前線の村⑤ 村で、具現の指輪の力を色々披露した
セリアたちの商団と分かれてから数時間後。
昼と夕方の間くらいに村に着いた。
そこは特に魔物の襲撃があった様子もなく。
むしろ予想以上に多くの人が出迎えてくれた。
彼ら一人一人がやけに期待の眼差しを向けてくる。
……てかこの手の空気、最近ちょくちょく感じてるような……。
「よくぞ参られた、勇者ご一行。
私はアーノルド。ここの村長をやっております」
老人が近寄ってきて、名乗りながら先頭にいた悠里の右手を両手で握ってきた。
いきなり初対面の女性の手を握るのはどうかと思うが。
だけど、悠里はそういうことに一切こだわりを持たない。
「勇者? わたしたちは別に勇者でもなんでもないぞ?」
「いやいやご謙遜を。あなた方はこの世界に召喚された転生者なのでしょう?」
「はい、わたしたちは遺跡調査のために王都から派遣された転生者です。
しばらくお世話になります」
レンがフォローするように挨拶をするが、そこで空気を読まないのが悠里。
「といってもわたしたちは非戦闘職だから、勇者と言われるのはむず痒いよ」
「非戦闘職? それは一体どういう……」
「わたしは農民。
今挨拶した彼女は商人。
そこにいるちっこいのは鍛冶屋で。
そこの無害そうなやつは鑑定士」
「それは……本当ですかな?」
「ああ、本当だけど……それが?」
悠里のなんの含みももたない表情をしばらくうかがっていた村人たち。
そのうち失望の色もあらわにその場から離れて行く。
やがて数人の子供と村長を残して、それぞれ家の方に引っ込んでしまった。
「申し訳ありませんですじゃ。
転生者様がおこしになるとはうかがっておったのですが。
詳しいことはほとんど知らされておらず……」
それはなんとなく察していた。
さもなければ初対面で、王女殿下であるリタに平伏しないなんてあり得ない話。
教えてやろうかといたずら心がわいたが、彼女はそういうのを嫌うのでやめた。
「それにしては、わたしたちにすごい期待してたように見えたんだけど。
何かあったの?」
悠里にしてはナイスな質問である。
「そうですな。最近、魔物たちがこのあたりをうろつくようになりまして……。
今のところ被害は大してないのですが、みんな不安がっておりますのじゃ」
「それって……前線が瓦解し始めているということですか?」
レンが横から質問をするが、村長の反応は今一鈍い。
「古城を調査しにいらっしゃっているお役人様からは特にそういう話は……。
転生者様の方では何か聞いておりませんか?」
どうも村人も不安がってるだけで、実際どうなのかは分かってないようだ。
「ねえ、おねえちゃん!」
不意に、残った子供のうちの一人がパーティーの誰かに声を掛けてきた。
オレたちに何のようだ?
と子供のほうを向くと、その視線はまっすぐオレを見てる。
「え? オレ?」
「うん! お姉ちゃん、王都のごぜんじあい? それに出てたんだろ?!」
「え、あ、まあ出ていたけど……でも、オレがお姉ちゃん?」
「あれ? 自覚がなかったの? シュウくん、結構女顔なのよ。
正直、王都でも勘違いしている人、いるんじゃないかしら?」
「それ、マジ?」
周りのメンバーを見渡すが、悠里もこよりもレンの話にうなずている。
そんなの初耳だ。てか、この世界へきて、そんなこと言われたこともない。
……なんてこった。
いや、この世界での自分の顔を見ると元の世界のとそんなに大差なくて。
でもちょっと子供ぽいな、童顔かな、位に思ってたが。いや、まさか。
「リタには……どう見える?」
思わずリタにきいてしまった。
「大丈夫です! 勇者さまは勇者さまです!」
うん、きくだけ無駄だった。
「ほら、こんななよっちいのが、強いわけないだろ」
隣にいた別の男の子がオレを指さしながら当然のように言う。
確かにその通りだが、『なよっちい』とか言われるとちょっと傷つく。
「そんなことない! 闘技場ではスゴかったんだ!
自分の体より大きな大人を吹っ飛ばしたり! 翼を出して空を飛んだり!」
「スパイクの嘘つき~~!
いくら強くたって、翼が生えたり飛べたりするわけないじゃないかよ!」
「……ん? 君は御前試合を見てたの?」
「うん! お父ちゃんが王都に用事があって、その時に見てたんだ!
なあ、お姉ちゃんて強いんだろ!?」
「いや、強いわけではないし、別に空が飛べるわけでもないけど」
「ホラ見ろ、この嘘つき!」
「……姉ちゃん」
さすがに子供、スパイクと言ったっけ? 彼が気の毒に思えてきた。
どうしようかな、本当はあまり人に見せびらかしたくないんだけど……。
「翼なら出せるぜ?」
そう言いつつちょっと具現の指輪を発動。
たちまち、オレの背中辺りに魔法物質で構築された翼状の物体が展開された。
ちなみに御前試合の時より少し造形を見栄え中心に工夫してある。
唐突に出現した翼に、子供たちはおろか村長までもが仰天。
「スゲー!!!
なあ、飛べるのか? これで空を飛べるのか?」
「いや、言っただろ? 空は飛べないって。
ただまあ、こういうことはできるよ」
翼を出したまま、今度はもう一つの具現の指輪を使う。
すると、空中約5m辺りにほぼ透明な板状の魔法物質が生成される。
さっき馬車の後ろで、ゴブリンの突進を防いだあれだ。
そこへ反発の指輪で飛び上がり、乗っかる。
御前試合のあとに指輪の効力の理解を深め、こんなことも出来るようになった。
「飛んでる……。
スゴいよ! 空を飛んでるよ!」
「いや、ただ浮いているだけで、飛んでるわけじゃないって」
そう言いつつ、自分のさらに上空5mほどにもう一つ足場を作り、飛び乗る。
自分、ちょっと調子に乗っているかもしれない。
それにしても結構高いな。3階の建物くらいの高さか? ちょっと怖い。
だけど、この近辺ではその高さの建物や木々はなく、中々いい見晴らしである。
さて、これだけ見せつければとりあえずスパイクのメンツも立つか。
そう思い飛び降りようとした瞬間、突風を受け自分の体勢がぐらりと揺らぐ。
背中の方の翼が引っ張られる感覚に、足場から足が離れる。
ヤバいっ。
こんな高さから落ちたら――。
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