第20話 新たなゲームを始めようか
時は流れ、あと1週間で夏休みというところまで迫っていた。この間に定期考査のテスト返しもされたが、僕としてはまずまずの結果だったと思う。神代さんはやらかした教科(しかも複数)があるらしく、委員会の集まりの度に隣で愚痴っていた。お疲れ、としか言いようがない。
さて先日、芝童森との対決に勝利した我々生活委員会の前にゴーターが現れ、戦闘となった。結果は僕たちの負けといって良いだろう。多少なりともダメージは与えたものの、やはり相手は強かった。ゴーターなら僕たち全員にトドメを刺すことも出来たとは思うが「これでデータは回収出来た。次のゲーム、楽しみにしていてくれたまえ」と言い残して去っていった。本当に迷惑な奴だ。
次のゲームはいつになるのか、何も音沙汰が無いまま今日を迎えたという訳だ。もうこのまま音沙汰無しで良いんじゃないか、そう思う。奴のアジトでも見付けて叩ければ良いのだが、奴がどこに潜伏しているのかさっぱり。やはり出てきたところで戦うしか無いのだ。平穏な学校生活に別れを告げてから3ヶ月、自分の中に戦士としての自覚が芽生えてきたように感じるのは気のせいか。普通の高校生にとってそんなもの不要なのだが、そんなことに疑問すら呈さなくなっている。特撮ヒーローのようなバトルを楽しんでいる自分がどこかにいるんだよな。
「勝雄!何ボーっとしてんだ?」
「クーラー効いてて涼しいからね、それでボーっとしちゃうんじゃないの?」
「今日も凄く暑いわよね…」
ところで今僕はどこにいるかというと、駅の待合室に杉宮くんと生保内くん、そして神代さんといる。男2人はいつものメンバーだが、そこに神代さんがいるというのは不思議な感覚だ。元々杉宮くんと生保内くんで北隣の町の大型ショッピングモールにある映画館で映画を観る計画を立てていたのだが、その話をどこから聞いたのか、神代さんもその映画が観たかったらしく一緒に行くことになった。そして今、駅の西口から出ているショッピングモールまでのシャトルバスを待っているところだ。
「あんたたちのクラス、賑やかで仲良いわよね」
神代さんは率先して話題を振る。因みに杉宮くんと生保内くんは神代さんと話すのは今日が初めてだ。
「まあ賑やかなのは確かだな。仲は普通じゃねえか?ってか神代さんは何組だっけ?」
「さっき言ったでしょ、あんたたちの隣のクラス、5組よ。体育の時に5組と6組は一緒に授業するじゃない。あたしのこと見たことあるでしょ?」
「俺は人の顔覚えるの苦手なんだよ。神彦はこの女のこと知ってたか?」
「『この女』って何よ!100歩譲って『咲』、または敬意を表して『神代さん』とお呼びなさい!」
「まあまあ2人共…」
宥める生保内くん。
「勝雄、あの神代とかいう女はいつもあんな感じなのか?」
ヒソヒソ声で杉宮くんが話掛けてくる。
「そうだけど」
「あれはダメだ。俺の苦手なタイプだな」
「2人共、何コソコソしてるのよ!」
「いや別になーんも」
とぼける杉宮くん。
「何話してたかは知らないけど、あたしの悪口言ってたらぶっ飛ばすから!」
神代さんは左手を腰に、右手を指差してどこぞの団長のように言った。
ちょうどそのタイミングでシャトルバスがやって来た。僕たち4人はバスに乗り込み、一番後ろの席を陣取る。他にも僕たちと同じ年恰好の男女が乗り込んだ。
バスに揺られること数十分、目的地のショッピングモールに到着した。店内はしっかりと冷房が効いていてとても快適だ。
「映画は午後からだったわよね?」
「そうだね。先にチケット買っておこうか」
生保内くんはスマホを見ながら話す。
「チケット買ったらゲーセンな!」
杉宮くんは一刻も早くゲーセンに行きたいらしい。
「昼飯はどうする?」
一方僕は昼食の心配をしてみる。
「ゲーセンで遊んでからにしましょうか」
「じゃあ決まりだね」
ということで僕たちは映画のチケットを購入、昼食までゲーセンに入り浸ることにした。
ゲーセンでの楽しいひとときはあっという間に過ぎ、昼食を食べていよいよ映画の時間に迫ってきた。今回観る映画は今、巷で話題の探偵もののアニメ映画だ。上映の時間に合わせて映画館へ行くと、長蛇の列が出来ていた。それだけ人気があるんだろうな。入場者特典もたんまり用意しているのが見えるので、無くなることは無さそうだ。僕たちも入場すべく列に並んだ時、後ろから若い女性に声を掛けられた。白いワンピースに麦わら帽子、恋愛ゲームのヒロインに負けず劣らずのビジュアルである。
「あら、咲?こんなところで一緒になるとはね~」
どうやら神代さんの知り合いみたいだが、どこかで見たことがある顔だ。
「あれ、君って5組だよね?」
杉宮くんの発言で思い出した。隣のクラスの女子だ。
「ええそうよ。あなたは6組の…」
「杉宮理音だ。そしてこいつが生保内神彦」
「どうも」
生保内くんは会釈をする。
「そしてこいつが鹿平勝雄、神代と同じ委員会の奴だ」
「ああ、どうも」
僕も会釈をしておく。何か気の利いたことを発言出来る訳でも無かったので。
「皆さんこんにちは、わらわは5組の土買千亜希よ。よろしく~」
リアルでそんな一人称使う人がいるんだな。
「咲、さっきからだんまりなんだけどどうしたのかしら?」
「どうした?調子でも悪いのか?」
僕の隣でそっぽを向いているので声を掛ける。
「別に何とも無いわ、元気よ」
「元気そうに見えないけどな」
「放っておきなさい!」
「神代、急にどうしたって言うんだ?訳を話さねえと何が何だかさっぱり」
「うるさいわね、黙れ!」
急に大声を出した神代さん。近くにいる人々がこちらを見ている。一気に注目を集めてしまった。
「今は機嫌が悪いみたいね。また後でお話しましょう~」
土買さんは苦笑いを浮かべていた。
そして僕たちは入場して席に座ったのだが、神代さんの右隣が僕、左隣はなんと土買さんだった。
「こんな偶然もあるのね~」
「そ、そうだね」
機嫌が悪い神代さんを挟んで会話、何とも居心地が悪い。土買さんに会ってから神代さんはこの調子、ということは土買さんと何か気不味いことでもあったというのか?
「神代さん、席変わろうか?」
「ここで良いわよ、別に」
神代さんと土買さんの因縁は深そうだ。今はそっとしておくに限るな。
広告や近日中に公開予定の映画の予告編、ビデオカメラとパトランプの被り物をした人の追いかけっこ映像が流れた後、映画本編が始まった。神代さんも気になるが今は映画に没頭しよう。
始まって2、30分くらい経った頃だろうか。神代さんは小声で土買さんに何か話し始めた。
「あんた、何でここにいる訳?」
「偶然よ偶然」
「本当?」
「中学校からの仲じゃない、少しは信頼してよ~」
「あんた、今回のテスト、調子が良かったからって嫌味を言いにわざわざ来たんじゃないの?最初からあたしが今日ここに来ることを知ってて」
「凄まじい妄想力ね~。でもあながち間違って無いわよ」
「あんた、本当最低ね」
「ここで映画観てる暇あったら、次のテストでわらわに勝てるように勉強した方が良いと思うけど~」
「何なのあんた?そもそもその口調と一人称が最高にムカつくのよ」
「話題逸らし~?人格否定はいけないぞ」
「どの口がほざく」
流石にうるさかったので僕は神代さんの右の手の甲をつねった。
「痛っ!ちょっと勝雄、何すんのよ!」
「上映中は静かにしろ。土買さんも静かにして。ケンカしたいなら出ていってくれ」
僕の一言で2人は黙った。一時休戦か。
上映終了後、僕たちは土買さんと別れて帰路につく。帰りのシャトルバスの車内で神代さんは土買さんとの関係、何故険悪ムードになるのか、いろいろ話してくれた。僕は男だからよく分からないが、何かと関係性が難しいな。
隣が気になって映画の内容などほとんど覚えていないが、まあいろいろあった1日が終わった。
そして週明け、僕たち生活委員会は矢文というなかなか古典的なものでゴーターから呼び出された。罠である可能性を考慮し、何かあった時の為に近くに土崎先生が待機している。場所は市内にある体育館、わざわざこんなところへ呼び出すとは。
「やあやあ君たち、よく来たね」
ゴーターは不敵な笑みを浮かべて言う。
「今度はどんなことを企んでいる?」
早くも臨戦態勢の厨川くん。
「企む?ワタシはね、ただ純粋にゲームを楽しんでいるだけさ」
「何か見せたいものでもあって呼び出したのか?」
「鹿平勝雄、勘が鋭いね。その通りだよ。さあ来たまえ」
ゴーターがパチンと指を鳴らすと、体育館の屋根を突き破って何かが落ちてきた。よく見てみると僕たちが通う三高の女子の制服を着ていた。モノではない、人だ。そしてその正体は僕たちがよく知る、というより僕や神代さんが昨日会った人だったのだ。
「あんたは…土買千亜希!」
「咲ちゃん、知ってる人?」
「知ってるも何も、あたしが嫌いな女よ」
『嫌いな女』と紹介される土買さん、ちょっと可哀相だ。
「彼女は土買千亜希、『竜の因子』に憑依された人間だ。右拳に刻印があるだろ?」
確かにいけすかないマークが刻まれている。昨日の時点であったか?いやそこまで見ていなかったな。ってか『竜の因子』って何だ?
「竜の因子?」
「土崎先生に聞いてみなさい。どうせその腕章越しにやり取り聞いているんでしょ?」
『ゴーター、まさか…奴を復活させたのか?』
腕章の通信機能から土崎先生は驚いたように言う。
「『竜の因子』が取り憑いているんだから、そりゃそうでしょ」
「土崎、『竜の因子』とは何だ?」
厨川くんが代表して問う。
『「竜の因子」はかつてドラゴンズファイア、ゴーターが復活させた奴に仕えていた13人の戦士「拾参使」の魂だ。取り憑かれた者はドラゴンズファイアに忠誠を誓い、奴の為に戦う戦士として意識を乗っ取られてしまう』
「土崎先生の言う通りだ。だがこの『竜の因子』は普通とは違う、ワタシにだけ絶対服従するように手を加えたものになっている。ワタシの命令次第って訳だな」
「あの子を助けられないの?」
「あんな奴、助けなくて良いわよ。ななかにさっき言ったよね?あいつはあたしの嫌いな女なの。きっとバチが当たったんだわ。ゴーターの犬に成り下がるなんて良い気味ね」
土崎先生が何かを言い出そうとしたのを神代さんが遮って言う。しかし神代さんもなかなか酷い。
「おい、いくらなんでも言い過ぎだろ!」
ここはちょっと言ってやらないとな。
「勝雄、あんたあの女を庇うつもり?」
「庇っているんじゃない、あのな…」
「そういうケンカは後でしてもらえるかな?さて、新たなゲームを始めようか」
ゴーターが僕たちの方へ指を差すと、
「了解、召喚・死能銃、炸烈弓銃」
2丁銃で土買さんが攻撃を始めた。
キャラクター紹介!
(20)土買千亜希
所属:秋田県立第三高等学校1年5組、拾参使第11大使
誕生日:3月31日
一人称「わらわ」、ゴーターへの絶対服従をプログラムされた「竜の因子」に操られた女子生徒。ゴーター独自のカスタマイズが入っており、邪川刀、悪勝剣、死能銃、炸烈弓銃といった第三神器そっくりな武器で戦う。神代咲とは犬猿の仲である。




