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15.合流

「「ごちそうさまでした」」


「はいお粗末さーん」


「本当にカナのお父さんの料理は美味しいね!」


 今日は、焼き魚におろしポン酢、味噌汁にご飯、筍の煮物とたこの酢味噌和えという純和風な献立だった。

 一体いつのまに仕込んだのだろう、と毎回思う。手際の良さが段違いだ。

 私もこのレベルにまでなることができるのだろうか? なれるといいな。


「ふふ、それほどでも……あるかな!」


 マリンの言葉にデレデレになりがらもドヤ顔を決める器用なお父さん。

 こうしてみると、普段のお父さんはどこにでもいそうなエロ親父なんだけどなぁ。たしかにマリンは美少女だけどさ。

 隣りにいるこんなに綺麗な人と結婚したっていうの、忘れているんじゃないのかな。いつかバチが当たるよ?


「お父さん。鼻の下鼻の下。私は別にいいけど隣、隣」


「え?」


 なんということでしょう。そこにはニッコリと女神のような笑みを湛えるお母さんの姿が。

 それとは対象的にお父さんの表情は急速に曇天模様に。お母さんの匠の技が冴え渡るね!


「さてと、私はそろそろ片付けるね」


「待て環那! よかったらもう少しここでお父さんとお話していかないか?」


「あなた? お店があるのにそんな時間あるわけないでしょ? ほら、早く行くわよ」


 そういってお父さんはお母さんに引きずられていきましたとさ。めでたしめでたし。


「割りとすぐバチって当たるもんなんだなぁ」


「ねぇカナ? あれでいいの?」


「何が? あれこそ夫婦の正しい形だよ?」


「そうなのかなぁ……ウチとはだいぶ違うような?」


「とりあえず、私はこれから片付けとか色々あるから合流は10時頃でいい?」


「うん。それは別にいいんだけど……」


 マリンはいまいち釈然としない表情のまま、家へと帰っていった。

 私はこのまま、夕飯の後片付けだ。両親は落ち着いてくる時間帯とはいえ、まだ店があるからね。

 これくらいは私がやると自分からいいだしたことなのだ。

 まぁ大抵、お父さんが手伝ってくれるんだけど。でも、たぶん今日は無理だろうな。なんとなくそんな気がした。




「これどうしよっかな……」


 私はインベントリとにらめっこしていた。

 モンスターの死体はいい。これはこれから素材やお金に変わるのだから。

 問題はそれ以外の物。というか、1つだけであった。


「【何かの残骸:312】って……」


 そう、例のグロの塊だ。

 あれから、力加減を調整したとはいえ、相棒の攻撃方法ではどうしても少なからずこれが生産されてしまうのだ。

 それが積もりに積もって今や312個となっていた。

 たぶん全部出したら私は吐く。まず間違いなく。そして、その残骸の数をさらに増やす結果となるのだろう。

 まぁ絶対に出さないけどね。

 かといってこのままインベントリに収納しっぱなしというのも、精神衛生上よろしくない。というか嫌だ。

 早く対処法を見つけなくては。

 とりあえずは、これから向かうギルドで相談するつもりだ。


「おまたせー! 待った?」


「全然。私もさっき来たところだよ」


「ムフフー。そっかそっかー!」


「どうしたのよアクア。来て早々ニヤニヤして」


「べっつにー! なんでもなーい!」


「だー! だから抱きつくな!」


 なんとかアクアを引き剥がし、私達はギルドへと足を進めた。

 それにしても、私が必死にアクアを引き剥がしている間、妙に周囲の人達の視線が優しくなっていたような気がしたのは気のせいだろうか?

 なんだろ? 生暖かいというかなんというか……。なんなの? そのなんたらタワーって? まぁ、敵意のある視線でもなさそうなのでスルーするけどさ。


「そういえば、そろそろシズクもログインしてる頃なんじゃない?」


「そうだった!」


「そうだったって……まぁそういう私も今思い出したんだけどさ。とはいえ、待ち合わせとかしてないからなぁ」


 一旦、ログアウトしてスマホで連絡してみようかな?


「人のこと忘れるだなんて随分楽しんでんだなー」


「「うわ!」」


 2人でギルドに向かいながら雑談していると、突然後ろから声をかけられた。

 びっくりして振り返るとそこにはがっしりした長身の美男子の顔が……って。


「もしかして、シズク?」


「それ以外誰に見えるってんだ?」


 いや、むしろ女の子に見えなかったのですが……なんて言えるわけがなく。


「男かと思ったよー!」


「言いやがった!」


「まぁ髪の毛もリアルより短いからなーそりゃあ仕方ねーな!」


 ガハハと目の前で大きく笑うシズクこと、冴木美嘉さえきみか

 だ、大丈夫? リアルよりもだいぶ、ワイルドになっているようなんですけど。

 ちょっと、ロールプレイも入ってるのかな?

 シズクって元々、のめり込むタイプみたいだし。


「シズク、ところでなんで私達がここにいるってわかったの?」


「髪の色だなー! やっぱそれ目立つわ。あとは勘」


「勘て……」


 こっちに来ても相変わらずだなぉと思う。

 シズクは出会ったときからそうだ。普段は気遣いなんてまったくしないくせに、大事なところでは大抵気がつくし、見つける。

 野生の勘というかなんというか。

 そして、それがシズクをバレー部主将にまで押し上げた原動力と言っても過言ではなかった。

 今やバレー部員達の間では『ワイルドだけど小さな変化も見逃さない、厳しいけど本当は優しいツンデレ系主将』という評価なんだとか。正直、属性盛りすぎやしやせんか?

 

 でもそっか。やっぱこの髪色は目立つよね。まぁ今更後悔しても仕方がないんだけど。そもそも、変える気もないわけだし。


「ところで、どこに向かってたんだ?」


「これからギルドに行くところだよー!」


「そりゃちょうどよかった。俺もついてってもいいか?」


「いや、それは全然構わないんだけどさ……」


 私はシズクの後方に目を向けた。


「ねぇ、あの人超かっこいいよね!」「アバターなのにすっごい自然!」「キャラクリに何時間かけたのかな?」「あ、今こっち向いた!」「キャー! 今私と目があったわ!」「違う、私とよ!」「何よ!」「なんなのよ!」「あーお姉様ぁ!」


 気づいてるのかなぁ?

 一定の距離を保って周囲のプレイヤーが集団でついてきているの。

 シズクがなんかする度に、キャーキャーと黄色い声が。ちなみにほとんどが女性だ。ここでもか! いくらなんでもちょっと早すぎない?


 シズクの髪型は簡単に言えば宝塚の男役みたいだった。劇場の方じゃなくて普段の方ね。いわゆるベリーショートというやつ。髪色はベースは明るい桜色、それにところどころワンポイントで、アッシュやら、濃いめの赤色やらが入っていた。派手っ派手だ。

 瞳の色も、それらとのバランスを考えてか赤色だ。こちらは少し茶色の入った……なんだっけ? 赤銅色しゃくどういろっていうんだっけ?

 とにかく、そんな色だった。


 そんでもって、アクア同様、顔はほとんどいじっていない。というか、そのままだ。

 私みたいなアバターにこだわるのは少数派なんだろうか?

 そんなことはないと思うんだけど、友人2人を見ていると自信がなくなってくる。

 でも、髪型だけでも随分と印象が違って見えるもんなんだね。

 シズクなんて、ますますおとこに磨きがかかっちゃって。

 絶対何人かは男と見間違え……ってそんなわけないか。

 私は、ででんと主張するシズクについてる胸元のそれらを眺めながら、そんなことを考えていた。べ、別に羨ましくなんてないんだから!


「なんだか、このゲームって騒がしいよなー。みんなすげーテンションたけーんだぜ!」


「ソ、ソウデスネ」


 シズクの見た方向がキャーキャー騒がしくなるというのなら、それはシズクにとって360度騒がしいに等しい、ということ……なのか? よくわからん。


 とにかく、3人でギルドを目指すことにした。

 あ、フレンド登録もしなくちゃね!

 これであと98人だ! 先は長い。焦らず、ゆっくりと増やしていこう。


 あぁ、それにしても視線が痛い。

 



次回は18時投稿予定です。

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