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Free 〜フライパンから始まるエトセトラ〜 作者:もじゃ
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27/51

27.物色

2018/1/15:わかりづらいとのご指摘を受けましたので、若干文言を修正しております。詳細は後書きにて。
『こちらが初心者用の防具になります』

「ありがとうございます」

「おお、これが」

「意外と一杯あるねー!」

 目の前には、様々な防具が所狭しと棚に陳列されていた。
 材質だけでも金属や革、布等のベーシックな物から、何かの鱗っぽい素材やそれ防御力あるの? といった半透明の薄手のものと色々だ。
 それらが多種多様な形の防具となっていた。
 これは目移りしてしまう。
きっと全部見るだけでもそれなりの時間がかかるだろうことは、容易に想像がついた。

 そこでふと気づく。

「あのぉ……ここってなんで私達だけしかいないのですか?」

 結構な広さのある部屋にも関わらず、ここには私達以外の姿がまったく見えなかったのだ。
 これじゃあまるで……

『ここは紹介者様限定のフロアになるのですよ』

「それってつまり……」

『いわゆるVIPルームというやつですね』

 案内役のスタンフォードさんが笑顔でそう答えた。
 や、やっぱりかー!
 道理でこの部屋に向かっていく内にどんどんと人の姿が少なくなっていくなぁとは思ってたんだけど……
 それにしてもVIPて。
 こんなところに私がいてもいいのだろうか。
 生まれてこの方、VIP待遇になんて縁もゆかりもないところで育ってきた単なるどこにでもいる一般的な普通の女子高生なのに。
 ますます恐縮してしまう。

「本当に大丈夫なんですか?」

『もちろんです。むしろ、師匠からの紹介者様にはこれくらいの待遇は当然です。そうじゃないと今度は私が師匠に怒られてしまいますよ』

「はぁ……そういうものなんですか」

『ええ。そういうものなんです。ですのでゆっくりと見繕ってください』

「は、はい。ありがと――」

「カノンこれ綺麗ー!」

「これカッケーな!」

「……」

 ええと……別にいいんだろうけど、2人はスタンフォードさんの言葉を聞いてから行動するまでが、ちょっと早すぎやしませんかい? もうちょっと遠慮ってものを……言っても無駄なんだろうなぁ。
 とはいえ、せっかくのご厚意だ。
 私も気分を切り替えて甘えることにしよう。

「では、しばらく見させてもらいます」

『ごゆっくりと。何かわからないことがあれば私にお聞きください』

「え? あ、はい。あ、ありがとうございます」

 スタンフォードさん、ここに居ちゃうんだ。
 それはそれで物凄いプレッシャーを感じちゃうわけなんだけど……
 あと単純にお仕事とか大丈夫なんだろうか?
 あ、でもこれも仕事の1つだと考えることもできるわけで……
 ま、まぁいいや! とにかく、できるだけ早く選んじゃいましょう。そうしましょう!

 こうして、私達はしばらくあーでもないこーでもないと言い合いながら防具を選んでいくのであった。



 このゲーム全般に言えることなのであるが、リアルさを追求した結果かどうかはわからないが、非常に隠しパラメータが多い。
 というか、ほぼすべてが隠しパラメータとなっている。
 まぁ徹頭徹尾てっとうてつび何も言わないここの運営らしいといえばらしいのだけど。
 たとえば、ステータスは基本的に何も表示されていない。
 そう、何もだ。あるのは名前の表示だけ。
 ただし、なんの親切か気まぐれかおおまかなダメージだけは表示されるようで、ある程度のダメージを受けると、黒色だった名前が黄色になり、その後は赤色へとグラデーションしていく仕様となっている。

 ちなみに、その状態を確認できるのは、自分自身とパーティーメンバーだけ。
 パーティーメンバー外からはたとえフレンドであったとしても、名前すら確認することはできない。
 そして、そんな唯一の表示すらも見せないように、また、見えないようにも設定できてしまうのだ。まさに『自由』。
 たしかに仮に何百人とパーティーを組んだ際は、いちいち確認なんてやっていられないだろうから、そういった設定は必要なのだろう。
 もちろん、そんな大それた経験のない私はそれらを非表示にするなんてリスキーなことをする理由もないので、バッチリ表示させている。

 生死に直接関係するダメージ表記ですらこれなのだ。
 他のゲームで見られる力や素早さといったものは表示すらされておらず、仕様上存在しているのかどうかさえも現状不明となっている。というか、無いというのが大方の見方だ。

 武器や防具に関してもそうだ。
 説明文こそあるものの、やれ攻撃力だ、やれ防御力だといった数値がまったくない。
 そして、耐久無限装備に至ってはその説明文すらも記載されていないときたもんだ。
 まさに必要最低限以外はないない尽くしなのであった。

 つまり、何が言いたいのかというと。

「これかわいいし、これにしよーよ!」

「いや、こっちの方が格好いいだろ」

「「カノンはどっちがいいと思う?」」

 防具の性能なんてわかるわけがない私達は、選択基準が性能よりも見かけ重視となってしまっているのであった。
 ゲームの遊び方としてこれはありなんだろうか? まぁ別に最前線攻略を主目的にしていない以上、これでいいのかもしれない。要は楽しんだ者勝ちということだ。

「私は、こっちかなぁ?」

「ほらやっぱり!」

「ぐっ! な、ならばこれならどうだ!」

「おー! かっこいー!」

 2人はお互いが選ぶ防具を品評し合いながら、やいのやいのと楽しそうであった。その様子に思わず顔が綻ぶ。
 あれ? でもこれってリアルの買い物と何が違うんだろ?
 ま、まぁファンタジーチックな装備を着る機会なんてここでしかないもんね!
 私も2人に負けず色々物色しよう。
 さてと、何を見ようか……ん?

「スタンフォードさん」

『はい、なんでしょうか?』

「これも防具なんですか?」

 私は、棚にある防具と防具の隙間から1つの小さな箱を手に取った。
 開けると中には、白い陶器のような物でできた輪っかが入っている。大きさは握りこぶしほど。

『はて? 少なくとも私は作った記憶がございませんね。おそらく、従業員の作品だと思われますが……』

「ってことは、これの効果も?」

『申し訳ございません。すぐに従業員に確認をとってまいりますので、今しばらくお待ちいただけますでしょうか?』

「あ、はい。それは全然大丈夫です」

『では、失礼いたします』

 スタンフォードさんはそう言うと足早に部屋から出ていってしまった。
 私は、その輪っかをじっと見つめる。
 なんだろ? 見た目通りだとブレスレットとかアンクレットっぽいんだけど……

 あ、そうだ。
 インベントリの説明機能を使ってみようかな? そうすれば少なくともこれが何かはわかるはず。
 私達以外、誰もいないこの状況なら、インベントリに収納しちゃっても問題ないよね?
 ちなみに、さっきまではスタンフォードさんがこの場にいたため、インベントリの使用は控えていた。だって万引き犯や窃盗犯に間違われたくないし。
 インベントリが何なのかを説明すればいいんだろうけど、口下手な私ではちゃんと説明できるか自信がなく、かえって話がややこしくなりそうな気がしたのでやめておいたのだ。
 でも今ならその心配もない。
 やっちゃってもいいよね?
 右よーし。左よーし。うん、大丈夫。
 それでは早速……

 傍から見れば今の私はすこぶる挙動不審なんだろうな……なんて軽く苦笑いしながら、小さな箱から取り出したその輪っかをインベントリに押し込み、リストに表示されたそれをタップした。



【サンパギータ★3:1】
 【至鉱しこうインソムニア】製の指輪・・
 所有者は【炯眼けいがん妖帝ようていブレジットヘルト】の寵愛ちょうあいを授かる。譲渡不可。



「……え? きゃっ!」

 私がそれを確認したと同時に、部屋がまばゆい光に包まれる。
 そのあまりの輝きに私はしばらく、目を開けることさえかなわない。
 そして、しばらくしてようやくその光が収まってきたことを確認した私は、ゆっくりと目を開けた。

「なんなのよ一体……」

「カノンどうしたの? 急に大きな声だしちゃって」

「なー。こっちがびっくりするわ」

「だって急に光が……」

「光?」

「なんか光ったのか?」

 え? あんなに光ったら、普通わかるよね? 私なんて未だに目の奥がチカチカしているのに。

「2人はまぶしくなかったの?」

「うん」

「全然」

 どうやら、先程の光は私にしか認識できていないようであった。
 そして、ふと違和感。
 最初、それが何に対するものなのかわからなかったのだが、周りを見渡してようやく気がついた。

 私の左手の小指に白い何かがあることに。

「何これ……」

「わー綺麗な指輪だね!」

「どこで拾ったんだ?」

「いや、どこも何も今ここで急に光って……収まったと思ったらこれがハマってたの」

「ふーん。変なこともあるもんなんだな。それでどうすんだそれ。買うのか?」

「すっごい高そうだねー」

「……え?」

 買う?
 たしかにそうだ。
 この品物は、この店にあったのだから私が手に入れるためには購入する必要があるのは当然の話なわけで。
 だかちょっと待ってほしい。

 嫌な予感がした。
 こんなに嫌な予感がするのはチュートリアルのおっさんの時以来だ。
 先程見た説明文は、すでに光と共に消え去ってしまっていたので、つたない記憶力を頼りに必死に思い出す。といっても、私がそれを見たのはあのアイテムが光り輝くまでのほんの僅かな時間のみ。ゆえに、その内容はあまり確認できていなかったのだが、印象的な一文があったので、それだけはよく覚えていた。

 ――譲渡不可。

 私は、慌ててその指輪を外そうとするが……

「は、はずれない……」

「「え?」」

「さっきインベントリで確認しようとしたんだけど、そのときの説明文に『譲渡不可』って」

「それって……まずくねぇか?」

「やっぱり、そう思うよね……」

 そりゃそうだ。
 店にある品物を勝手に装備して外れないのだから。
 店主は知らないようであったが、ここにある物だ。おそらく他の店員さんはこの指輪のことを知っているのだろう。
 もちろんその効果も。
 譲渡不可とは知らなかったとは言え、何も言わずに装備したこちらが確実に悪い状況であった。
 ど、どうしよう……

「買うしか……ないよね?」

「……だな」

「お金……2600で足りると思う?」

「「……」」

 辺りを包む静寂。
 私とアクア2人で稼いだお金を折半した金額がおよそ2600S。
 ぱっと見で初心者用の防具の値段が部位にもよるがおよそ300~1500S。
 例外はあったが、基本的に革製は比較的リーズナブルで金属製になると高くなるという傾向があった。
 この指輪の素材がなんなのかはっきりとはわからないが、たしか至鉱? みたいなことが書いてあったような気もするので、おそらく金属製なのだろう。
 どう見ても高そうだった。

 ……もしかしたら私、ここで一生タダ働きをし続けることになるのかもしれない。

 いや、それどころか――



『おやおや、いけませんねぇ。当店の商品を代金も払わずに持ち逃げしようとするなんて』

「ち、違うんです! この指輪が外れないんです!」

『言い訳はいりません。さぁ店員達、連れてってしまいなさい!』

『『『イーッ!』』』

「や、やめてー! 私をどうする気なの!? お金はちゃんと稼いで返すから! だから離してー!」

 数十分後。

「サラヲ……サラヲアラワナクチャ」

『ふふふ、お前はここで一生皿洗いをするのですよ? わかりましたね』

「ハイ、マスター」



「――ヒィッ! 一生皿洗いは嫌だ! せめて料理を! 料理をさせて!」

「いきなり何だ!?」

「カノン大丈夫だよ! ここはそもそも防具屋だからお皿はないよ!」

 あ、そ、そうか……防具屋に、皿なんて置いてないよね。よかった。
 違う! よくない!
 事態は何一つとして変わっていないのだから。
 どうしよう……

「これ買うお金なんて無いよぅ……」

 やばい、泣きそう。


【修正箇所】
・修正前
 先程見た説明文。短い時間だったので、その内容はあまり確認できていなかったのだが、印象的な一文があったので、それだけはよく覚えていた。
・修正後
 先程見た説明文は、すでに光と共に消え去ってしまっていたので、つたない記憶力を頼りに必死に思い出す。といっても、私がそれを見たのはあのアイテムが光り輝くまでのほんの僅かな時間のみ。ゆえに、その内容はあまり確認できていなかったのだが、印象的な一文があったので、それだけはよく覚えていた。
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