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講和会議④ 転生者クラスの連中の尻を叩くことになった

 講和のために魔王が王都に来るまであと1ヶ月。

 それまでに奴と対峙する準備を整えつつ、その目的を見極めないと。


 そんな状況だが、それでも出張の時と比べれば平穏な日々が続いてる。


 その日の昼、オレは品の整理をしていた。その最中。

 転生者40名近くが大挙して店に押し寄せてきた。

 レンとこよりはその中に見当たらない。


「おい鑑定士! レアアイテムをよこしやがれ!」


 勇者の取り巻きどもが、店の前で怒鳴り散らす。

 うん、強盗かな?



 少し遅れてやってきた龍介が困った顔をして状況を説明してくれた。

 転生者クラスの連中の立場は今、微妙な感じになっているようだ。


 てか、前線での彼らのふがいなさはすでに多くの王都民に知られてるわけで。

 また魔王に対してまったく歯が立たなかったことも、どこかから漏れてる。


 そして、講和条件に転生者についての記載がまるでない。

 それを王国民は『魔物は転生者なんて眼中にない』と受け止めている。


 『戦闘系転生者は戦力外の役立たず』

 王国内にそういうイメージが浸透しつつあった。


 またガチ勢には『魔王を倒せば元の世界に帰れる』という希望があった。

 だからこそ、今までがんばってこれたわけで。


 なのに今更、魔王を倒す必要がなくなったら自分たちの扱いがどうなるか。

 それが、彼らの不安のタネになっている。


 そんなわけで、転生者たちのテンションもだだ下がり。

 そこをなんとかするために、レンと龍介で色々おだてたらしく。


 そしたら、勇者の取り巻き連中が調子に乗ってこんな状況になったようだ。

 うん、やっぱり強盗だ。



「大体なに、非戦闘職が戦いにしゃしゃり出てきてるんだよ。

 お前はアイテムと情報だけよこして、あとは店でもやってりゃあいいんだよ」


 勇者の取り巻きの1人がさらに絡んでくる。


「だが、勇者でも勝てなかった魔王軍幹部を退けることができたのは、彼だけだ」


 早速、龍介がフォローを入れてくれた。


「そりゃあ、あんなチートアイテムを使えば誰だって勝てるぜ。

 それをこいつが独り占めしなければオレたちだって――」


「別にオレは、どこの店でも売ってるようなアイテムしか使ってないぜ?」


 そういって自分の指にはまっている指輪を見せる。

 こよりに作ってもらった『黒の中の黒』『魔力結界の指輪』を除けば、


 回転の指輪x2

 具現の指輪x2

 タイムストップの指輪

 太陽の指輪x2

 破壊の指輪


 機会さえあれば誰でも手に入れられるアイテムだ。


 こより手製の指輪だって、仲良くなれば誰でも彼女に作ってもらえたはず。

 オレが今くらい話せるようになるまでどれほど苦労したか。


 マルチナにしたってそうだ。

 適性があり古城へ行く機会があり、ダンジョンを攻略できれば誰でも得られる。


 大体、


「あのさあ、コイツはわたしたちが追い出したも同然じゃない。

 それを今更アイテムを提供するのが当然って、どんだけ恥知らずなの?」


 悠里が代弁してくれた。


「そういうお前は、コイツとよろしくやってたじゃないか」


「あのねえ、わたしがコイツを戦いの場に引っ張り出すのにどれだけ苦労したと」


 うーん、そこは悠里が暴走しただけのような気が。



 不意に小石が店の前に投げ込まれる。

 それは怒鳴り散らしていた取り巻きの1人にあたった。


 石を投げ込んだ子供が叫ぶ。


「お前ら! うちの父ちゃんを見殺しにして砦から逃げ出したんだろ!

 天使のにいちゃんがいなかったら皆死んでたんだろ! なんでいじめるんだ!」


 それを皮切りに、


「天使様になんて口を利きやがる! この罰当たり共が!」


「働きもしないクセにただ飯喰らいやがって!」


「そうだそうだ! 俺たちと天使様に謝れ!」


 周りで見ていた王都民が騒ぎ始め。

 子供の行為に追従するように物を投げ始める。


 当たってもほとんどダメージにならないが、それは転生者の精神を打ちのめす。

 住人に対して抵抗する者はいない。



「待ってくれ! みんな!」


 オレは声をあげずにはいられなかった。


 それにより、みんなの動きは止まる。

 だけど周りの町人の怒りは収まる気配がなく、ほっとくと暴動が起きかねない。


 そこで龍介が両膝をつき、土下座の体勢を取った。


「お前1人を戦わせ、王都を守ることもできなかった。

 すまない」


 この世界に土下座という風習はないが、龍介の誠意と無念は伝わったんだろう。

 周りの怒りが収まりを見せ始める。


 それを感じ取ったのか、次々と土下座の姿勢を取る転生者たち。

 そこに立つのはオレと悠里と、勇者壮五だけになった。


 なんだ勇者いたのか。

 てか、多分コイツが裏でなにかしたんだろうな、きっと。


 勇者壮五はオレをにらみつけると、1人この場を去った。

 それを妨げようとした王都民は、奴の表情をみて動きを止めた。



 勇者が去ったあと、オレは自分の思惑を話す。


「でもあの日に魔王と戦ったけど、全然歯が立たなかったんだぜ?

 俺たち、ホントに勝てるのかな……」


 あの日、魔王と戦ったらしい奴がそんな弱音をはいた。


「そんなこと言ったら、オレだって魔王の幹部と戦って勝ってるんだぜ?

 要は戦い方だ」


「それで、なにか作戦はあるのか?」


「どうあれ、まずは魔王を鑑定しないとな。

 それで弱点を見いだして、そこを突く」


「そうか! 確かに鑑定士だもんな!

 それで魔王幹部にも勝てたのか!」


「よし、いける。これはいけるぞ!」


 実際の所、バルドゼクスは『魔法に弱い』程度の鑑定結果しか出ていない。

 攻撃魔法に関しては火の玉一つ打てないオレには意味のないものだったわけで。


 だけどまあ勘違いでも、それでやる気になってくれるのなら、幸い。

 とりあえず、なんとかこの場は収まった。




 それから数日後。


 いつも模擬戦などをしている場所に、オレは皆を呼び寄せていた。

 そこにはなぜかバルドゼクスがいて、悠里と戦っていた。


「お! お前!」


「心配するなよ。じゃれ合ってるだけだ。

 こいつ腕はまだまだだが、戦っている間に成長しやがる。暇つぶしにはいい」


 ……まあいいか。

 ちょっと実験に付き合ってもらおう。


 こよりも、なにか試作品を持ってきていれば都合がいいんだけど。

 そういえば、こよりの姿が見当たらない。


「こよりが来てないみたいだけど。

 なにか聞いてる?」


「いえ、さっきまではいたんですけど、少し前に男の方がやってきまして。

 少しやりとりをしたら、青ざめた顔をして王都へ戻っていってしまいました」


「ええ、そうね。

 それにしても、あの人、どこかで見たような記憶があるんだけど……」


「そっか、色々聞きたいことや頼みたいことがあったんだけどな。

 まあいいや。悠里は前、バルドゼクスは後ろからな」


「おうおう、いよいよ勝負ってわけか、たぎるねえ」


「ちょ、ちょっと待ってくれ、単に実験したいだけなんだ。

 悠里と戦ってる時と同じくらいでやってくれ」


「むかー。

 なんかそれ、わたしが弱いみたいに言われているようでショックなんだけど」


「へへ、オレの身体におめえの鎌を少しでもかすらせてからにしろってんだよ。

 そんな偉そうな口叩きやがるのは」


「ゼクス! コイツとの模擬戦終わったら、またわたしとね!」


 こいつら、すっかりなかよしさんだ。


 てかオレ、一度も悠里から名前呼ばれた記憶ないんだけど。

 なんかいつも『アンタ』とか『こいつ』とか。

 地味にショックだ。



 2人が配置についたので、オレは神鋼の破片を取り出すと構える。

 たちまち鎧と神鋼翼が展開される。


『よし、マルチナ、よろしく頼むな』


『はい。もうすでに臨戦態勢に入ってます』


「もう始めてもいいのか?」


「ああ、いつでも来てくれ」


 オレが告げると、悠里が動き出した。

 おそらくバルドゼクスもだろう。


 悠里が迫るよりも遙かに早く、背中に衝撃が走る。


「あ? どうやら、前に戦った時の弱点へは対応してあるようだな」


 以前だったらそれなりにダメージを受けていた背後からの攻撃。

 だけど今回は正面から喰らうのと同じ程度。


 こよりに作ってもらった『眺望の指輪』の効果によるものである。

 これにより、マルチナの神鋼翼の制御に死角はなくなった。


 この指輪は自分の視野を広げる。

 パノラマ写真みたいに正面を向いたまま真横や真後ろが見えるようになるのだ。


 しかもこの指輪は使用者にダイレクトに情報を伝える。

 だからオレの視界には影響がなく、マルチナだけで視界情報を得られるのだ。



 一方、正面の悠里の方は


「うわ~~、楽し~~!!」


 オレの神鋼翼をスパスパ切り裂きながら狂喜してる。


 翼と大鎌は同じ神鋼だが、農民の加護を受けているぶん悠里に分があるのだ。

 だけど、対策はある。


 オレは回転の指輪の反発力を翼の表面に付加した。

 その部分に刃が当たった瞬間、ものすごい勢いで弾かれる。


 大鎌は彼女の手を離れ、吹っ飛んだ。


「なるほど。斬撃を反発力で弾くとは、面白いことを考えるな」


 バルドゼクスの言う通り。

 翼の表面に接触した瞬間、そこに付加された反発力で刃が吹っ飛ばされたのだ。


 その際、接触がトリガーになるので、堅さや切れ味などは一切関係ない。

 切ろうと思ったら、反発力より強い力で刃を押しつける必要がある。


 実質、大体の斬撃を防ぐことが可能だ。


「しかし、今のままじゃあ魔王様に対抗するには足りねえなあ」


「そんなことわかってる。

 けど、一つ一つ手札を増やしていくしかないのさ」



 まあ、今回の模擬戦で試したいことは大体試せた。

 個々の技の練度はいい感じに高まってると言っていいだろう。


 あとは、こよりの作ったアイテムや武器次第だけど……。

 ちょっと、工房に行ってみるか。




 模擬戦を終え、学園に足を運び、彼女のアトリエを覗いてみる。

 こよりが工房の隅で震えていた。

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