01.フライパン
お久しぶりです。
今回はまったりと書いていきたいと思います。
お暇な方はお付き合いください。
しばらくは予約投稿が続きます。
『あなたの初期装備はこちらになります』
そんな機械的な声と共に私の手の平がまばゆいほどに光り輝いた。
とても直視していられないそのあまりの光量に思わず顔を背ける。
ようやく光が収まりはしたものの、未だ視力の回復には至っていない。
それでも、確かに私の手にはずしりとした重さを感じることができた。
――『Free』。
自由という名を冠したそのVRゲームのサービス初日。
私はそのゲームの中にいた。
「これから私の新たな冒険が始まるのね」
キャラクタークリエイトを終えた私は、感慨深気に自身の姿を見直していた。
――ゲームなんだし、どうせなら思いっきり違う自分になろう。
その思いの下、作られた私のアバター。
身長やスタイルはリアルの私とあんまり変わらない。というか、変えられなかった。
あんまり変えると色々と実生活にも不都合がでるらしいとのこと。詳細は知らない。
でも、変更できる中でできるだけ高身長に、スタイルもその……今の私のコンプレックスの一つである幼児体型とはかけ離れたものにしたつもりだ。
髪の毛も生まれてから今まで、一度も染めるなんてしたことがなかったけれど、大胆に根本から先端に向けて黒から徐々に白くグラデーションを施した。
目も髪に合わせて少し青みがかった白色にしてみて、切れ長な感じに。
あとのパーツは全体のバランスを考えて極力不自然にならないように調整してみた。
我ながらいい出来だと思う。一言でいえばクールビューティー。少なくとも実生活では絶対にできない容姿だ。
誰も私だとは気づかないだろう。
『それでは初期装備の選択です。どれかひとつだけ、耐久力を無限にできます。お選びください』
自身のアバターを再確認して、満足気にうんうんと頷いている私に、おそらく最後であろう選択の提示が示される。
選択肢は武器、防具、の2つ。防具に関してはさらにパーツ毎に細分化され、そのどれかを選ぶ必要があるらしい。
「ん〜、とりあえず、防具よりは武器よね」
そう結論づけるまで時間はかからなかった。
理由は単純。
武器さえ壊れなければ、最悪詰むことはないだろう。
ただそれだけだ。
武器が無くなってしまえば敵を倒せない。素材も集められない。イコールお金や経験値が稼げない。そんな事態をただ避けたかった。
まぁ、オンラインゲームなので、きっとなにかしらの救済措置は用意してあるとは思うのだけど念のため。
「武器でお願いします」
『承知いたしました。ちなみに、耐久力を無限化した装備に関しましては、種類が変更され、譲渡不可となります。ご了承ください』
『Free』には明確なジョブというものがない。剣を持てば戦士や騎士と言い張ってもいいし、魔法が使えれば杖がなくても魔法使い、もしくは魔術師だと自称してもまったく問題はない。
ただし、実用レベルかどうかは本人次第であるのだが。
クローズドβの参加者が作った攻略サイトには、基本『自由』ではあるが、自身に合った武器をオススメしますとのことだった。
こんな仕様のゲームだからこそ、初期にもらう装備に関しても『自由』。ランダムともいう。
仮に気に入らなければ後で買い換えればいいだけの話。耐久力無限のおまけが無駄になるのはちょっともったいないけどね。言っても初期装備だし。
ただ、この耐久力無限装備、本当に様々な種類があるらしい。それこそ同じ物が1つもないんじゃないか、と言われているくらいには。
そんな中でもいわゆる『当たり』と呼ばれている物は、かなり有用な装備になりえるとのこと。
さすがに『自由』すぎて不公平になりすぎるのでは? という声もユーザーからは挙がったみたいだが、今のところ、運営に変更する気はないらしい。私も特に気にしていない。むしろ、どんとこい!
ちなみに、β経験者をして曰く、『耐久力無限装備はある程度、自身の体型や性格に左右されて排出されている可能性があるような気がする』と、あいまいを通り越してそれはもう何も分かっていないだけなのではないのか、というレベルの話ではあるので、結局は運、ということになるのだろう。
「重っ!」
その手に現れた武器の最初の感想はそれだった。
片手ではとてもじゃないが扱うことはできない。それほどの重量感。
それなのに、その武器はまるで普段から使っているかのように私の手によく馴染んだ。
その馴染みはすでに私の一部といってもいいほ……ど……
いくらなんでもちょっと馴染みすぎなんじゃない?
私は生まれてから今まで、武器なんて物騒な物は当然持ったことすらない。
なのに、なんなのこの違和感の無さは。
この感触はまるで……。
すごく、嫌な予感がした。しかも限りなく確信に近い予感だ。
そんなことはない。ここはファンタジーの世界。大丈夫。きっとたまたま私と相性のいい武器を引き当てただけよ。アレなはずがない。そう、絶対に。
私は内心で必死にその可能性を否定する。
そして、わずかな可能性に賭けながら私はおそるおそる目を開き、手の中にある武器を直視した。
それは、巨大な鉄の塊であった。黒くて、武器というにはあまりにも無骨で。
一見したところでは誰も武器だと分からな……変な言い回しはやめよう。
そもそも武器じゃないし。
私は項垂れながら、馴染みのあるそれをため息混じりに見つめ続けた。
――巨大な鉄のフライパンを。
次回は1時投稿予定です。