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26.スタンフォード防具店

本日は2話投稿しております。

この話は2話目となっておりますのでご注意ください。

『いらっしゃいませ。ようこそ【スタンフォード防具店】へ』


 そんな掛け声に出迎えられ私達は中へと入った。声をかけられたついでだ。目的の防具の場所も聞いちゃおう。

 リアルじゃできないけど、ゲーム内のNPC相手ならそれほど緊張もしないんだよね。なんでだろ? 気の持ちようなのかな? んーわからない。

 

「あのぅ、すみません。【ワシ屋】のサカキさんからこちらを紹介してもらって、お伺いさせていただいたのですが、初心者用の防具はどの辺りにありますか?」


『……』


 店員さんからの返事がない。

 あれ? 聞こえてなかったのかな?


「あのぅ、すみません」


『……あ、申し訳ございません! 失礼ですが、もう1度おっしゃっていただけますでしょうか』


「え? いやあの、初心者用の防具を……」


『その前でございます』


「え、えと……【ワシ屋】のサカキさんの紹介で……」


『そうそれ! それは本当でございますんでしょうかい!?』


 なんだか店員の様子がおかしい。

 ま、まさか進化するの!?

 急いでキャンセルを! ってそんなわけないか。でもどうしたんだろう。


「本当ですけど……」


『何か! そ、そう! 何か証明できる物はございませんでしょうか!』


「証明できる物……今のところこれくらいしか……」


 私は手に持っていたサカキさんに書いてもらった地図を差し出した。

 店員さんはそれをじっと穴が空くように見つめている。


『……申し訳ございません。私では判断がつきかねますので上の者を呼んでまいります。今しばらくお待ちいただけますでしょうか?』


「え、いや別にそれは構わないですけど……」


『ありがとうございます。では、少々失礼いたします』


 そう言うや否や、店員さんは急ぎ足で奥の部屋へと消えていった。


「なんかすげー慌ててたな」


「ね。一体なんなんだろう」


 いやホントに。

 ……なんだか雲行きが怪しくなってきた気がする。

 私達はただ、初心者用の防具が欲しくてその場所を聞いているだけなのに、それがなんで上の者を呼ぶという話にまでなってしまうのか。

 たしかにサカキさんはこの店の主人のことを教え子だとは言ってたけどさ。それはあくまでサカキさん本人の話なわけであって、私達に対してはそんなにかしこまる必要もないと思うんだけどなぁ。


 まぁどちらにせよ、店員さんが早く戻ってきてくれることを願おう。

 だって、この店に入って早々に店員さんの様子がおかしくなっちゃったもんだから、その原因であると思われる私達に視線が集中してるんだよね。ああ、帰りたい。

 ほら、特にあの女性なんてあんなに顔を紅潮させた表情で私達、っていうかシズクを見ちゃってるし。

 きっとよっぽど迷惑だったんだ――


「あのぅ……すみません」


「……なんだ?」


「あ、あの、あ、あ、握手してもらってもいいですか?」


「は? なんでだ?」


「いやあのその……ごめんなさい!」


「なんなんだよ……」


 あ、単なるシズクのファンだったのね。

 当の本人は絶賛困惑中だけど。

 シズクとしては単純に握手の理由を聞いただけなのに、拒絶されたとでも思っちゃったのかな?

 口調が少しばかり乱暴だから、よく誤解されるんだよね。リアルでもよくあることだ。

 あーあ。走って店から出て行っちゃったよ。

 トラウマになってなきゃいいけど。


 そして、そんな店を出ていった女性とまるで出番を入れ替わるように、店の奥から1人の男性が先程の店員さんに連れられて現れた。

 この人が店主さんなのかな?

 疑問に思ってしまったのは、目の前の人が想像よりもずっと若かったからだ。


「お待たせしました。私が当店の主をしておりますスタンフォードです」


「あ、ご丁寧にどうも。私はカノンって言います。そして隣がシズクです。それと……」


「わー! カノン見て見てー! これすっごいよー!」


「……あっちでうるさくしているのがアクアです」


「ハハハッ。元気なことはいいことですよ」


「はぁ……そう言っていただけると」


 予想通りといっていいのか、店主さんの名前はスタンフォードさんだった。

 自分の店なんだから当然と言えば当然なんだろうけど、サカキさんには店名しか聞いてなかったし、こんなに大きいお店だとも思っていなかったから、微妙に不安だったんだよね。


 スタンフォードさんは清潔感溢れる、爽やかなおじさんだった。見かけはお父さんより少し若く見えるから、30そこそこくらいだろうか?

 大きな分厚い年季の入ったこげ茶色の革の前掛けをしていて、それがとても板についていた。

 その格好はなんだか、魚屋さんを彷彿とさせて少し面白いと思ってしまったのは内緒だ。


 そういやこの世界の人達に名字ってあるのかな? 偉い人、たとえば貴族とかになるとありそうだなぁ。まぁ今は別にそんなことはどうでもいいか。

 とにかく早く話を進めないと。今はこれ以上周囲の視線に晒されたくない。


「あのぅ……ところで、そちらの地図のことなんですけど……」


 私が地図を指差しながらおそるおそる問いかけると、スタンフォードさんは笑顔で応えてくれた。


「はい、こちらの地図、拝見させていただきました。たしかにこの筆跡は師匠ので間違いないとは思うのですが……本当に師匠から当店をご紹介されたのですか?」


「はい、そうですけど……」


「あ、いえ、別に疑っているわけではございません。ただ……お会いしたのならお分かりになるかと思いますが、師匠は物凄く気難しい方でして……こうして、人を紹介されることは滅多に無いんですよ。ましてや地図まで描くとなるとなおさら……」


「あぁ……そういうことですか」


 たしかに職人気質というか頑固っぽいというか、まぁ店名が【ワシ屋】の時点で言わずもがなではあるんだろうけと。


「あ、すみません。話が逸れましたね。それで、ご用件というのは初心者用の防具、ということでよろしかったでしょうか?」


「あ、そうです……なんだかすみません。わざわざこんなことのためにここまで出てこさせてしまっちゃって……」


「いえいえ、あの師匠の紹介ですからね。ご案内させていただきますよ。どうぞこちらへ」


「はい。ありがとうございます。アクアー行くよー」


「はーい!」


 よかった、この人は割りと普通の人っぽい。途中色々あったけどこれでようやく防具が手に入りそうだ。

 どんなのがあるんだろう。

 すごく楽しみだ。




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