表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色取り取りの世界の中で  作者: あかいぬ
第2章 『神国』
30/30

第1話

――彩暦635年5月17日

於:神国領域内・飛竜船内


……――


 太陽セァラが沈み、今日は青の月(ミネラ)が夜を青く照らしている。先ほど船員から間もなく周遊に入るので、窓の外を見て楽しんでほしい、という連絡が透とセレスの元にやってきていた。

 透としても先ほどからわずかに前方に向けての慣性、つまり減速を体に感じ始めており、窓から入る月の光の角度が変わってきているのも気づいていた。腕時計を見てみれば、現在時刻は夜9時少し前。朝の出発が10時ごろだったので、都合11時間ほどの旅だったことになる。


「11時間かぁ……でも、こんな広い部屋だったし、きつくもなかったね」

「本当です。ただの船であれば1月以上かかったのに、助かりました……」


 ソファに腰かけたまま、お茶を飲みつつ二人して今回の幸運に感謝をする。ただその方向が、透にとっては『快適な旅が出来たこと』、セレスにとっては『予定以上の速度で旅が完遂すること』と、違いがあった。

 この世界の旅程は、馬車ですら到着時間に大きな時間の差が発生する。嵐という想定できない災害を前にすれば、船などもっと差が激しい。例えば今回の湖国から神国への船旅となれば、途中何事もなく平穏無事な船旅ができたとして30日だ。これは理想的な数字であり、現実的にはその1.5倍を見るのが正しいだろう。もし嵐に遭遇でもすれば、さらに倍はかかってもおかしくはないのだ。


 今回の飛竜便は、この世界で2番目に時間が正確な旅行法になる。竜は雲を超えた高い場所を飛ぶため天候の影響を受けず、また竜は人間とは比べ物にならない力を発揮し、船をつるした状態でも1昼夜飛行し続ける事が可能だ。

 また、竜の持つ強い魔力はその【色】の性質により違うアプローチで船の安全を保護する。例えばエングの【黒】であれば、重力制御・慣性制御により船の中は静止した船の上となんら変わらない状態になる。問題は風だが、こちらは船長バルツの【緑】により船を風の幕で覆ってほんのわずかな飛翔の魔法をかける事により、高速移動や高度の変化による気圧変化からも保護されている。

 透の【金】は『船とその乗組員全てに影響を与える』エングの【黒】の術は弾きはしたものの、『船の周りの空気の層を形成する』バルツの【緑】は透に直接の効果がないためはじかれなかったのは幸いだった。


 さてその飛竜便の欠点は、現在世界で飛竜便をする竜が3頭しかいない事くらいだろう。また、気まぐれな性格をしており、若干のムラが出る。今回のエングは久しぶりに会話ができたという興奮から、このように予定を半日繰り上げての到着となった。

 ちなみに1番正確なのは、無論転移陣による移動である。透の【金】が魔法を無効化しなければ、それで問題なく既に神国に入れているはずであった。


「さて、トール。エングさんやバルツさんのご厚意で、神国のある島……通称『世界中心点』、フェル・グリ・ラッハを周遊させてもらえます。ぜひぜひ、見てください!」

「あ、うん、てかセレス、テンション高いね?」

「それはもちろん。わたしの自分の国ですから、誇りがありますからねっ」


 普段は1歩引いて、というスタンスのセレスでも自分の国の素敵な所を見せるのに興奮して、透の手を引いて左舷よりの窓に向かう。途中でちらりと船首側の窓に視線を向ければ、暗い夜空にあって星空を切り取る黒いエングの影がくっきりと見えた。そして、その金の目が透の部屋に注がれているのに気づき……


「ん、わ、っとっ……」


 ぎぃ、と音をたてて船が大きく左に傾く。透には慣性制御は効いていないために部屋の内側よりの力を感じながら、それに抗うようにして窓に取りついた。

 ――そして。


「うわぁ、あぁ……」


 窓の外に見える風景に、強い感動の声を上げる。

 島のサイズはおよそ四国くらいだろう。その大きさの真円に近い形をした島はカルデラのようになっている。円形の窪地を覆う山からは天に向けてオーロラのようなものが立ち上がり、空を幻想的に輝かせていた。

 そしてその中、点在するようにいくつかの街があるのだが……その中でも中央に存在する街はひときわ巨大であり、白亜の壁の建造物が立ち並んでいて、夜だというのに明かりが灯され煌めいている。


「すごい……って、ん、あれ……あの形って……」

「気づきましたか?」

「……『槍』、だよね?」


 そしてその風景であって一際目を引くのが、神王の座す他の国で言う王城。『神王塔シルヴァグレイヴ』だ。幅広の両手剣を穂先にした槍のように作られていることは、その名前からも明らかだろう。

 小高い丘の頂上からそびえたつ槍の『柄』は、街同様の白い構造体で作られている。根本に見えるのは入り口だろうか、夜である今は門が閉められていて中は伺い知ることはできない。そこから高く昇って、槍の付け根からは銀色の構造体となっている。窓のようなものも見えるため、あのあたりが人が中で何かを行うエリアになっているのだろう。なお、槍の刃部分に相当する箇所は大型の逆V字になっており、それぞれ両端は地面近くまで伸びている。

 槍の刃の表面には微細で精緻な装飾が施されており、遠くから見るとまさに『神の槍』と称しても誰もが頷きそうな姿を晒している。槍の先端部位は、高度が下がったために透に伺い知る事はできなかった。


「なんで、あんな形なんだろ?」

「詳しくは建国記参照なのですが、大まかに言うと初代神王陛下は神の僕だった、とされているのです。そして陛下が従っていた『銀の十二槍の女神』のもつ神槍を模して、あの神王塔は作られたと言われていますね」

「なるほどなぁ……」


 地球でも似たような神話はあるが、この世界には魔法がある。だからこそ、セレスの言っている内容も実際にあった出来事かもしれないと頷き、透はほぅ、と息を吐いた。

 そのままぐるり、とオーロラの外をエングは周回し、やがて山より低い軌道を描いて船が着水する。着水、といってもまだバルツの【緑】の力で船の周りには風の幕が出来ており、あくまで船の最下端が海に触れかけているという程度だが。そのままセレスに促されて透が今度は正面をみると、カルデラの外側の海の縁に街の影が見え始める。ただ、内側の街とは違うようで明るさが内側とは異なり、湖国の街と同程度の明るさを松明でとっているようだった。


『ふう……いや、張り切ってしまった。どうだった、トール。空を飛ぶのは、人間には格別の味わいと聞くが』

「あ、ありがとうエング。とっても楽しかったよ!さっきはわざわざ、ありがとうね!」

『何、お主を怪我させぬためのおまけのようなものだ。気にするな。――さて、神国か。あの光幕の内側は私も入る事ができず窺い知れぬが……気をつけて進め』

「へ?」


 部屋の外から着水するぞー!という掛け声が聞こえ、風の幕が消えて本当に船が海に着水する。そうなればがくん、と大きな揺れが発して船自体が軋む音を立てつつ大きく減速して港の中へ入っていき……そんな中で、エングがやや不穏な言葉を告げた。


『勘でしかない。隣のセレスという娘は、この国出身であろう?故に、心配させたくなくばお主の心に留めるだけにしておけ。我ら竜の眼を持ってして、あの光幕は中の気配を何も感じる事はできぬ。人はアレを国の中で魔物が発生させぬためのものだ、と言っているようだが……そうではない』

「え、っと……」

「トール、どうかしましたか?エングさんが何か言ってるんですか?」


 若干、敵意にも似た気配を島の中心に向けつつエングが語り、それに対してセレスは興味深そうに透の袖を引く。だが、エングの言うようにセレスには聞かせないほうがいいのではないかと透は考え、なんでもない、と答えてしまい。


『800年前にも、見た事がある。あれは、『封縛光幕』という結界だ。中に封じられた『存在』は、その外へ出る事は叶わず、また外から中にある『存在』を察することはできない。もっとも、その対象以外には全く効果は発揮せず……人間の言うように、あの幕自体に破魔の力がある故魔物は島内に発生しえないだろう。――しかし果たして、あの島の中には何が封じられているのやら』


 続くエングの言葉に、透もはっきりとした不穏さを感じて改めて港町に視線を向けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ