挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
Free 〜フライパンから始まるエトセトラ〜 作者:もじゃ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

2/51

02.挫折

「武器じゃないじゃない……」

 私の第一声だ。
 それもそうだろう。だって本当に武器ではない。ただの調理道具なのだから。

「へ、変更はできませんか!?」

『……』

 無情なるシステムの黙秘権。
 できませんよね。知ってます。攻略サイトにも書いてあったし。

『アカウントの再登録を行っても初期装備は変更されませんので、ご注意ください』

「知ってるよ!」

 すかさず追い打ちをかけてくるドSシステムに私は思わず声を荒げてツッコんでしまった。
 それも攻略サイトで見ましたよ。生体認証がどうたらこうたらで、たとえVRの機器を変えたとしても初期装備は変更されなかったのだそうだ。

 どんとこい、なんていうんじゃなかった……。

 いつの間にかフラグを踏み抜いていた自分に気づき激しく後悔する私。
 なにが悲しくてファンタジーの世界でまでフライパンを使わなきゃいけないのか。そんなのは実生活だけで十分だ。

『それではこれにてキャラクリは終了です。『自由』をお楽しみください』

「……」

 私は答える気力すらなかった。跪き、地面に両手をついたまま動けなかった。
 こんな状態でもシステムは淡々と仕事をするらしく、私の身体は徐々に光に包まれる。
 たしかこのあとは、最初の町に転送されるはずだ。

『フフッ。それにしてもフライパンって……』

「笑われた!?」

 おい、ちょっと待てこのやろう!
 後半ちょっとフランクになってきたような気がしたから、もしかしたらと思ってたんだけど、やっぱり意思があったのか!

「嘲笑するなら武器をくれ!」

『嘲笑なんてしていませんよ。フライパンはとても……いい……プフゥッ!』

「吹き出しやがった!」

 このゲームのAIはとても優秀だとはβ経験者の談だ。しかしまさか、ユーザーをあざ笑うシステムまで搭載しているとは思ってもみなかった。『自由』にもほどがある。

「私は断固として抗議する! 最高裁までだ!」

『棄却します』

「このやろう!」

 私の必死の抗議も虚しく、視界は完全に光に覆われ――

「システムめ。今度会ったら覚えてろよ」

 気づけばそこは町の中だった。



『――本当にいい武器なんですよ』

 転送される間際、そんな声が聞こえた気がするが、おそらく願望からくる幻聴だろう。
 私はもう『自由』には踊らされない。



「とりあえず……散策しよっか!」

 晴れない気分を振り払うように私は声を張り上げた。
 その声に周囲のプレイヤーがビクリとして一斉にこちらを凝視――されることはない。
 なぜなら、周囲には未だ人っ子一人存在していないからだ。
 だからこその大声でもある。

 これはいわゆるチュートリアルというやつで、それが終わって初めてプレイヤーが多数集う町に行けるようになるのだそうだ。もちろんこれも攻略サイトからの情報。

 大体、考えてもみてほしい。
 普段から友人は少人数制を採用しており、帰宅部部長の名をほしいままにするほど華麗なる帰宅を遂行しているこの私が、大衆の面前に注目されるような行動をとるだろうか? 答えは否。とるわけがない!
 とるわけがないのだ!

「……はぁ。コミュ力がほしい」

 なんだか、ゲームとはまた違ったところで凹んでしまった。
 いけないいけない。今はゲームを楽しむお時間だ。

 とりあえず、無人の町を徘徊し、チュートリアルを早く終わらせよう。
 とはいえ、なんの目的もないのはなぁ、と、困っている私の視界の隅っこにメッセージが表示されていたことに気がついた。



【チュートリアル1:メニューを開こう】
 メニューを開いて各種項目を確認しよう。



 ふむふむ。
 確かにこれができないと、ゲームを楽しむ以前にログアウトすらできないからね。
 私はチュートリアルに書かれている通りに指を水平に左から右に動かした後、続けざま角度を変え、今度は垂直に下へと滑らせた。
 すると、指を動かした範囲にヴォンという電子音と共に半透明のウィンドウが現れる。
 おお、ホントに出た! ……まぁ、でないと困るんだけどさ。出なきゃバグどころの騒ぎじゃないわけだし。
 閉じる時は閉じるボタンがウィンドウの右上にあるのでそれをタップ、もしくはウィンドウ自体を左右どちらかに素早くスワイプすれば消えるとのこと。
 確認するように何回か動作を繰り返す。
 なるほど。どうやら指を滑らした幅に合わせたサイズでウィンドウが展開されるらしい。
 大きく振れば大きなウィンドウに。小さければ小さなウィンドウ、といった具合。
 ウィンドウのサイズが違っていても、そこに表示されるフォントのサイズに変わりはない。おそらく、一度に大量の情報を確認、または処理したいときには大きなウィンドウを使ってくださいということなのだろう。

 私はしばらくそのSFチックな動作に魅力され、ウィンドウをただひたすら出したり閉じたりと繰り返していたのだが、ふと、視界の隅っこに表示されているメッセージが点滅していることに気がついた。



【チュートリアル2:装備しよう】
 インベントリに入っている初期装備を装備画面から装備しよう。



 いつの間にかチュートリアルが2になってる!
 しかも、催促するように激しく点滅までしている始末。
 どうやら、それ相応の時間をメニューを開く動作にかけてしまっていたらしい。
 これはよくない。私の悪い癖が出てしまっている。
 まだ、ゲームは始まってすらいないのだ。未だチュートリアル。
 早く終わらせないと!

 私は慌ててその項目に目を通した。

 ……そういえば、転送の際、私に託された調理道具も手元から消えていたんだね。今更ながらに気がついた。
 色々ありすぎてすっかり忘れていたよ。
 よし、早速装備しよう。
 まずは防具だ!
 武……調理器具の確認は後からにしよう。問題の先延ばしともいう。

 メニュー画面に表示されている装備の項目をタップすると、新たなウィンドウが表示される。
 そこには、中央に私の分身であるアバターが表示されていた。
 指でスワイプするとそのアバターがくるくると回転する。
 どうやら、鏡などがなくても、これがあれば360度確認できるようであった。
 もちろんピンチによる拡大、縮小も思いのまま。
 なるほど、これはよい。
 私は自身のアバターの完成度の高さを自画自賛しながら、さらにじっくりと……

 ハッ! ダメだダメだ!
 さっき、反省したばかりじゃないか。
 サッサッと終わらせるんだ。
 時間は有限なんだぞ!
 頑張れ私。

 私は新たにメニュー画面からインベントリの項目をタップし、新たなウィンドウを表示させる。



【鉄のフライパン★3】
【初期防具・革の胸当て☆3】
【初期防具・革の腕当て☆3】
【初期防具・革の手袋☆3】
【初期防具・革の腿当て☆3】
【初期防具・革の脛当て☆3】



 そこには確かに初期装備として配布された各種防具、それと目下、私の悩みの種絶賛独走中の調理器具が収納されていた。
 名前の隣にある『★3』『☆3』というのはなんなんだろう? アイテムのランク的なものなのだろうか? よくわからない。
 まぁ気にはなるがとりあえず置いておこう。今は装備方法を学ぶ時間なのだ。

 チュートリアルによるとインベントリから直接取りだして直に着替えることで装備することも可能なようなのだが、装備画面に表示されている自身のアバターへ直接ドラッグアンドドロップさえすれば、それだけで装備することができ、なおかつサイズも自動的に調整されるとのこと。
 私はもちろん後者を選択し、初期装備である各種防具をツツーっと指を滑らせてアバターに装備させていく。
 それと同時に私の体が一瞬光り輝いたかと思えば、その直後にはすでに防具が装備されていた。
 素晴らしい。
 まるで魔法のようだ!

 ……今までの私であれば感動に打ち震え、そのまま感情の赴くままに防具の脱着を繰り返したであろう。
 だが、私は日々進化しているのだ!
 自身から湧き上がる猛烈な欲求を必死に抑え、早急にチュートリアルを完遂すると、そう心に誓ったのだ!
 ビバラレボルーション!



 ……でも、一回くらいは。
 おお、やっぱりすごい!


次回は2時投稿予定です。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ