前線の村③ もう全部、悠里1人でいいんじゃないかな
悠里は単身突っ込み、そして手に持った大鎌をそのまま前に突き出す。
それは走ってきたゴブリンの眉間辺りにカウンターヒット。
そのまま後頭部を体ごと地面にたたきつけられる格好になる。
倒れたゴブリンは1回大きく痙攣を起こしたっきり、動きを止めた。
基本的に、非戦闘職のオレたちは武器に補正がつかない。
だから例えば伝説の剣を使っても鋼の剣と変わらない威力しか持たないのだ。
だけど農民の加護の場合、斧や鎌など農業関係の装備について技術補正がつく。
それは戦闘時にも効果が発揮されるのだ。
このあたりを考慮して悠里が選んだ武器。それが鎌だ。
ちなみにオレにもそういう補正がつく装備がないか探してみた。
だけど該当するようなものは今のところ見つかってない。
ただ一つ可能性がありそうなものは見つけたが、使えるかは今後の研究次第か。
さらに、悠里の大鎌はこよりが作った特別製。
それには『具現の指輪』で使われている術式が内部に仕込まれている。
『具現の指輪』は魔法物質を生成する指輪。
だが、それには使用者が詳細なイメージを持つ必要がある。
オレの場合は鑑定の際に、それを世界樹から受け取って持つことができる。
だけど他の人はそういうことをできず、ゴム状の魔法物質しか生成できない。
そこでこよりは、この鎌に仕込まれた術式にそのイメージも組み込んだ。
それなら、性質や変化は固定されてしまうけど誰でも高度な生成ができる。
それで悠里のような奴でも、魔法物質で生成した武器を展開できるってわけだ。
そんな彼女の大鎌での突きが見事に決まる。
それまで向かってきてたゴブリンも仲間の惨事に警戒を強めたようだ。
人里に下りてきた猿が遠巻きに人をうかがうように、彼女と距離を取り始める。
だが彼女は、あっという間に相手との間合いを大鎌の有効範囲まで詰めた。
そして今度は横薙ぎにそれを振るう。
その刃は2体のうち1体を刈り、もう1体に食い込み、えぐる。
刈られたゴブリンはもちろん、身体を半分ほど切断されたほうも息絶えた。
この1~2分で一気に3体のゴブリンが、彼女の大鎌の餌食となった。
鎌で相手を切るには草を刈る要領で対象の後方から刃を手前に引くことになる。
それを流れるように行うのに相当な技量が必要なはずだ。
だが彼女はそれをなんなくやってのけた。
最初に鎌を使っていた頃はおっかなびっくり扱ってた感じだったのにな。
だけど、今はそういう感じを微塵も受けない。
それにしても武器が職業に一致すると、こうまで違うのか。
てか、ここはもうあいつ一人でいいんじゃないかな。
そんなことを思い始めていると、
「シュウにい!!!
後ろからも来たよ!!!」
後方からこよりの叫びにも近い声が耳に入る。
ちょっと気が緩んでしまっていた、気をつけないと。
それにしても、後方からか?
側面からくると思ったが……。
「悠里! ここは任せた!」
「はいな!」
悠里に声を掛けると、彼女は振り向くこともせず返事をする。
オレは馬車の脇にそれると二人のいる後方を凝視した。
こよりの言う何者かが思ったより接近してきている。
多分少し離れたところにある森を経由して遠回りして。
少し離れた距離からオレたちをつけていたんだろう。
相手は……どうやらあっちもゴブリンのようだ。
とりあえず2人に後ろを任せたが、正直少々不安はあった。
ここ数週間、オレたちはそれなりのパワーアップを図れたと思う。
だけど、その中で今一進歩がなかったのがレンだ。
転生者は神の加護抜きでもそこそこ高い能力を持っている。
だけど、彼女に限ってはその能力は商才のみに偏っていた。
こと戦いに関してはこの世界の住人と大差ない。
それに悠里の鎌みたいに、商人の加護を受けられるような武器も見いだせず。
御前試合で戦ってこれたのは、彼女の絶妙な立ち回りによるもの。
そういう意味ではこよりのほうが戦闘向きだ。
少なくとも戦闘における神の加護の影響力は悠里よりも高い。
また鍛冶屋としてハンマーなどが神の加護の対象。
なので、むしろオレたちの中では一番戦闘向きと言える。
だが闘いを嫌っていて、力を生かすことができないようだった。
そりゃあそうだ。
彼女は12、3歳の子供なんだから闘いが恐いのは当然ではある。
とはいえロリに巨大ハンマーという組み合わせはある種ロマンなわけで。
見れないのはちょっと残念。
おっと、闘いに集中しないと。
とりあえずオレは回転の指輪を使って軽く跳躍。
2人の少し前方に着地して構える。
「ごめんなさい。シュウくんの手を煩わせてしまって」
「いや。それより、2人は周囲に気をつけて!
どこかにまだ敵が潜んでいるかもしれない」
木の陰やちょっとした茂みなどに魔物が隠れている可能性を警戒してもらう。
可能性は薄いと思うけど。
「分かったよ! シュウにい。
……なんなら倒してしまっても、なんて言えないのが申し訳ないけど」
「はは、無理しなくても大丈夫さ。姉さんも」
「分かったわ!」
さて、敵ゴブリンの数は……4体か。
小ぶりの剣を振りかざして、駆け足でこちらに迫ってきている。
かなり接近してきているが、お互いの剣先がふれ合うにはまだ遠い――。
なんて普通、そう思うよな。ゴブリンでも。
オレは神鋼製の棍の先を前方の敵に向け、具現の指輪に意識を集中した。
瞬く間に、根の先はまるで如意棒のようにまっすぐ、前方へ走る。
それは高速で敵にぶち当たり、その体をつらぬく。
「おー、シュウにい、エグいことするねえ」
「こーら、しっかりと左右を見張ってるの、シュウくんに言われたでしょ?!
……ところで、エグいことって、なに?」
「ほら、尖ってもいない棒で相手をつらぬくなんて、普通できることじゃないよ。
いくら相手を早く勢いよく突いたからって」
どうやらこよりは、オレのやっていることが分かっているようだ。
棍の伸びる速度は推定時速150Km。
プロ野球選手の投げる球速と約同等、ボクサーのパンチ速度の約3~4倍。
だが、それでもこよりが言うとおり体を貫くなんて普通あり得ない。
先が相手に当たったときに反動が返ってきて威力を大幅に削いでしまうのだ。
そこで後ろをなにかで支えて、逃げる威力を前に集中させる工夫が必要になる。
御前試合では棍の後ろを地面につけて支えにすることで威力を集中させた。
今回は別の魔法物質を棍の後ろに固定生成し、それを支えにしているわけだ。
もっとも、固定した魔法物質を支えにする発想は御前試合のとき既にあった。
だけど、1つの指輪で性質の違う物体を複数同時に生成はできない。
つまり『自由に動く木材の棍』と『空中固定された支え用の魔法物質』。
この2つを同時には生成せないわけだ
結局この点がどうにもできなくて御前試合には結局間に合わず。
試合では地面を支えにしていたわけだ。
その後色々と悩んだんだけど、問題は突然あっさりと解決した。
あまりにもシンプルな方法で。
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