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豚の体調が整ったので、出発できるようになりましたわ。


「もう絶対酒なんて飲まない!」という豚を、ギズロフがからかっていますわ。こうやって豚は馴染んできたのかしら。

まあ、私はいずれいなくなってしまうから、豚ほど馴染む必要はないのですけれど。


当座の目的地であるカクテラに行くには、南下しなければなりませんの。

もちろん、あの広場を通りますわ。

そんなところを通らなければならないのは怖いのですが、そんなことを言うわけにはいきませんわね。


町はいつも通り、人通りがありましたわ。

昨日も同じでしたの。

まるで、竜人などを敵とすら見ていないような。

心の中に、出所が分からない苦さを感じつつ、足は広場方面を歩いていましたわ。

広場には、何か鎮魂の花束かなにかがあると思ってましたの。

でもそこには、なにもありませんわ。

噴水に腰かけて談笑している人がいますの。

子どもたちが追いかけっこをしていて、それを女性が見て微笑んでいますわ。

前の世界でも、ありふれた光景ですわね。

ただ、竜人の青い血がべったりと地面に残っている以外は。

それに誰も気づいていないのか、気づかないふりをしているのか分かりませんけれど、嫌悪感も同情も湧かない様子に、目を疑いましたの。


メイベルは噴水から目を離さない私を小突いて、強引に顔をそらせましたわ。

私もそれを機に見ることをやめましたの。




パルスネからカクテラまで、遠くはないのですが、森を通らなければなりませんの。

「森はモンスターの巣だ。全員気をつけとけよ」

そうギズロフが言いましたの。


実際、ゴブリンの集団に4、5回襲われたのですけれど、このくらいなら大したことではありませんの。


あと少しで森から出られるというところでしたわ。


地響きがして、木がバリバリと割ける音が聞こえてきましたわ。

「おい、近いぞ!」

珍しくギズロフが焦った声を出しましたわ。


その瞬間、前足で木々をなぎ倒して、私たちの目の前に現れましたわ。


大柄なギズロフの縦にも横にも1.5倍はある魔物でしたわ。

四つん這いで動くゴリラを大きくしたような感じですの。

「ビッグエイプだ……」

豚の言葉に反応したように、ビッグエイプが一声叫びましたの。

鼓膜が張り裂けるかと思いましたわ。


「逃げるか!?」

ギズロフがこんなことを言うなんて思いませんでしたわ。

「こいつが逃がしてくれると思うか!ギズロフ!仲間がこないうちに倒すしかねぇよ!」

メイベルはいつも背負っていた銃を構えましたわ。

ロキシーは何かを唱えてますの。

「そうか。よしお前ら!ここでかたをつけるぞ!」

ギズロフも覚悟を決めたようですわね。


そうなれば、私だけ逃げるわけにはいきませんわね。

私も微力を尽くしましょう。自動人形を取りだしましたの。


豚は突撃していきましたわ。




あれからどれ位時間が経ったかしら……

威嚇して私たちの行動を遅れさせ、木の幹ほどの前足を叩きつけ、攻撃を受けても怯むことのない相手に、私たちはなんと無力なんでしょうか……


私たちは全力を尽くしていますの。

ロキシーはビッグエイプの視界周辺に黒い霧を発生させ、闇から槍を飛び出させて攻撃をしていますわ。

メイベルは、背負っていた銃で連射を続けていますの。

私は、投石魔方陣で攻撃を繰り返していますわ。

豚は、体力が限界なのか後衛に下がって回復薬を飲んでますの。


つまり、前衛はギズロフただ一人。

全身にかすり傷を受けながらも、ナイフは落とさずに怯むことなく切りつけていますわ。

でも、深々と刺せるほど間合いに近づくことが出来ず、一回刺すごとに傷が一つ増えていってますの。



もしギズロフが倒れれば、攻撃は私たちを中心としたものになりますわ。

そうなれば全滅してしまう……復活してくれる人やお金がない私たちは、永久に眠り続けることになりますわ。


ギズロフが倒れるかビッグエイプが倒れるかの厳しい状況が続きますわ。

その時、ロキシーが出していた黒い霧が晴れてしまいましたの。

魔物の視界をふさいでいたからこそかすり傷で済んでいたのですわ。


ロキシーはもう一度唱えていますが、それより魔物の腕の方が早いですわ。

ギズロフに向かって、ビッグエイプは腕を叩きつけるように腕を降り下ろしましたの。

ギズロフは、動きつづけて足が震えていますわ。

豚は敵に向かって駆け出していきましたの。


私は――


ビッグエイプがギズロフに腕を叩きつけようとした時、腕が必要以上に大きく振られましたの。

その隙にギズロフは脇腹に飛び込み、ナイフを突き刺しましたわ。

その時、ビッグエイプが断末魔の悲鳴を上げて、仰向けに倒れましたわ。


何が起こったか分からず、皆で無言になったあと、全員で歓声を上げましたわ。

そのあと、ギズロフは膝をついて倒れ、メイベルとロキシーは彼に肩を貸してカクテラまで急ぐことになったのですけれど。




あの瞬間、ギズロフは死ぬと思いましたわ。

そうなれば、じき全滅すると思いましたの。

だから、使いましたわ。

あの女から奪った≪人形使い≫を。

ビッグエイプの腕をわざと大振りに「した」のは私なんですの。

その位しかできなかったのですけれど、結果的に良かったのですわね。


使わないと決めた≪異能≫ですから、漠然とした後悔は残っていますけれど……

こんなこと些細なことですわね。

生き残らなければ、あの竜人のように忘れ去られるだけなのですから。

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