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幕間⑧   勇者壮五、フルボッコ

※勇者壮五視点


 昨日、やっとの思いでガナクス砦へたどり着いた。

 だが油断はできねえ。


 2つの砦が落ちた今、次はここがターゲットになるだろう。

 そうなれば、この俺が矢面に立たされるに違いねえ。


 あのクソ魔物どもがここへつく前に後方へ逃げねえと……。


 逃げる?

 いや、違う! これは戦略的撤退ってやつだ!


 距離をおいてアイツを観察して弱点を見つけて、それで……。


 そうだ!

 確かベレビア砦へ逃げこんだ前線のゴミどもの中にカス鑑定士がいたはずだ!

 そいつなら、あの魔物を目撃してるかもしれねえ!



 だが、そいつは「そんな魔物は見てない」とか抜かしやがった。

 そんなわけねーだろ!


 だが、いくら問い詰めてもその一点張りだ。

 クソがっ!


「戦うのは僕だっていうのに、協力もできないなんて。

 非戦闘員なんて、気楽なものだね」


 ボコ殴りにしようかと思ったが、イヤミの一つで済ませることにした。

 こんなカスに少しの時間もかけるのが惜しいぜ。


 だが、去ろうとする俺の襟首をつかもうとしやがった。

 とっさにそいつの手首をつかんで振り払う。

 カスが俺の襟首をつかむとか、十年早えー。


「気楽だと!? オレたちだって前線に出てるんだ!

 死ぬ気でやってるんだよ! お前こそ! なんで逃げ出したんだ!」


 ……なに言ってやがる。

 カスがいくらいようとなんの役にも立たねーだろうが。


 世界のために重要な俺様の命と同じにするんじゃねえ。

 それに、


「逃げたんじゃない。戦略的に必要だったから撤退しただけだよ。

 それとも、僕が最後まで戦って死んだほうがよかったっていうのかい?」


「ふざけるな! せめて、勝手に撤退せずに皆にそのことを一言でも言ってれば!

 オレの、オレの親友が死ぬことはなかったんだ!!!!」


 ……。


 はあ?


 カスが一人ゴミになったからってグズグズいいやがって。

 それが、俺様が命をかける理由になるのかよ?


 それを、男がメソメソと泣きやがって、気持ち悪い。


 だがまあ、こういうのは放っておくとあとで面倒ごとになりかねないからな。

 ここは――



 いきなり少し遠くのほうで爆音がしたかと思うと、地面が細かく揺れやがった。


「おい!!! 勇者!!! ここにいるんだろ!!!

 出てきやがれ!!!!!」


 あ、あいつだ! あのクソ魔物!

 ここにいたら、こ、殺される!


「100数えるまで待ってやる!!!

 もし出てこなかったら! オレ1人でここにいる奴ら皆殺しだ!!!!!」


 声の感じからして、まだ近くには来ていねえ!

 は、早く、ここから立ち去らないと!


 ……今、あいつ、『オレ1人』って言ってなかったか?


 そうだ、さすがに軍を引き連れてここまでくるには早すぎる。

 あの脳筋野郎。我慢できなくてのこのこ一人でやって来やがったんだ。


 ここにいる兵は大体8000人。俺の子分共もいる。

 さすがにこれだけいれば、いくらあいつが強くたって……。


「今から奴の前に出る。君は、砦の司令官に俺への援護を要請しておいてくれ。

 ほかの転生者にも。隙があれば、俺ごと魔法で奴を討ってくれてかまわない」


「……勇者殿。

 さっきはあんなことを言って済まなかった」


「気にしてないよ。そういう愚痴を聞くのも僕の役割さ。

 とにかく頼んだよ」


 俺はさっそうとフィールドに飛び出した。




 案の定、砦の前には奴がひとりぽつんと立ってるだけ。


「逃げ出すと思ったぜ。前も敵前逃亡しやがったからな。

 まあ、1人で砦を落とすっていうのも面白そうだが」


「それはやめておいた方がいい。

 いくらお前でも、砦の総力を相手にタダで済まないと思うよ」


「かもな。だから面白えんじゃねえか」


 イカれてやがる。

 こんな不気味な奴はとっとと始末するに限る。


 俺が後ろを振り返り、スキルで砦の防壁を確認した。

 すでに弓矢隊や魔法隊が攻撃を一斉に浴びせかける準備を整えてる。


 俺が片腕を上げ、タイミングをみて振り下ろす。

 たちまち矢がクソ魔物めがけて降り注ぎ、そのあと今度は魔法攻撃が注がれた。


 いく千もの弓矢と魔法によるいく十もの火の玉や石つぶて。

 それなりにダメージを負うだろう。

 ざまあみろ!


 だが、それで倒せるほど柔な相手じゃねえこともお見通しだぜ。

 そこで俺の出番ってわけだ。


 奴は爆煙にまぎれて位置を変えたようだが、そんなのはお見通しだっての。

 マヌケめ。


 俺はクソ魔物を見えなくしている煙ごと、奴を切り裂く。

 最強の剣には一歩およばねえらしいが、それでも屈指の一振にはちげえねえ。


 俺の勝ちだ! このクソ魔物が!


 だが、剣が振り抜けねえ。なにか硬いものにさえぎられちまった。


 煙が晴れる。

 少し汚れた程度で、まったくダメージが入ってねえ。


 剣の一閃を受け止めたのはクソ魔物のもつ手甲。


 なんだよそれ!

 こんなしょぼい防具で防がれるなんて、ありえねーだろ!


「この手甲は神鋼でできていてな」


「僕の持つ剣も神鋼だ!

 だったらそんな篭手、破壊できないわけないじゃないか!」


「いいぜ? 次の一撃に耐えられたら、わけを教えてやるよ」


 クソ魔物は大きく息を吸い込んだかと思うと、大声で喚きやがった。


「ただ言っておくが!!! この攻撃!!! よければ、後ろの砦が吹っ飛ぶ!!

 外壁で待機している連中!!! 数十人は死ぬかもな!!!」


 どうやら砦の連中に聞こえたみてえだ。

 砦の連中が悲鳴をあげてやがる。


 クソ魔物が腰を落とし、左手で右拳を握りつぶすような構えを見せる。

 どうするか考える間もなく、そいつが右拳を前に突き出しやがった。


 カッコつけ――じゃねえ。俺にはわかる。闘気をまとった強力な拳圧。


 こんなの受けきれるわけねーだろ!

 決まってる! 避けの一択だ!


 俺は左に飛び退くように避けた。



 後ろから、外壁に当たった爆音がうるさく鳴り響く。

 ふう、間一髪避けられたぜ。


「ぎゃはははは! まよわず避けてやんの!

 勇者様は皆の命を救うんじゃねーのかっ、よ!」


 突然、以前の戦闘のときのように急接近してきやがった。

 同じ手に2度も――


「げぼぉ!」


 く、クソ、頭を狙うと、見せかけて、腹狙ってくるなんて……。

 でも、こんな攻撃、いつもなら、受けきれるのに。


「本気でやれば、腹、貫けたが、それじゃあ、面白くねえからな」


「くそ、どうして、どうして! こんな攻撃!」


「受けれなかったのかって? そういやあ、さっき教えてやるって言ったな。

 そりゃあ、お前がヘタレだからだよ」


「なに、を!」


「おめえは、自分だけがかわいいお坊ちゃんだ。

 だからいつだって、てめえが痛くないよう、痛くないよう振る舞ってるのさ」


「それのどこが悪い! 自分を守るのは当然じゃないか!

 それに俺は、勇者の加護を受けてるんだぞ! 俺こそが最強のはずだ!」


「ああ、確かに勇者の加護とやらでお前の戦士としての腕は上がった。

 技術は超一流かもな。武器の威力も比類なく高まってるだろうさ。

 だが、戦いってのは、そういうもんじゃねーだろうがっ、よ!」


 がはっ!


 クソッ、なんでこんなケリも……。


「ましてや今のおめえは、あの戦いで心が折れちまってる。

 超一流の腕を逃げに全部使えば、そりゃあ切れるもんも切れねえっ、ての!」


 ぶほぉ!


 鼻が! 俺の鼻がぁ!


「つまり勇者の力を発揮できないのは、おめえの性根が腐ってるからってこった」


「ううぅ。性根なんてお前ら魔物に言われたく――」


「器用に戦えようが! 力が強かろうが!

 心が背中を向けてて、目の前の攻撃をしのげるかっ! 敵を裂けるか!

 この、期待外れ野郎が!!!」


 ぐぼぁああ! 痛てえぇ!


 腕が! 腕がぁ!


「チャンスをくれてやる!!!

 今、ここで逃げるのなら!!! お前のことは追わねえ!!!

 だが、もし逃げるのなら!!! ここの砦の連中は皆殺しだ!!!!!」


 ……逃げたら、追わない、だって!?


 助かったぜ! こんなところ一刻も早くおさらばだっての!

 砦のカスどもがなんだってんだ!


 大体、こういうときにかばって出てくるのが筋だろうが! ウスノロが!

 俺の盾代わりになれば本望だろうよ!


「敵に自分から無様に背中を見せるとは、それでも勇者かよ」


 とにかくできるだけここから離れるんだ!

 離れて、そ――。


 げひゃあ!


 あ、足が、足がぁ!!!!


「おやあ、逃げずにこの場にとどまるなんて、さすが勇者様」


「お、お前が後ろから俺の足を撃――あぎゃあ!!!」


 クソ魔物が俺の胸ぐらをつかむ、一体なにを――


「え、なんだって? 聞こえねーっ、よ!」


 ぐぼっ! ごぼっ! げぼっ!


「へへっ、勇者様は顔の殴り心地も最高だっ、な!」


 ぐぎゃ! も、もうやめろ!!! やめて、くれ……!


「大体おめえ、どうせスキルにあぐらをかいて。

 今まで、修行らしい修行してなかったんだっ、ろ!」


 ぶぼっ! どうして、どうして、


「それを自分の実力と勘違いして、いい気になりやがって。

 どうせ、立場にもの言わせてイジメでもやってたんだろ? クズ野郎っ、が!」


 がぶっ 俺は、俺は……。


「バルドクルツに前の勇者の話を聞いてたから!

 転生者の勇者ならさぞかしすげえんだろうって、期待したのにっ、よ!」


 げぶっ! いやだぁ……もうイヤだぁ……。


「ほら、謝れ! 謝れよ!

 謝ってる間は殴らないでやるよ!」


「……ご、ごめ――」


 がはっ! げはっ! ぐばっ!


「ああ? なんか言ったか!? 聞こえねーよ!」


「ひぃ――!

 ごべん、なざい、ごべんな、ざ、い、ご、べんなざ、い、ごっ――げほげほ!」


 げぶっ! がほっ! ……。


「……ごべんなざい、ごべ――ぐは」


「……たしかバルドロールの話だと、もうそろそろか。

 ちょっともったいないが、邪魔が入らないうちに殺っとくか」


 よがっだ、手を離じた、へへっ、に、に、逃げないと――。


「じゃあな、クズ勇者」


 おれ、ひとり、でも、いき、のびて、ここ、の、れんちゅう、みなごろ――




「待ってくれ。

 クズだとは思うが、死ぬほどじゃあないだろ」



 なんで、寄生虫野郎が、ここに。

 へへ、なんだ、結局、お前も、逃げてきたんじゃ、ねーか。

 クズが……。

すみません、バルドゼクス戦をまとめて書いている途中で、続きが投稿できる状況にない感じです。


続きは2~3話まとめて、明日投稿します。



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[良い点] クズ勇者壮五のさらなるザマァ良かったです!このまま助かるのは癪なんできっちりトドメをさしてほしいです!!
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