらしく、かなりの防御力を誇るのだそうだ。
シズクは当初、この革の防具で全身を固めたかったようなのだが、それにはお金が足らなかったらしく、今の部分装備に落ち着いたとのこと。
2万じゃ足らないってそれもうすでに初心者装備じゃないよね? と思ったりもしたが、どうやらあのVIPルームには初心者装備以外の装備も完備されていたようで、そこからシズクが選んできたらしい。さすがブルジョア。やることが大胆だね。
当然、そんなブルジョアが選ぶ革の下に着ている服もただの服ではなく、こちらは【アイアンワーム】というモンスターから生成される鉄のような硬さを誇る糸を素材としているらしい。
ただ、この【アイアンワーム】はどうやら養殖が可能らしく、今ではそれ専門の町も存在しているため、これ自体は以前に比べるとそれほど珍しい物でもないのだそうだ。
それを店独自の編み方で耐久性と強靭性に富んだ生地に仕立てあげ、作り上げたのがこの服なのです、とスタンフォードさんが自慢気に話していたのが印象的だった。余程この生地に自信があるのだろう。
もちろんお値段もそれ相応で、私には手が出せず。残念無念。
ちなみに、この装備を買ったシズクの財布も当然無事で済むはずもなく、瀕死どころか全死……つまりは、私同様ほぼ無一文になってしまったとのこと。それを聞き呆れる私を尻目に、シズクは納得のできる買い物だったので後悔はまったくないと豪快に笑い飛ばしていた。凄く男らしい。性別ってなんだっけ?
装備が全体的に地味目なので、髪の毛が桜色のシズクに合うのかと少し不安だったが、着てみると落ち着いた感じとなりバランスもよい。
むしろ、逆に髪の色が丁度いいアクセントになって格好いいとさえ思ったほどだ。
さすがシズク。こういう着こなしを感覚で行えるのは素直に羨ましい。見習いたくても見習えない部分だ。
一方のアクアはというと、こちらは青を基調としたフリルドレスのような防具で、背中にあしらえた大きなリボンがチャームポイントとなっている。
水色の髪に青のドレスと青系一色な装いではあるが、特に違和感はなくむしろアクアの可愛らしさがより際立つ装いとなっていた。一言で言うと『魔法少女』。この言葉に尽きると思う。童顔だから余計にその印象が強かった。
ただし、この『魔法少女』のメイン武器は銃なんだけどね。うん、おっかないね。
そんなアクアの装備で1つ気になったのが、服装の下が幅広のスカートのようになっているということ。
それほど、長いスカートでもないので激しい戦闘時にはその……下着が丸見えになるのではと少々心配になったのだ。
そのことを当の本人に聞いてみると、いわゆるかぼちゃパンツと言えばいいのか、とにかく白くモコモコしたやつを履いているので戦闘中も問題なく動き回れるし、見えたところで恥ずかしくもなんともないとの回答が。
なるほどと納得してはみたものの、それを説明する時にわざわざスカートをめくってまで私にその白モコパンツを見せる必要はないよね?
いくら私しか見ていない状況だとしてもドキッとするからやめてほしい。
せめて、やるならやるで一言……いや、そもそも女の子なんだからやっちゃだめなんだけどさ。
ちなみにこの装備も【アイアンワーム】製なので、見かけに反して防御力はかなりのものらしい。
私もお金が貯まったら買いに来よう。1人だけ仲間はずれというのもなんだか寂しいしね。
そしてそんな私はというと、2人に比べてそれほどお金に余裕があるわけではなかったので非常にシンプルだ。
白を基調とした服装に、ところどころをこげ茶色の厚手の革で守った感じに仕上げてみた。
一応、使っている革は【ナメラカトカゲ】の皮、その下に着ている服も【ポリエステルン】から紡いだ糸と、双方共にモンスター産ではあるのだが……名前の頼りなさからも分かる通り、2人の装備よりは数段落ちる性能となっているらしい。
防御力的には初期装備より少し頑丈と言った程度の評価なんだとか。
ただ、【ナメラカトカゲ】の革は、運がよければ敵からの攻撃を受け流すことがある位の滑らかさを持ち、【ポリエステルン】は普段フワフワ浮いている綿毛状のモンスターということもあり、その生地自体は大変軽く着心地がよい、というおまけ付きではあったので、個人的には買える範囲内では割りと満足できる買い物をしたのではないかと思っている。
防具の選定中に2人がお金を貸してくれようともしたのだが、それは丁重に断った。気持ちは嬉しかったんだけど、サービス開始早々に借金をすることに抵抗があったし、2人には自分のために使ってもらいたかったからね。気持ちだけありがたくもらっておくよ。2人共ありがとね。
とにかく、防具に関しては当分はこれでいこうと思っている。
もちろんお金が貯まったら【アイアンワーム】製、もしくはそれ以上の装備に買い換えるつもりではいるんだけど……いつ頃貯まることになるのやら。先は長そうだ。
さて、なにはともあれあとはスキル屋で魔法を買えばある程度の準備は整うことになる。
ファンタジーといえばやっぱり魔法だよね!
どんなものかはおおよそ攻略サイトで調べてあるとはいえ凄く楽しみだ。
今度は防具屋の時みたいなヘマはしない! 私は学習できる子なのだ!
……フラグじゃないんだからね!
フラグです(非情)




