表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/51

24.依頼

「ってことがあったのよ」


「へー! ミカ凄いねー!」


「ってか、私がログアウトしたあとに、ミカから聞いたんじゃないの?」


「ううん。カナの口から聞きたかったから、あえて聞かなかったよー」


「何それ変なの」


「そんなことないよー?」


 登校中、私達はたわいのない話をしながら高校へ向かう。もちろん、話題の中心は『Free』なことは言わずもがな。

 昨日なんてほぼ一緒にいたはずなのにね。


「それより、あのあと何してたの?」


「ん~ミカと一緒にちょろっと街を散策して解散しちゃった」


「へーそうなんだ。てっきり、夜遅くまで2人で町の外にでも出掛けてるのかと思ってたのに」


「もーカナと早く寝るって約束したじゃん! そんなことしないよー」


「おーえらいえらい」


「でしょー! だからもっと撫でていいんだよー!」


「はいはい……って近い近い! 危ないから! まだ登校中だからー!」




 ――キーンコーンカーンコーン。


「セ、セーフ!」


「こっちはギリギリだったね」


「はは、つい夜更かししちまったぜ」


「やっぱり。ほどほどにしとかないと知らないよー。バレー部の主将さん」


「うっ……」


 ミカは気まずそうな顔をして頬を掻いている。

 一応、まずいという認識はあるのね。

 まぁ元々責任感は強い方だから、やりすぎることはないとは思うのだけど。

 じゃないと主将なんてやっていられないだろうし。


「ところで、なんでそんなに夜更かししてたの?」


「それがさ! 聞いてくれよカノン!」


「こら! 今はそっちじゃないでしょ!」


「あ、すまんすまん! つい……」


「もう……で、どうしたの?」


「アレ……やべーぞ」


「アレ? ってまさか【砕辰さいしん】のこと?」


「そうそれだ! 切れるなんてもんじゃねえ。今のところ敵無しだ!」


「へーそんなに?」


「ああ。しかも使っている内になんていうか、どんどん手に馴染んでいくっていうか……とにかく使いやすいんだ!」


「そ、そうなんだ」


 こんなに興奮して喋るなんて、よっぽど楽しかったんだろうな。

 今晩見せてもらおうっと。


「でも、それ以上に何がびっくりしたってな、ちょっと休憩をと思って地面に突き刺したんだよ。そしたらよ……どうなったと思う?」


「ん~……わかんない。どうなったの?」


 ミカは思わせぶりな顔で十分に間を置いてから私に話しだした。


「ゆっくりとだけどよ、地面に沈み込んでいったんだよ。慌てて取り出したけどな」


「え? どういうこと?」


地面を切ったんだよ・・・・・・・・・。俺はなんにもしてないのに」


「……なにそれ。そんなことってありえるの?」


「んなこと言われても、ありえたんだから仕方ねぇだろ?」


「たしかにそうだけどさ……」


 でも、そんなことが本当にありえるのだろうか?

 

 ――地面を切る。

 ミカは簡単に言ってのけたが、少なくともリアルの世界ではありえないことだ。

 そして、リアルな世界を忠実に再現していると言われている『Free』においても、それは同じことが言えるわけで……


 あの包丁、ホントに10万で済むのだろうか?

 いや、以上って言ってたから、済まないのはわかってるんだけどさ。

 素材代だけで10万以上。

 素材代とは料理でいう材料費だ。

 ウチでは大体原価率30〜40%で料理の値段を設定している。

 これを、あの包丁に置き換えるとすると……およそ25〜33万の商品価値になるということ。

 まぁ業種が違うからまったく同じではないとは思うけど。

 つまりあの包丁には最低でも廃人コースでおよそ2週間分の価値があるということになるわけで……


 でも、果たしてその値段の武器が地面を切れるものだろうか?


 人ごとながら不安になってきた。

 もし、もっと高額な品物だったなら。もし、それが人の目に触れ有名になってしまったなら。

 そして……


 もしそれが、譲渡不可の耐久無限装備ではないのだと知られてしまったなら。


 考えるだけで怖くなる。

 おそらく争奪戦が始まることだろう。

 PKどころの騒ぎじゃ済まない気もする。


 それを言うとミカは「大丈夫じゃね?」と、笑い飛ばしたが、一方の私は不安で一杯だった。

 つくづくとんでもない物を手に入れてしまった気がする。

 ミカ大丈夫かなぁ?


 まぁでも、それよりなにより今はこの場を切り抜けることに専念しよう。

 先に謝っておく。ミカごめんね!


「痛ぇ!」


「前を向けと何回言ったらわかるんだ冴木」


「ごめん姉貴。って痛ぇ!」


「姉貴ではない。先生だ。リピートアフターミー。はい、先生。プリーズ」


「……先生?」


「なぜ疑問形なのかについては、おいおい問い詰めるとして、さて、ホームルームを始めるぞー」


 今の一連の流れで、ミカがサカキさんの拳骨に耐えられた理由がなんとなくわかった気がした。慣れって大事だね。


 とにかく、私は怒られなかった。よかった。セーフ。


「あ、ちなみに、佐倉は放課後に職員室なー」


「ひぃ!」


 よくなかった! アウトー!


「勘違いするな。ちょっと頼みたいことがあるだけだ。誰も怒らん。というか、何か怒られなければいけないようなことでもしでかしたのか?」


「なんにもございません!」


「なら怖がるな。紛らわしい」


「はい……」


 うう。あのタイミングで言う先生が悪いと思うんだけどな。絶対にわざとだ。この先生ならやりかねない。口には出さないけどさ。


 この少々ぶっきらぼうな先生の名は冴木ひかり先生。

 私達の担任だ。

 ちなみに、目の前の冴木美嘉みかの伯母であったりもする。

 担任の生徒に身内がいるってどうなのよ、と、思わなくもないが伯母はセーフらしい。

 まぁ伯母と言ってもミカとはそんなに歳も離れていないんだけどね。少なくとも30には届いていないはずだ。

 「お見合いうぜぇ」が最近のもっぱらの口癖になっていると、ミカづてに聞いたことがあるので、未だ独身なのだろう。綺麗なのにもったいない。

 まぁミカ同様、先生にしては若干……いやかなり乱暴な言動が目立っている。

 というか、むしろ、ミカの根幹を作り上げたのがこの冴木先生なのではないかと、最近では確信に近い予想をたてているところだ。

 ミカも口ではぶーぶー言っているけど、なんだかんだで冴木先生のことは好きみたいだしね。

 話題にもちょくちょくでてくる。普通嫌いなら愚痴以外の話題には出てこないものだ。

 そんな冴木先生からの頼み事。

 正直まったくいい予感がしない。

 はぁ……一体なんだというのだろう。




「料理教室ですか?」


「ああ、そうだ。と言っても、なぜか私が担任になっている家庭科部の話なんだけどな。その中でお前に講師をしてもらいたいんだ」


「いやいやいや、絶対に無理です! 先生は私がみんなに教えられると本気で思ってるんですか!?」


「思ってるから頼んでるんだろうが。まがりなりにも中華屋の看板娘やってんだろ? ミカからも聞いてるぞ?」


「いや、接客はお母さんが全部やってますから、私は厨房からは出てませんよ。ってか、先生も知ってるでしょ! 先週もウチに来てたの知ってるんですから!」


「さぁ。記憶にないなぁ」


「ず、ずるい!」


「ずるいとはなんだ、先生にずるいとは。とにかく、考えておいてくれ。何を作るとか色々と……な」


 やるのは確定なんだ!

 無理無理絶対やりたくない。

 何作ったらいいかなんてわかんないよ。みんなのレベルも知らないのにさ。

 ん? ってか、何を作るかまで考えないといけないの? というか、それって考えていいものなの? 普通そういうのは、何かの指標に沿って決めてから誰かに頼むなりするものなんじゃ……

 まさか……いやこの先生ならありうる。

 ここは確かめねば。


「先生、一応の確認なのですが……」


「……なんだ?」


「それってもしかして、先生が振られた仕事を私に丸投げなんてしていませんよね?」


「……」


「……」


「とにかく、よろしく頼むぞー」


「先生!?」


「ちなみに来週実施だから」


「はぁ!?」


 このあと、私の必死の抗議も虚しく結局、言いくるめられてしまった。

 「内申にプラスになるから」が決め手だった。

 私としては今のところ進学する気はないのだけれど、両親共になぜか進学を望んでるんだよね。

 だから一応、勉強も受験もやれるだけやるつもりではいるんだけど。

 正直、受験に関しては先すぎてまだ実感がない。1年以上先の話なんだし。

 でも、内申は別だ。プラスになるということは、直接受験に有利になると言われているようなものなのだから。


 にしても、期限が短すぎる。来週て。

 だから、やるにしてもせめて期限を伸ばしてくれとお願いしたのだが、「これが限界なんだ。すまん!」と、今度は謝られた。

 詳しく聞くと、どうやら料理教室をすること自体忘れていたらしい。別の先生から予定について確認されて初めて思い出したのだそうだ。

 最後は涙目だった。「お前しか頼めるやつがいないんだ」まで言われてしまっては、NOと言えない私が断れるはずもなく。


 でも、料理教室かぁ……

 まず、お父さんが許可をくれないと思うんだけどな。

 「環那かんなが人に料理を教えるなんてまだまだ早い!」っとか言ったりなんかしちゃったりして。


 ……あんまり想像できないな。

 とりあえず、お父さんに相談してみよう。




「別にいいんじゃないか?」


「いいんだ!」


 速攻で許可がおりました。


「先生が頼んでるってことは、学校の許可がおりてるってことだろ? つまり学校公認ってことだ」


「それはたしかにそうなんだけどさ」


「で、料理の腕前はまぁ、お父さんには及ばないまでも、そこそこの物はすでに作れているよな? じゃないと、お前を厨房に立たせたりなんかしない」


「うん……」


 正直嬉しかった。

 面と向かって、こんなこと、今まで言われたことなんてなかったから。

 そっか……お父さん、私を料理人として見てくれてたんだ。


「それにあれだ。人に教えるっていうのは、意外と勉強になるぞ? 自分の理解度のチェックにもなる」


「なるほど」


「あと問題は何を作るかってことなんだが、そんなに難しいのを選ぶ必要なんかない。簡単なやつでいいんだ、簡単なやつで。むしろ、難しすぎてみんなが作れないことの方が問題なんだからな」


「ふむふむ」


「それこそ……オムライスとかな?」


「え? いいの?」


「良いか悪いかは環那が決めることだ。店で出してるのは環那なんだから」


「お父さん……」


「まぁ頑張ってこい。わからないことがあったらなんでもお父さんに相談していいから」


「うん! ありがとうお父さん!」


 お父さんは優しく微笑みながら私を応援してくれた。

 こういう時のお父さんは本当に頼り甲斐がある。

 その証拠に、さっきまで料理教室に後ろ向きだった私の気持ちは、今は嘘みたいに晴れやかになっていた。

 やっぱり相談してよかった。

 料理教室まであまり時間はないけれど、できるだけのことはやってみようと思う。

 もちろん、未だに不安はある。でも、わからないことがあれば、またこうやってお父さんに相談すればきっと大丈夫だろう。

 その時は、またよろしくお願いします。

 あ、そうだ。相談といえば……


 私は依然目の前で笑顔のままのお父さんについでとばかりに相談してみた。  


「じゃあ、早速相談なんだけど秘伝のジャンの作り――」


「それはできない!」


 せめて、最後まで言わせてよお父さん。




素材代10万以上とはあくまで『購入した』素材代が10万以上だということです。

つまり、在庫としてあった素材はそこに含んでいないわけで……

ホントはいくらになるんでしょうね。

私にもわからな(後書きはここで途切れている)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ