幕間⑨ 戦士龍介、魔王と戦う
※龍介視点
※ガナクス砦が襲撃される2日前
御前試合で勇者に敗北、負傷した後。
私は1ヶ月ほど療養せざるを得なくなった。
後で話を聞くと、どうやら鑑定士シュウに助けられたようだ。
そして、その時に彼は勇者と戦ったとも聞いた。
戦闘不能に追い込んだとも。
マグレだと言う者もいる。
だがそんなことで倒されるほど、勇者は生やさしくはあるまい。
偶然の要素はあったにしても、それを引き寄せる必然があったのだろう。
私が全快した時、すでに多くの転生者が前線へと赴いていた。
自分は取り残され、置いてきぼりを喰らったようだ。
以前なら歯ぎしりをしているところだろう。
だが今は、それを受け入れている自分がいる。
今後どうするべきか、考えたいと思っていた。
これはいい機会だと思う。
療養を終えた後、私は鍛錬を再開した。
少しでも勇者に追いつくように、そしてシュウに負けないように。
そんなある日、教会から緊急の呼び出しがあった。
王都に、強力な魔物が正面から入りこんだというのだ。
それもたった1体だけ。
その魔物は王都の門を守る守備兵を門ごと蹴散らし、侵入。
王都内に入ってからも、衛兵のいかなる攻撃も拘束も受け付けず侵攻中。
中心の城に向けてゆっくり歩を進めているらしい。
魔素の反応は、過去に王都で観測された魔物のどれよりも強いらしく。
観測所では魔王軍幹部の中でも上位の存在ではないかと推測されていた。
その魔物は侵攻中に、兵を1人捕まえて王の居場所を聞いたそうだ。
目的は王の誘拐、もしくは殺害。あるいはこの行為自体が囮。
そんなところだろうか。
シュウならどう判断するだろう。
王は今、城の謁見の間にいる。
魔物襲撃の話を聞いても『自分はここを動く気はない』と語ったそうだ。
そこで謁見の間で待ち構え、来たら転生者全員で迎え撃つことになったらしい。
そして私もそこで待機することとなった。
謁見の間。
普段なら各国の重鎮が王への目通りをかなえている時間だ。
そこは今、ピンとした空気で張り詰めていた。
場外ではすでに千人単位の兵士が犠牲になったと聞いている。
『数の問題ではない。おそらく人ではアレに勝つことはできない』
私に魔物襲来を知らせた者が、震えながら語っていたことを思い出す。
今王都にいる転生者は、前線に赴いた勇者についていかなかった15名ほど。
ほとんどは、訓練の時にあまりやる気を見せなかった者たちである。
だが、もはや卑下はすまい。
非戦闘職でやる気を見せなかった彼ですらあれだけやれたのだ。
実戦で真価を見せる者もいるかもしれない。
そんな我らの後ろで、王は王座に座り、特に興味なさげに扉を見ていた。
まるで空気が読めていないように思える国王。
私の彼への印象は『得体が知れない』につきる。
リタ殿下の身の上を聞くと、あまりよい印象は持てない。
だが、それにもなにか理由があるのかと思ってしまう。
今回、自ら囮を買って出たのは勇気か蛮勇か、あるいは無邪気な好奇心か。
そもそも暗君なのか名君なのか凡君なのか、その人となりがまるで分からない。
やがて、扉の外から爆音と悲鳴が聞こえてきた。
ようやく問題の魔物が場内に侵入してきたようである。
時折聞こえるその2つの音は徐々に大きくなり。
発生源が近づいていることを物語っている。
やがて、今までで一番大きな爆音と共に、扉が破砕した。
そこから1体の魔物が姿を現す。
「近衛か、大義である」
そいつは、まるで主人が臣下をねぎらうような言葉を発した。
その魔物は人型で、身長は2mにも達しており、装備は軽装と言っていいもの。
頭の左右と眉間に生えた鋭利な角が彼が人ではないことを示している。
だが、それ以外は一見ただの屈強な大男にしか見えない。
問わずにはいられなかった。
「お前は、何者だ?
魔王軍の幹部なのか?」
「許す」
「……は?」
「余を魔王軍の幹部扱いなど、無礼極まりないが。
通達もなく名乗りもせずに、王の庭に踏み入った余にも落ち度はあろう」
「魔王軍じゃないのか?」
「ならば、今こそ名乗ろう!!!
余こそはヴェール!!! お前たち人間が魔王と知る者である!!!」
バカな、ありえない。
「ま、魔王!?
お前は、封印されているのではないのか!?」
「ほう。余が300年周期で復活すること、存外知られていないのか?」
「いや、それはまだ10年先のはず。
なぜこんなに早く」
「ふむ、お前たちとて毎朝寸刻の狂いなく同じ時間に目覚めるわけではあるまい。
あるいはクルツかロール辺りの仕掛けかもしれないが……」
だが認めざるを得ない。
1体で千人単位の軍勢をねじ伏せる存在など魔王の他にありはしないだろう。
しかも疲労も負傷もないなどとは。
それにしても、こんなところにこんなタイミングで現れるなんて。
あまりにも非常識すぎる。
だが私も『まだ10年ある』などと思って日々を過ごしていたわけではない。
いつでも魔王と戦えるように、鍛錬を積んできたつもりだ。
特に、御前試合で負けた傷が癒えた後はそれを乗り越えるように鍛え上げた。
今の私ならあの時の勇者にも勝てるはず。
それに、
「そんな、いきなり魔王と対決なんて!!
オレたちで――」
「勝つしかあるまい。我々はそのために呼ばれたのだから。
それに、奴さえ倒せれば元の世界に帰れる。そう思えば力も湧いてくる」
「そうだな!
奴さえここで倒せばオレたちは帰れるんだ!」
教会の人間には
『ここから元の世界に帰る装置は、魔王軍の領地にある』と聞かされてきた。
戦う気にさせるウソかもしれない。
だが、オレたちはそれに賭けるしかない。
「なにをしている!!!
早く戦わんか!!!」
王の側で待機していた重臣が一言を発し、それが合図となった。
前衛である我々が一斉に構える。
同時に後衛の魔術師は援護系の魔法を掛け始め。
それをひとしきり終えると、今度は魔王に攻撃呪文を浴びせかけた。
魔王がどの属性呪文に弱点や耐性を持っているか分からない。
だが事前に打ち合わせ、一般論的な判断で光属性中心の構成となっていた。
こんな時に彼がいてくれればと思うが、いないものは仕方がない。
だが、魔王に効果がある感じは受けない。
それどころか、王座に向けてゆっくりと歩みを進め始める。
この場にいる前衛は私も入れて合わせて5人。
そのうち3人が一斉に剣で斬りかかるが、その剣がことごとく折れてしまう。
そしてそのまま吹っ飛ばされてしまった。
一体、魔王のなんの攻撃に剣が折れ、吹っ飛ばされたのか分からない。
残った前衛の1人は、足をガタガタ震わせて、もはや戦えるように見えない。
私は1人、剣技『神速連撃』を魔王に浴びせる。
勇者の神速剣を参考に、そのスピードをあげ、さらに連撃へと結びつける技。
魔王は大した防具を着けているように見えない。
神鋼で作られた剣で切れぬ道理なし。初撃で首を狙う。
だが、振り抜けなかった。
辺りに、まるでバーナーで金属を焼き切る時に出るような火花が散乱する。
削れてしまった神鋼の刃から飛び散ったものである。
魔王はこちらの攻撃をまるで意に介することなく正面を向き、歩くだけ。
続けて魔王の身体を技で乱切りする。
だが身体に届くどころか、布でできているとしか思えない衣服すら裂けない。
首を狙った時と同じような火花が出るだけだ。
その刃が何十回か奴の身体を舐め、その後まるでガラスのように砕けた。
そこでようやく魔王がこちらを向く。
「見事な花火だ。先ほどの光の見世物といい、これほどの手厚い歓迎。
ならば余も返礼しなければなるまい」
そういうと、奴はその場で拳を振り上げる。
その腕を中心に周りの空気が渦を巻き、引き寄せられる。
なすすべなく立ちつくす後衛や近くで倒れていた戦士たちがそれに吸い込まれ。
竜巻に巻き込まれたかのように舞い上がる。
少し距離を離していた私は、引き込まれないように耐えるのが精一杯だった。
それが収まった後足が言うことを聞かず、膝をついてしまう。
「くそっ、魔王は魔法の威力も桁違いか」
「なにを勘違いしている。
これは魔法ではない、タダの拳圧だ」
……魔法ではない、だと。
単に腕を振り上げただけであの威力なのか。
私はもはや立ち上がることもできず、呆然と魔王が歩むのを見届けていた。
そして、魔王は王を手にかけられる位置までたどり着く。
重臣はすでに逃げ、もはや周りに王を守る者はいない。
だが魔王は手を出さず、今更な問いを発した。
「現国王はお前か」
「だとしたら、魔王がここへ何用だ?
我の首でも取りにきたか?」
王は特に怯えるでもなく、逆に問い返す。
だが、魔王の返事は、おそらく誰も予想だにしなかったものだった。
「別にお前の首など要らぬ。
余は、王国に降伏を勧告に来た。受け入れるのなら講和に応じる用意がある。
その上で、首を余に捧げたいと言うのなら好きにするがよい」
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