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レン①   リタを奪われないため、やれること全部やる

 世界樹へのダイレクトアクセスを成功させた。


 これで鑑定情報の源になっている世界樹から、直接情報を得られる。

 オレの知識やスキルの力の高低に関係なくだ。


 一見万能に思える。

 だけどこれはインターネットを検索エンジンなしで使うのに等しい。


 実際、魔王の情報についても世界樹へのダイレクトアクセスをこころみている。

 だけど、結局その片鱗を見ることもできなかった。


 有効に使うなら、事前に知りたいことを調べてイメージを固めないとダメ。

 でないと、なにも得られず、ムダに終わってしまうわけだ。


 また、情報が自分では受けきれない量なら、それに飲まれる。

 自我を喪失してしまう危険もあるのだ。


 乱用はできない。

 とはいえ、強力な能力が身についたのは心強いことだ。



 それでも結局、現状を決定的に解決する方法は見いだせなかった。


 もし第二王妃があんなことになっていなければ。

 あるいは、リタが成長していればなんとかなったかもしれない。


 だけど、ないものを望んでも仕方のない話だ。

 今ある手札で挑むしかない。


 幸い、目的と2つの技を知ることはできた。


 魔王の目的。

 それは、リタに『エヴァンスの扉』を開かせること。


 その扉は魔界と通じており。

 それが開かれれば瞬く間に瘴気が漏れ、王国全体を包み込む。

 人類の中でも抵抗力のない多数は死んでしまうらしい。


 そしてその要求を断った第二王妃は犠牲となった。


 最後に望んだ、娘の笑顔を見ることもできないまま。

 今いる第二王妃は魂を失った生きる屍。


 敵は御前試合の辺りで、そのことに気がついたんだろう。

 だから、今度はリタをターゲットにしてきたわけだ。


 それを知ってしまったら、ますます連中に引き渡すわけにはいかない。


 リタに悲しい顔をさせたくない。

 それはオレも同じだ。




 そうさせないために、連中をどうにかしないといけない。


 そのために有用な、魔王の技の情報。

 それが『真理の魔掌』と『偽りの御手』である。


 『真理の魔掌』は呪文を詠唱することなく、魔法効果を発揮できる。

 ただし必要な魔力は、自然界に存在するものを周りから吸収するようだ。


 つまり、魔法結界の指輪の結界で覆ってしまえば無力化できる。

 その時は、オレも指輪へ魔力の補充ができなくなるけど。


 『偽りの御手』は、魔法や技を無効化する効果をもつ。


 第二王妃は、それを自分の結界術で封じていたが、今回はそれを使えない。


 どう対策するか。

 オレは魔王と対峙する中で見つけ出さないといけない。



 それにしても、やはり疑問はのこる。


 なぜ魔王は誘拐等をせず、敢えて第二王妃に同行を依頼したのだろう。

 それは、リタを条約で連れ去ろうとする理由にも繋がってる気がする。




 コーデリアの指輪の件は一段落ついた。

 今度はこよりをなんとかするために学園へと向かう。


 目的の場所へ通じる廊下に入った時、リタが工房へ入るのを見かけた。


 声をかけようとしたが、すぐだったのでタイミングを逃してしまう。

 気になって、足音を立てず工房に近づきそっと扉の隙間からのぞき見た。


「――ですから、協力して欲しいのです!」


「……リタねえは、シュウにいが死んじゃうのが、怖くないの?」


「それは、もちろん怖いです……。

 でも、勇者さまは1人でも勝手に火の中に飛び込んじゃう人ですから」


「っ! そうだよね!

 確かに、それが面白いところではあるんだけど……」


「でしたら、もう、できるだけ火傷しないように助けるとか。

 火傷してもすぐ直せるように構えているしかないじゃないですか」


「……シュウにい、大丈夫かなぁ……」


「それは、なんとも言えませんが……。

 それでもリタさんにしか助けられないことがあると思います!

 わたしも、手伝いますから」


「……じゃあ、炉に火を入れるの、てつだって」


「はい!」


「それにしても、あたしのような面倒な奴に毎日会いにくるなんて。

 シュウにいのこと、よっぽどなんだね」


「いえ、面倒ではありませんでしたよ?

 こよりさんも、勇者さまのこと、よっぽどなんだってわかってますから」


「ぬぬぬ、リタねえも言うようになったじゃないかぁ」


 ……ここで入っていくのも面倒なことになりそうなんで、そっ閉じ。


 それにしても。

 こよりは、もう大丈夫そうだ。


 ならオレは、オレでやれることをやろう。

 とりあえずは、会わなきゃいけない奴らに会いにいく。




 学園でリタの兄貴に会うことは簡単にできた。

 オレは、第二王妃に関する顛末を知ったことを話す。


「……それで、わたしにどうしろというのだ?」


「とりあえず、何が起こったかはわかりました。

 だけど、それでも、王室がなんでリタを冷遇するのかがわからない」


 確かに冷遇することで、魔物の注意がリタからそれたというのはある。

 だけど、それだけではないような気がしていた。


 その理由を知っておいたほうがいい。

 リタに対してホントはどう考えているのか。


 大切に思っているのならオレの邪魔はしないだろう。

 むしろ協力すら望めるかもしれない。


 けどそうでないのなら……。



「敢えて冷遇することによって魔物たちの目を彼女からそらす目的はあった」


 第二王子は、今まで語らなかった王の真意を語り出す。


「ただ、父は……本当に第二王妃を愛していたのだ。

 王妃をあんな風にしてしまった一因である、自分の娘を恨むほどに」


 第二王妃は最初、ある種の政略結婚で嫁いできた。

 魔王を封印する一族。その血を王室に入れることは悲願であった。


 だがそれとはと関係なく、第二王妃はコーデリアとしてふるまった。

 そんな彼女に王は次第に心を開いたという。


 そして2人の間に子供ができた。

 だけど王はその娘であるリタに、あまり愛情は抱いていなかったらしい。


 それでも10年くらい家族で過ごせば、それは育まれたかもしれない。

 だけど、その前に王妃がなくなった。娘をかばって。


 そして王はその恨みを晴らすかのように娘をぞんざいに扱うようになった。


 また、第二王妃を救えなかった勇者を王都から追放してしまう。

 彼はその後、王国内で独自に活動していたようだ。


 だけど今、壮五が勇者の加護を得ているということは、すでに彼は……。



 ……八つ当たりじゃねーか。



 リタでうさを晴らしているようにしか思えない。

 彼女を守るためなんてのを建前にして。


 もっとも、単なる八つ当たりだったことにホッとしてもいる。

 これで、これから行うことへの良心の呵責がだいぶ少なくなった。


「お前は、これからどうするんだ?」


「最終的な講和の内容にもよりますが……」


 オレは一応前置きをおく。


 だけど、リタが連れ去られるのは確定だろ。

 第二王妃の顛末からして。


「リタをさらい、魔王の手の届かないところまで逃します。

 引き渡された後にさらえば、それは魔王軍の失態でしょう?」


 そんな単純な話ではない。そんな表情をしている。

 実際、調印式でそんなことを行えば、王国の責任問題も発生するだろう。


 だけど、知ったことか。


 オレはこの世界の人間ではないし、学園からも追放されてる。

 だったら勝手にやらせてもらう。


 調印式まで待つのは、オレにできる最大限の譲歩。

 ホントは、今すぐにリタを連れて国境沿いの辺境都市に逃げ込みたいんだ。


 そんなオレの決意を汲み取ったのか、


「リタを、よろしく頼む」


 チャールズは頭を下げた。



 夕方近くに、店にレンが来た。


「ホントにごめんなさい。

 いろいろなこと、シュウくんに任せっきりで……」


「いや、レン姉さんこそ、大変だったでしょ。

 それで……講和のほうはどうなったの?」


「講和会議は、無事に終了したわ。条件もほぼそのままね。

 ……シュウくん。やっぱり魔王と戦うのよね?」


「……リタを連れ出す際に、それを阻むなら、そうなる」


 オレは、第二王子に話したことをレンにも語る。


「ホントにもう、仕方のない子ね」


 そう言いながら、どことなく嬉しそうなレン。


「その……止めないの?」


「どうかしらね。

 確かに危ないことはして欲しくはないのだけれども……」


「それは……ムリかな」


「それじゃあ、危なくないように周りががんばるしかないじゃない」


「いや、その……ゴメン」


「それで……何か作戦はあるの?」


「正直、ある程度出たとこ勝負なところがあるんだけど……。

 実はさ、オレの鑑定眼が強化されたんだ」


 世界樹へのダイレクトアクセスでもたらされたのは情報だけではなかった。

 鑑定眼など従来からのスキルも強化されたのだ。


 鑑定士としての力が増したわけではないが、力の使い方が上手くなった。

 そんな感じだろうか。


 今のオレならランク4のアイテムならほぼ欠損なく情報の収集ができる。

 もう少し力を上げればランク5でも欠損なく鑑定できそうだ。


 今の鑑定眼で魔王を視れば、また前とは違った結果が出るかもしれない。

 そんな期待を抱いている。


 そういえば転生者のランクは大体4。


 そのなかでもとりわけ、レンの鑑定結果の欠損が著しく多かった。

 今、彼女を視たら、どんな結果がでるんだろう。


 ちょっと腕試し。

 そんな軽い気持ちで、レンを鑑定した。




「……」


「どうしたのかしら? シュウくん」


「……レン姉さん、メリオールの変化装備を、使ってない?」


 メリオールの変化装備は対象そっくりに化けることのできる指輪。


 見た目はもとより表層的な記憶までコピーする。

 それで化けると本物との見分けがまったくつかない。


 装備している指輪も消せるため、それも見分けるのには使えない。

 オレの鑑定眼でも、鑑定結果に変化装備のことが表れることはなかった。


 今までなら。


 だけど強化された鑑定眼は、彼女の真実の情報を欠損なくオレに見せる。

時間を置いて、もう一話投稿します。



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