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章末④   そこにリタはいない

「リタ……」


 戦いの場から離れた場所に寝かせたはずのリタの身体が、魔王の後ろにあった。


 まさか、復活……いや、違う。


 鑑定眼で視る限り、彼女に変化はない。

 あいかわらず、魂の抜けた状態。


 だが、動いている。

 そして、後ろから魔王に近づいていた。


 その気配に気づいて、奴が驚愕の声を上げる。


「なんと! これは、どうしたことだ!?

 まだ伏兵がいたのか!」


 いつのまに、2人の魂のこもった2つの指輪がまばゆいほどの光を発している。


 魔王はかなり身体が修復されている。

 それでもまだ、動き出すにはいたらない。


「どこぞで倒れている勇者とお前の魂しか感じないが……。

 いや、これは……あの小娘の!? まさか、後ろにいるのか!?」


『母さまの力を借りて、魔王を封印します』


 突然、リタの声が頭の中に響き、彼女の身体が何かの呪文の詠唱を始める。


 それはさきほど発動された封印術。


 さっきは魔王を封印する前に、結界を破壊されてしまった。

 だけど、今なら!


 魔王の修復しかけていた部分がドロリとただれたように地面に流れ、散乱。

 期待どおり、奴の身体が、徐々に形を失っていく。


「素晴らしい! 今までで一番の驚きだぞ!

 まさか、勇者の加護によらず、我を封印する者が現れようとは!」


 すでに口はないはずだが、どこからからか声が発せられる。

 あいかわらず上から目線だが、自分の運命を察したような発言。


 そんな言葉を残し魔王の身体はそのままリタに吸収され。

 彼女の身体が、徐々に色を失い硬化していく。


 そしてまるで石膏像のように、動かなくなった。



 そんなリタの身体を鑑定する。


 それはすでに人の体ではなく、魔王を封印した聖物となっていた。

 少なくとも数百年は、いかなる術を用いても封印が破られることはない。


「魔王をやっつけたよ、リタ……」


 自然と、そんな言葉が口から漏れた。

 だけど、


 その場に、オレを勇者だと讃えるはずの存在は、いなかった。









 その後。


 魔王が封印された直後。

 外で悠里と戦っていたバルドロールは、それを何らかの手段で察したらしく。

 瀕死のバルドクルツを回収して、残った魔王軍の兵と敗走。


 大聖堂を舞台にした決戦は、終わりをみた。



 それから後、王国と教会側はここまでの流れが全て作戦だったなどと公表。


 オレは魔王を再び封印した大勇者。

 リタは自分の命と引き換えに魔王をその身に封じ、神の元へ帰った聖女。


 などと持ち上げた。

 クソみたいな情報操作だ。


 石化したリタの身体は記念碑として、王城内の中心にまつられることになった。


 城内であるのは、べつにリタをいたわっての話じゃない。

 封印された魔王を魔王軍の残党が奪い返しにくるのを警戒してのことだろう。



 こんな流れで、調印式をぶち壊した罰をオレたちに与えられるはずもない。

 それどころか褒賞を与える、なんて話になった。


 冗談じゃない。


 オレは金品での褒賞を完全に拒んだ。


 その代わり要求したのは、転生者を元の世界に送る研究を進める確約。

 そして、レンの店の各種出入り自由の保証。


 転生者うんぬんは、べつにオレが帰りたいわけじゃなく。

 ましてや連中に気をつかってのことでもない。


 そんなに帰りたきゃ、とっとと帰ってオレの視界から失せてくれればいい。

 そう思った、それだけの話。



 だが、一番目障りな壮五はおそらく帰らないんだろうな。



 やつは王都から姿を消した。


 なんでも教会の審問所に所属することになったらしい。

 読書会のウィーラーが教えてくれた。


 審問所というのは、言ってみれば教会の汚れ仕事を請け負う部署。


 あの手の汚れ仕事を壮五が好き好んでやるとは思えないけど……。

 それだけ追い詰められている、というところだろうか。




 それから一ヶ月ほどたち。


 全壊した大聖堂と周辺に爪痕を残しつつ、王都は元の状態に還りつつあった。


 オレも、午前中には学園に行き。

 昼過ぎに帰ってきて店を開いて。

 少しするとそこに悠里とこよりがやってきて。

 遅れてレンがやってきて、店が忙しくなり。

 時間が来て閉店。


 そんな日常が戻ってきている。


 だけど、


「リタがいなくなったんじゃ、意味ないだろ……」


 その輪の中にリタはいない。





 王城のエントランス。


 その中央に石化したリタが安置されていた。

 学園を出て店に入る前、いつもそこを訪れる。


 許可なき一般人の王城への出入りは基本禁止されている。

 が、オレはほぼ顔パスで入れるようになっていた。

 褒賞のつもりだろうか。


 見張りが気を利かせたのか、今、ここにオレ以外いない。



 リタを鑑定眼で視る。


 なにか彼女を元に戻す方法はないか。

 ずっと探っていた。けれど、見つからない。


 攻略Wikiを探っても、世界樹へダイレクトアクセスしても分からない。


「クソッ!」


 碑文の書かれた石を思いっきり蹴る。

 何度も、何度も。


 つま先に痛みを感じるが構わない。

 むしろそれが自分への罰のように思えた。


 それでも、リタの味わっている苦しみに比べれば!

 こんなの、こんなの!




「ヒドいですよ? 勇者さま。

 確かに、わたしはそこにはいないですけど」




 背後から聞こえた、慣れ親しんだ、そしてずっと聞きたかった声。


 リタの姿を求めて振り返る。




 だけど、そこにあったのはマルチナが魔法物質で生成した仮の身体。


「ふざけるな!!!

 お前は!!! こんな時に!!!」


 ご丁寧に髪の色を金髪なんかにしやがって!


 オレ自身の頭をかっさばいて、中にいるマルチナを掻き出したい気分になる。


「ちょっと、待ってください!

 その、わたし、こんな姿をしてますけど、リタなんです!」


「お前! まだ言うか!」


「ホントにそうなんです!

 その、マルチナさんが、指輪の中の魂と『あくせす』……ですか?

 して、わたしの意識を表に出せるようにしてくれて……」


 思わず入れようとしていた蹴りが止まる。


「……ホントに、ホントにリタ、なのか?」


「はい!

 無事、ではないですけど、なんとか戻って来れました!」

10分おきくらいに連続して投稿します。




ここまで読んでいただいて、ありがとうございます!


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