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前線の村④ 襲われてる乗り物を助ければ普通、かわいい娘が乗ってるものと相場は決まってる

 現状では2種類の魔法物質を同時に生成できない


 その問題はあまりにもシンプルな方法で、あっさりと解決した。

 1つの指輪で1種類の物質しか生成できないなら、2つ持てばいいのである。


 『できるだけ多くの種類の指輪を持てば色々なことができて便利じゃん』

 という思い込みというか貧乏性が生み出した盲点であった。以後反省。


 そしてさらに敵の背後にも魔法物質を生成。

 吹っ飛ばされて威力が削がれないような工夫もしてる。

 こよりが『エグい』と言ってたのはこの辺りだろう。 


 本来、見えない敵背後に魔法物質を生成することはできない。

 だが見える位置に生成しそれを広げることで、その制限を克服してる。




 さて、こんな感じでとりあえずゴブリンのうち1体を屠った。

 仲間が串刺しにされる様子を見て残りの3体の足が止まる。


 とりあえずオレは棍の長さを元に戻す。

 そして、再び先ほどの突きを一番近いゴブリンに対して見舞った。


 狙われたそいつは避けようとしたようだが、失敗。1体目と同じ運命を辿る。

 ここへきてようやく覚悟ができたのか、残りの2体が距離をつめてくる。


 だが、遅い。

 いまさら2体でただ突っ込んできても、オレに攻撃を当てるには1手足りない。


 オレは突っ込んできた2体のうち近い方を突きで屠る。

 だけど棍の長さを戻す前に、残り1体がオレに迫ってきた。


「シュウくん!!!」


 レンの叫びにとどまることなく、そのゴブリンは剣を大きく振りかぶる。

 その剣がオレの脳天をかち割る――なんてことにはならなかった。


 その場でゴブリンは腹部に強烈な衝撃を受けたかのように体をくの字に曲げる。

 そこを棍で突いて、戦闘は終わった。


「一体なにが……?」


「……多分、あらかじめ魔法物質を透明にして空中に固定配置してたんだよ。

 あのゴブリンがよろめいた辺りに。

 そうでしょ? シュウにい」


「まあね」


「でもさ、4体の周りを魔法物質で囲んで身動きできなくできたんじゃないの?

 そんなことができるならさ」


「どうだろうな。

 遠くだと、狙った位置にキチンと生成できないし。

 核のない魔法物質は、打撃には強いけど斬撃にはあっさり裂れてしまうんだ」



「おーい! こっちは片づいたよー!」


 前方で一人奮戦していた悠里の声が聞こえる。


「こっちも片づいた! 今そっちへ行くからそこで待っててくれ!」


「ねえ、もう大丈夫なのかな、シュウにい」


「多分ね。二人は馬車に乗り込んでくれ。

 念のため、後ろを警戒してもらえると助かる」


「うん」


「わかったわ」


 二人が馬車に乗り込むのを確認すると、オレは馬車の前方へと駆け寄る。


「御者さん、オレたちは前で警戒を続けるから、少しずつ前進させてくれ」


 御者はうなずくと、オレたちが歩く速さに合わせて馬車を前進させ始める。


「で、どんな感じだった? 悠里のほうは」


 まあ、目の前の惨状を見れば聞くまでもなかったが、念のため聞いてみる。


「うーん。戦えると言えば戦えるんだけど……」


「ん? 大分慣れたように見えたけど、まだなにか問題があるのか?」


「いや、この武器って、ヒーローっぽくないよね?

 なんか死神みたいな感じで」


 そっちかよ!




 周りを警戒しながらゆっくりと前進する。

 特になにごともなく襲われていた馬車の近くまで来た。


 どうやら荷馬車4台と小さめな箱馬車1台の小商団のようだ。


 オレたちが近づくとこちらに気がついたのか。

 誰かが勢いよく先頭の箱馬車から出てきた。


 その人物はオレたちの馬車の近づくと唐突に車両に乗り込んでいく。


 オレたちのほうには挨拶もなく、チラリとしか見なかった。

 傭兵かなにかと勘違いされたのかもしれない。


 オレと悠里はその人物と対するように後ろから馬車にのりこんだ。



 馬車に乗り込んできたのは1人の少女。

 身長はオレと同じくらいか。

 服装の色は派手だが、過度にそう思われないよう上手く着こなしてる。


 『気が強そう』

 顔を見るに、可愛いとか美人とか思う前にそういう印象が先にわく。


「良く魔物たちを退治したわね! 褒めてあげ……」


 とイメージ通り偉そうに口を開いたものの、車内に1人の人物を確認すると、


「レンお姉さま! それにも、リタ殿下と悠里さまも!! こよりちゃんまで!」


 驚きの表情をあらわにした。


「あら、商団はセリアさまのものでしたのね?」


「『セリアさま』なんて他人行儀な!

 初めて会ったときのように『セリアちゃん』と呼んでもらえれば」


「えっと……、知り合いなの?」


「ええ、シュウくん。

 紹介するわ。ライオール商会会長の一人娘であるセリアさん」


「ですから、そこは『さん』ではなくて『ちゃん』と――」


「ああ、自分は現在レンの雑貨屋でお世話になっている――」


「知ってるわ! 貴方は敵!」


 いきなり敵認定されてしまった。


「だいたいお姉さまも!

 お店の従業員が足りないのでしたら、わたしが手配しましたのに!

 こんな指輪をじゃらじゃら鳴らした軽そうな男を雇うなんて!」


「男って……これでもわたしの弟――」


「教会の簿冊に登録されてない弟なんて弟じゃありません!」


 ド正論。

 一瞬、レンから殺気を感じたがさすがに抑えたようだ。


「じゃあ、教会の簿冊に登録されてないお姉さまも、姉じゃないんじゃないの?」


 そこをさらにツッコむこより。

 てか、ホント怖いもの知らずだな。


「当たり前です!

 『お姉さま』は『お姉さま』。姉とは違うわ!」


「うーん、そこは少しわかるかしらね」


 意外に同意をみせるレン。

 いや、オレには全然わかんねー。


「それで……あの、魔物に襲われていたようですが、大丈夫でしたか?」


「ご心配頂き、光栄であります。殿下」


 リタのナイスなフォローにより、そこから説明が始まる。


 彼女たちは前線のベルナーム砦に追加の武器を輸送している最中だったらしい。

 これから向かうところなので、前線近くの近況の詳細はわからないとのこと。


 魔物のことについても彼らに聞いた。

 なんでも馬が調子を崩して休ませていたところを魔物に襲撃されたらしい。


 それなりの護衛はつけていたが、前線から離れている油断もあったようで。

 かなりピンチだったらしい。


「追加の武器って、なにか大きな戦闘でもあったのかしら?」


「いえ、なんでもベレビア砦の転生者の方々が今度ベルナーム砦へ移るらしくて。

 その際に武器を新調することになったそうです」


「つまり、これから戦いが始まるってことか」


「しらないわよ。

 別にベレビア砦で武器を使い潰しただけかもしれないじゃない」


 オレにだけは厳しい対応のセリア。まあ、彼女が言ってる通りかもしれないが。

 正直、連中がベレビア砦からベルナーム砦に移動することのほうが気になる。


「それにしても、前線に自分の娘を送り込むなんて、親はなに考えてるのさ!?」


「心配して頂きありがとうございます、悠里さま。

 ただ、これはわたくしが望んだことなのです」


「望んだこと!?」


「いえ、近々レンお姉さまが前線近くに出張すると王都で聞きまして。

 前線近くにいれば、こうやってレンお姉さまに会えるかもしれないと、無理に」


 レン好き好きでそこまでやるのかよ、スゲー根性だ。

 てか、親もやむなくって感じなんだろうな。

 気の毒だ。



「それにしても、今日は本当にありがとうございました。

 おかげで命拾いいたしましたわ。

 レノックス! 例のものを」


 セリアが誰かの名を呼ぶと、外から若い男が入ってくる。

 なにか小箱が5つのった盆を持って。


「お礼、というのもなんですが、受け取ってくださいまし。

 なんでしたら、魔物討伐の報酬とでも思って頂ければ」


「ええ、では頂きますね」


 別にレンと仲良さそうなんだからお礼なんて言葉だけでいいじゃないか。

 と思うが、どうも商人同士で借りを作らないためのならわしらしい。


 セリアは、リタや悠里やこよりに一人ずつ手渡しでその小箱を渡していく。


 オレとレンに渡す番になって、セリアは自分の懐から小箱を2つ取り出す。

 それをオレとレンに渡してくれた。


 レンには笑顔を向け、オレににらみを利かせながら。

 だがまあ、渡してくれるだけマシか。



 そんな感じのやりとりがあって、慌ただしく彼女たちは車両から出ていく。

 一緒に行くことになるかと思ったが、彼らの商団は動ける状況にないようだ。


 それに、すぐ先に村とベルナーム砦への分かれ道があるらしい。

 オレたちは彼らを追い抜いて先の道を進むことになった。



 それにしても……一体どんなアイテムが……。

 と、小箱を開くが、中身は空だった。

 くっそ、あの娘。


 リタ、悠里、こよりの3人の小箱にはそれぞれネックレスが入っていた。

 特殊効果はないが、装飾品として見栄えはいいし、売ればけっこう高い値がつく。

 ピンチを救った報酬としては妥当なところだろう。


 だが、レンに渡された小箱の中身を見て度肝を抜かれる。


 それはレアリティランク5。


 ランク4を国宝級とするならランク5は伝説級と言っていいレベルの品。

 もちろん、現時点でのオレの鑑定眼では名前ぐらいしかわからない。


 だけど、概要を見るまでもなく誰もが知るマジックアイテム。

 『転移の指輪』だった。

次回更新は12/27月曜の朝になります。



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