辺境攻防⑧ 安易にギャルゲーのヒロインの名前をつけてしまうオレのセンスについて
「提案があります。私に名前を付けてください」
「名前? あらかじめついているんじゃないのか?」
「否定します。仕様により私の命名権は貴方にあります」
「そうだな……だったら『マルチナ』って事でどうだ?」
「マルチナ、ですか」
「ん? お気に召さない?」
「いえ、思ったよりしっくり来ているので驚いています。
またギャルゲーのヒロインの名前を付ける、貴方の思考に若干引いています」
「うっ、まあイヤなら――」
「否定します。この名前でいかせて頂きます。こよりさんもさぞ喜ぶでしょう」
ぐはっ、それを考えていなかった……。
「これで、正式に貴方がマスターとして登録されました。
今後ともよろしくお願いします、マスター」
「シュウくん!」
唐突に、疑似釣り鐘を外からガンガンと叩く音が大きく響く。
たまらずオレは、それを構成する魔法物質を解放する。
いつの間にかワナの発動時間が過ぎ、水が完全に退いていた。
釣り鐘の外にはリタ、レン、悠里、こよりたち4人の姿が。
「勇者さま!!!」
オレを見たリタが、泣きながら急に抱きついてきた。
「ちょ、身体が濡れるって」
「わたっ、勇者さまっ、しっ、どうしよっ」
途切れ途切れに呟きながら、ぎゅっと、抱きしめる腕に力をこめる。
リタにそんなことされるなんて、かつてない体験に狼狽えてしまった。
思わず皆のほうをみる。
レンが抱きつこうとするのを先よこされた形になってわたわたしている。
悠里とこよりはなんかニヤニヤしてた。
とりあえず、彼女のあたまをてのひらでポンポンと軽く叩き、
「ごめんな」
と、謝るしかなかった。
リタが泣き止んだところで、悠里が寄ってくる。
「ねえ、アンタ! 一体どんなアイテム使ったのよ! ホントびっくり……。
て何その生き物は! 小人!? 妖精!?」
悠里の指さすほうを見る。
疑似釣り鐘を解除した時に一緒に消えたはずのマルチナが再び姿を現していた。
今度は金属質ではなく、生き物として自然な色合いだ。
「なんですか! この可愛い子は!」
さっき泣いて抱きついていたのがウソのようにマルチナの側に駆け寄るリタ。
こよりとレンは無言で興味深そうにこちらを見てる。
「ああ、それはなんというか……」
「はい、私はマルチナと申します。
妖精です」
「おいコラ」
「仕方ないでしょう。
この方にナノマシンとかAIとか説明して理解できるとは到底思えません。
マスターの記憶情報から察するに」
「……まあそうか」
「よくわからないけど、失礼なこと言ってるな?
まあいいや、とにかく無事でよかった」
「そっちこそ、大鏡はキチンと壊したのかよ?」
「それは心配ご無用。
キチンとぶち壊しておいたよ。残党も全部狩った。問題ないでしょ?」
「まあ、そういう事なら。とにかく避難した村人たちを追いかけよう。
マルチナもついてきてくれ。それとも肩に乗るか?」
「いえ、お気遣い結構です」
と口にすると、ぱっと消えてしまう。
「消えてしまいました……」
「マルチナ!?」
『大丈夫です、言ったでしょう?
わたしの本体はマスターの頭の中にあると』
ああ、そうだった。だけど、
「あれも具現の指輪で生成した身体なのか!?
だってお前、普通に色が付いていたじゃないか!」
『この指輪の魔法物質は、光の反射具合を内部的に変化させることができます。
それによって見た目、たくさんの色をつけることができるのです』
「マジか、そんな事ができるなんて知らなかった……」
『いえ、無意識ではその可能性に薄々気付いていたのでしょう。
わたしはそれを拾い上げただけです』
「ねえ! マルチナはどうしたの?
それに誰としゃべってるのさ!」
「ああ、マルチナは大丈夫だ。ここにはいて、オレとだけは話せる。
ほら、なんか妖精的で霊魂的な存在、みたいな?
なんかそういう、都合のいい状態になってるだけだ」
「なんで、そんな今思いついたような言い方になってるのよ?
まあ、妖精が無事ならそれでいいや」
オレたちは部屋から出て、コントロールルームまで戻る。
モニターで城郭都市を確認すると、魔物はあいかわらず都市内を徘徊するだけ。
とくに外へ出る様子もない。バリアも健在だ。
それを確認すると、オレたちは大鏡で抜け道まで転移し、城を脱出した。
そして馬車に乗り、ガナクス砦へ向かう。避難する村人と合流するために。
「そういえばさっきお前は『オレにできる事しかできない』って言ったよな。
てことは、やろうと思えばその色変え、オレにもできるってことか?」
馬車の中で再び実体化したマルチナに問いかける。
『半分肯定します。色を複数つけること自体は難なくできるでしょう。
だだ、先程のわたしのように、自然な発色をさせるにはコツが必要です』
「コツか。まあ、それは後でゆっくりと聞くよ」
『それがいいでしょう、今はできるだけ追いつくのが先です』
次の日の夕方頃。
オレたちは避難している村人と合流できた。
ちょうど野営地を決め、野営の準備をしているところのようだ。
村長と顔を合わせ、軽くお互いの無事を喜びあったあと、
「それで……魔物はどうなったのですじゃ?」
村長が早速聞いてくる。
いつのまにか、少しでも早く状況を知ろうとして多くの村人が詰めかけていた。
「魔王軍を古城に閉じ込めることに成功しました。
よほどの事がない限り追いつかれることはないでしょう」
レンのその言葉を聞いても、信じられないのか彼らは反応もできず固まってる。
だけど、
「勇者さまが我々を救ってくださったぞーーーーーーーー!!!!!!」
村人の1人の絶叫により実感できたのか、村人全員がどっと歓声をあげた。
その日の野営はさながら村祭りのような賑わい。
その中心にいたのはオレ……ではなく、なぜかマルチナ。
どうやらこの村には精霊信仰があるようだ。
まあ、そのほうが気が楽ではある。
実際オレも命を救われたようなところはあるし。
ある意味、成功はマルチナのおかげと言えなくもない。
リタも悠里もこよりもマルチナを愛でる集団のなかに加わってる。
レンは気さくに色々な人のところにまわって話をしていた。
「レン殿から聞きましたぞ。
足止めは全て貴方が指揮なさったと。勇者殿」
ぽつんと1人で皆を眺めていたところで、村長が酒の器を片手に近寄ってきた。
「いや、オレは勇者じゃないです」
そういつもの返事をすると、ポカンとした表情をする村長。
「村長、どうかしましたか?」
「いえいえ、こんなやりとりを2~3年前にしたことを思い出しましてな。
あのときも村の救世主を皆で勇者と讃えると、そんなことを言われまして……」
「救世主、ですか?」
「ええ。結局、名前も告げずに去っていかれて。他の村にも現れておったそうで。
みな、その方のことを『名もなき勇者』と呼んで、敬っておりますじゃ」
「へえ……」
そんな奴がいるのか。
勇者壮五とはえらい違いだな。
「そういえば、その方もめずらしい黒髪で。身長も貴方と同じくらいですじゃ。
だからですかのう。そんな既視感をおぼえたというのは……」
興味深い話だ。
『勇者の加護』を受けているのか、それとも単にそう呼ばれているだけなのか。
だけど、勇者の加護は世界で1人しか受けることができない。
もし加護持ちだとしたら『名もなき勇者』はもうこの世には……。
次の日の朝。
オレたちは砦へ出発する準備してる。
確かに敵を封じ込めた以上、もう追いつかれる心配はないかもしれない。
けど、結局勇者の言っていた幹部とやらはまだ姿を見せていない。
まだ、安心するのは早いだろう。
そんなわけで気を引き締めていると、砦のほうから何者かが近づいてきた。
その人物の顔はまとったローブに隠れて見れない。
砦の兵士とも思えなかった。
その男が近づき、その顔がチラリと見えた瞬間。
悠里が突進をかけていた。
彼女が振った大鎌の一閃をその人物はギリギリ避ける。
だけど、その際ローブの一部が裂かれ頭の部分が露わになる。
一瞬、牛の頭蓋骨を被っているのかと思ったが違った。
それは被っているのではなく、そいつ自身の頭。
「こいつ、魔物だ!」
悠里はその姿を見て一旦身をひく。
「これは、これは、歓迎痛み入ります。
私、バルドロールと申します。見ての通り、人ならざるモノです。
以後お見知りおきを」
魔物は、そう名乗った。
次回投稿は来週1/30(日)の予定です。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます!
もし、
・面白かった!
・続きが気になる!
・更新がんばって!
・応援するよ!
と思われた方
よろしければ
広告の下にある☆☆☆☆☆から評価をいただければ大変うれしいです。
すごく面白かったなら☆5、あまり面白くなさげでしたら☆1と、
感じたままでかまいません。
また、ブックマークいただければ作者の励みになりますので、よろしくお願いいたします!




