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講和会議③ とんでもない奴と再会した

「言わないであげて、アオイくん。

 あれは2人で相談して、あらかじめ決めていたのよ。ああやり取りするって」


「ああ、最初から王侯貴族や教会には静観してもらうつもりだった。

 そのために、敢えて連中寄りの立場に立って意見をしてたんだ」


 連中には、オレやレンがリタを第一に考えてるなんてお見通しのはず。

 それを丸出しにして意見したって通るわけない。


 だから役割分担をすることにした。

 リタを守る立場の発言をレンが、王侯貴族寄りの発言をオレが、という感じで。


 ……そのために、オレは、オレはリタに価値がないなんて、あんな発言!


「シュウくん、わかってる。

 わかってるから……」


 つい表情に出てしまったかもしれない。

 レンになだめられてしまった……。


「そういうことか。

 だとしても、彼らに静観させるというのはどういうことだ?

 リタ殿下の引き渡しを条件から外せばいいだけではないのか?」


「いや、たぶんあの条件は外れない」


 『リタの引き渡し要求は、他の要求を通すための囮』とレンに言ってもらった。

 確かにホントにそうなら外すのは簡単かもしれない。


 だけど王室が、リタを引き渡さないために他の条件を飲むなんてありえない。

 そんなことはこの国をちょっとでも探ればわかるはず。


 それが奴らにわからない、なんてありえるだろうか?

 枢機卿に化けた魔物まで入りこませていたのに。


 また、もしリタを手に入れたいなら人知れずさらえばいい話。

 容易にできるだろう。


 つまり、講和条件の中にわざわざ盛り込む必要はないのだ。


 なのに敢えて講和条件に含めた。

 それを、こちらが要求したからといって外すだろうか。



「だから、魔王のことを探る。なにを狙っているかも含めてさ。

 その情報のなかに、リタを助けるカギがあるかもしれない」


 そして会議では敢えて、こちらがどうするつもりなのかやんわり触れた。

 だまって勝手にやると邪魔される可能性もある。


 お偉方だって、魔王が倒せるのならそれに越したことはないと思ってるだろう。

 だけど、オレたちが無謀な賭けに出て、魔王を刺激するのも望ましくない。


 だから『時間があれば倒せる』と計算があるように見せかけたのだ。


「一つ聞くが、リタ殿下を助ける手段として魔王を倒すことも考えているのか?」


「可能な限り避けたいな。

 けど、それしかないならなんとかやってみるさ」


「やってみるなんて軽く言うが、できるのか?」

 

「正直、今はなんとも言えない。

 だけど目算がないわけじゃない」


「なるほど、わかった。ならば転生者の中でも信用のおける者に話をしておこう。

 姫が奪い取られることになりそうなら、お前が黙っていない、とな」


「いや! それは! ……まあ。

 よろしく頼む」


「それで、わたしにできること、ないかしら?」


「レン姉さんは、龍介と組んでクラスの転生者をとりまとめておいて欲しい」


「わかったわ!

 お姉ちゃんにまかせなさい!」



 こうして、なんとか段取りはついた。

 これからやることは大きくわけて3つ。


 なぜ魔物たちがリタを手に入れようとしているのか探ること。

 鑑定士としての能力を鍛え、少しでも魔王鑑定の精度を上げること。

 魔王と戦うための手札を増やすこと。


 とにかく、乗り切るしかない。




 話し合いが終わった後。

 悠里が特訓をしているという場所にレンと足を運んだ。


 ブンブンと大鎌を振り回している悠里が、遠くからでも見てわかる。

 リタもそこにいた。ちょっと顔を合わせづらい。


「よ、よう」


 普段通りでいればいいのか。なにか言葉をかけるべきなのか。

 うーん。


「あ! 勇者さま!

 レンさん聞きました、魔王との講和に向けてとてもがんばってるって!」


「え? あ、まあ、ね」


「シュウにい。お偉方と会議とかでやり合ったんだって?

 ホント、ガラにもないよね」


「言わないでくれ、オレが一番よくわかってるから……」


「でもお姉ちゃん、このままだとシュウくんが腹黒くなりそうで心配よ?」


「いえ、この男、今でもかなり腹黒ですよ?

 レンさんはコイツと模擬戦をあまりやらないからわからないかもですけど」


「え? そうなのかしら?

 ……じゃあ、模擬戦禁止!」


「いや、それは困るって、レン姉さん」



 そのあと『模擬戦は1日1時間』とレン姉さんが言い始めた。

 まるでどこかのゲーム名人みたいな。


 そういうわけで、今日は模擬戦を早めに終わらせて一息つく。

 そこに、リタが話しかけてきた。


「それであの……どうなのでしょう?

 魔王は、平和を望んでいるのでしょうか?」


「正直、なにを考えてるんだかまるでわからない」


 なにか策謀を巡らせているように感じる。

 けど案外、なにも考えずにやりたいようにやってるのかもしれない。

 どちらにも思える。


「でもアイツ、もうすごい人数を殺してるんだよ!?

 良い奴なわけないじゃない!」


「お前は単純でいいよな」


「なにおう!?」


「そういえばシュウにい、あとでちょっと相談したいことあるんだけどいいかな?

 もうすぐ『シロの中のシロ』の試作品ができそうなんだ」


「シロの中の……ああ、あれか!

 わかった、工房に行こう!」 


「なになに? 新兵器?」


「まあな、魔王がどう動いても対応できるようにしておかないと」


「あ、ちょっとまって、シュウくん!

 あらかじめ、これを渡しておこうと思うのよ」


 そう言って、レンが指輪を差しだしてきた。


「ひょっとして婚約指輪? レンねえ」


「婚約! きゅぅ――。

 いえ、そうじゃなくてね」


 てかそれ、男が渡すもんだろ。


 それは転移の指輪だった。

 いつぞや商団を魔物から守った時に、レンがその主人からもらったアイテム。


 この指輪はどこにいても一度行った龍門の前に転移できる。

 転送系の効果をもつアイテムは他には見られない、例外中の例外。

 超レアアイテムだ。


「こんな貴重な物、どうして!?」


「そうね……例えば、ここにいる全員が捕まったとしてもね。

 シュウくんが無事なら、きっとわたしたちを助け出してくれると思うから」


「いや! 万が一を考えるならリタが持ってた方がいいだろ!」


「ダメです! お願いします! 受け取ってください、勇者さま!

 わたしだけ助かっても仕方ないです! みんなで助からないと……」


 リタにまでお願いされてしまった。


 たぶん言った通りのことだけじゃない。

 最近オレが無茶ばっかりしてるから、その辺り心配されてるんだと思う。


「わかった、ありがたく借りるよ」


「そういえばさ、これ、アンタとこよりで複製とか改造とかできないの?

 いろんな場所に行けるようにして、それをみんなで持てば解決じゃない?」


「それができれば苦労しない」


 複製や改造をするには、オレの鑑定眼で細かい解析を行わないといけない。

 だけどこの指輪のレアリティランクは5。今のオレの実力じゃムリ。


 それに、仮に解析できたとしても、転送には莫大な魔力が必要だ。

 それこそ王都が吹っ飛ぶくらいの。


 この指輪は龍脈を力の供給源にしてる。

 だから龍門以外のところには転移できないのだ。


 その辺りの説明をすると、悠里が残念そうな顔をした。

 とはいえ、完全にあきらめてるわけじゃない。


 鑑定眼を鍛え、いつかは実現するつもりだ。




 次の日。


 開店前の一区切りついたところで、店の前のイスに座って一息ついていると。

 何者か、大男がオレに近づいてきた。


 風貌から察するに格闘家なんだろう。

 目をつぶっているが、見えないのだろうか。それとも修行の一環?


 てか、ものすごい見覚えがあるんだが、いつ会ったのかまるで思い出せない。


 おもわず鑑定眼で相手を視る。

 表示はほとんど伏せ字だが、名前だけはわかった。その表示内容に驚愕する。


 バルドゼクス――鑑定結果にはそう出ていた。



「お前一体――」


「おっと、勘違いするなよ?

 別にここでおめえと殺りあおうってんじゃねえ。ちょっと挨拶に来ただけだ」


 確かにこいつが殺るつもりなら、堂々と城門の前でオレを呼び出すに違いない。


 それにしても。

 服装などは変わってないが、肌が普通の人間の色なのでまるで気づかなかった。


 ひょっとして……。


「それは、変化装備で化けたのか?

 随分と、元の身体に近い人物を見つけたな」


「あ? 別にそういうわけじゃねえ。ていうか、知らねえのか?

 変化装備は部分的に変化させることもできるんだぜ?

 例えば肌の色とか、魔物特有の魔素とかな」


 マジか、そんな機能があるのか。


 目の前のバルドゼクスをマジマジと見つめる。

 ……あれ?


「お前今、変化装備を使ってるんだろ?

 でも、指輪をつけてないよな」


「あ? そんなの、指輪の機能で隠してるに決まってるだろ。

 なんだ、知らなかったのか? ほら」


 そう言って立てた人差し指をこちらに見せると、指輪が現れた。

 思わず息を呑んでしまう。

 

「でも、前に襲撃してきた奴は指輪を丸出しにしてたぜ?

 どういうことだ?」


「あ? オレが知るかよ。

 大方ロール辺りが絡んでるんじゃないのか? 面倒くせえ」



 『指輪を隠せない』それがメリオールの変化装備の唯一の欠点だと思っていた。

 今の城門の警備も、それが前提になってる。


 ヤバいな、この前提が崩れるというのは。



「まあ、すぐに再戦ってワケには行かねえだろうがな。

 講和がご破算になったら真っ先にてめえを潰してやるから、そのつもりでいろ。

 それだけを言いに来た、じゃあな」


 は自分の言いたいことだけ言って帰ってしまった。


 しかし、どうするか。

 ターゲットとして付け狙われていることも問題だけど……。


 アイツは視覚を失って、なお普通に行動できていた。


 おそらく気配だとか、視覚以外で周りを感じ取るすべを身につけたのだろう。

 だとすれば、たぶんアイツにはもう『黒の中の黒』が通じない。


 ……新たな攻撃方法を考えておかないと。

18時ごろに続きを投稿します。



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