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前線の村② ゴブリンに襲われてる馬車を助けることにした

「どうかしたの? シュウくん」


「いや、前方で誰かが道を塞いでいるような気がして……。見えない?」


「うーん、ちょっとわからないわね。御者さん、わかりますか?」


「そうですな……言われてみれば、確かに誰かいるような……」


「どれどれ……」


 覗き込んだこよりが、少し目をこらして馬車の先の道を凝視。

 彼女は鍛冶屋のスキル『形状記録』によって遠方を見ることができる。


 その彼女が、驚愕した表情をあらわにした。


「止まって!!! あれ、魔物だ!

 遠くのほうで、馬車が襲われてる!」


 それを聞いた御者が馬車の速度を落とし、止めた。


 オレは前方へと意識を集中し、鑑定眼を発動した。


 自分は人に対して鑑定眼を使うのを必要最小限に留めている。

 だが魔物となればそんな遠慮は必要ない。


「……ゴブリンか。

 野良じゃない魔物に遭遇するのは初めてだな」



 魔物は大別して2種類いる。

 1種は『大した知能を持たず、野生動物のように振る舞う魔物』。

 もう1種は『命令に従う程度の知能を持ち、魔王に隷属する魔物』だ。


 前者は王都周辺にも見境なく出没する。

 だが後者は軍隊としての体裁をもち、前線を深く越えることはしない。


 ゴブリンは明らかに後者の存在であるはず。

 だが、それがこんな場所まで来ているというのは……。



「こんなところまでゴブリンがいるのって、おかしいわね。

 ひょっとして村が……」


「かもしれない。

 でも前線の王国軍を無視して、村に少数の兵を送るとは少し考えにくいかな」


 レンが、オレが思ったことと同じ懸念を抱くが、オレはそれを軽く否定する。


 とはいえ、それがあり得ないとは言えない。

 でも、それを口にはしなかった。

 なぜなら――


「ゴブリンって、あたしたちと比べてどの程度の強さなの? シュウにい」


 質問してきたこよりが不安げに見えた。

 悠里やリタからもそういう感じを受ける。


 このパーティは、王都近くに出没する野良の魔物を訓練でかなり討伐してる。


 だがオレ以外の4人は兵として意思を持つ魔の軍勢との戦闘は未体験。

 オレだって御前試合で転生者に化けた奴と1回戦っただけだ。


 

 正直不安ではあるけど、ここでみんなをよけい不安がらせてもいいことはない。


「そうだな……単純に戦闘力だけの話なら実戦訓練ダンジョンの中層の魔物程度。

 けど、相手は武装していて本気でオレたちの命を絶とうとしてくるからな」


「……油断していい相手ではないということね?」


 抽象的な評価になってしまったが、レンはその意図を正確に読んでくれた。



「で、どうやって助けるの?

 アンタ、作戦はあるの?」


 正直、逃げるという選択肢もあるんだが、そんなの悠里にあるはずもない。

 だけどまあ、そうだな。


「……大したアイデアはないけど。

 とりあえず外へ出て馬車を少しずつ前進させながら様子を見よう」


 オレは方針を話す。


「馬車の前方へオレと悠里が出て相手を警戒。姉さんとこよりは後方で警戒して。

 リタは馬車の中で待機。状況に応じて前後のオレたちを援護してくれ」


「はいな!」

「ええ、わかったわ」

「わかったよ、シュウにい」

「はい、勇者さま!」


「あと、ひょっとしたら左右の少し離れた森からしかけてくるかもしれない。

 後方の二人はそれも警戒していて」


 オレが努めて冷静に指示をするとみんな覚悟ができたらしい。

 不安な心を追い出すかのようにキリッとした表情を見せ、うなずく。


「御者さん、そういうことだから。

 オレが手を挙げたらゆっくりと馬車を進めてくれ」


 リタを除くオレたちは車内の後方から外へ出ると、それぞれ持ち場についた。

 それを見計らってオレが手を挙げると、馬車がゆっくりと前進を始める。


 ひょっとしたら、かなり慎重すぎる対応かもしれない。

 だが、なんかモヤモヤしたモノが心の奥でうずまいていて。

 それがオレを慎重な対応へと駆り立てる。


 違和感。

 そのモヤモヤの正体を考えてみるが、今のところ答えは出てきそうにない。


「それで、自信のほどはどう?

 アンタ、御前試合のあともこっそり新技とか開発してるんでしょ。

 その黒い指輪とか」


「アホか。別に新しいアイテムや工夫を試しているだけだ。

 この指輪だって、今回は使わないからな」



 最強の攻撃って何なんだろう?

 まだ名前もつけていない黒い指輪は、オレとこよりで導いたその答えの一つ。

 調整中だが、完成すればひょっとすると魔王にすら通用するかもしれない。



「……なんだよ、ニヤニヤして」


「いや、その調子なら大丈夫かな、って。

 アンタ、ホントにダメだと思ったら即座に逃げ出す指示をするでしょ?」


 いや、お前がその選択肢をなくしたんだろ。

 とかツッコみたくなる。


 けどまあ確かに、馬車を放棄してでも逃走するほどではないとは考えていた。

 見透かされたようでちょっと恥ずかしい。


「あ、ゴブリンが動き始めた。

 こっちへ近寄ってくる!」


 前方を警戒していた悠里がその変化を感じ取って声をあげた。

 どうやらゴブリンたちもこちらの様子を察したようである。


 オレはとりあえず懐から金属の棒を出す。

 それは長さ十センチにも満たない、握れる程度の太さのもの。


「それって、文鎮?」


「まあ、そんなところだ。

 スゴい高かったんだぜ?」


 それは一見なんの変哲もない、魔法すら帯びていない金属片。

 ガラクタのように見える。だが、それでも素材は神鋼だ。


 これを調達するのに、今まで貯めていた金をほぼ使い果たすことになった。

 レンにも借りることに。


 その金属片を握った拳を前方に突き出すと、具現の指輪に意識を集中する。

 たちまち、神鋼を核として左右合わせて長さ2mほどの棒状の魔法物質が展開。


 オレが棒使いならそれっぽくブンブン振り回しているところだ。

 当然そんな曲芸のできる技量はオレにはなく、ちょっとカッコがつかない。


 具現の指輪は、核にした物質の性質ほぼそのままの魔法物質を生成できる。


 御前試合ではルールの都合で木刀を核としたが、実際はどんな物質も核になる。

 そしてオレが選んだのは神鋼の金属片だった。


 これなら折られない上に、盾のように展開すれば防御としても十分だろう。



「ふーん、アンタはそれを使うのね。じゃあ私は……」


 今度は自分の番と言わんばかりに、悠里は腰に挿せる程度の短い槍を抜いた。


 その槍先を前方に突き出すと、途端にその長さが2倍程度に伸びる。

 そして刃の部分が弧を描くように真横に伸びていった。


 姿を現したのは、まるで死神が持っているような大きな鎌。


 彼女はそれを、まるでマーチングバンドのバトン回しのように器用に振り回す。

 カッコ良くてちょっとうらやましい。



 そうこうしているうちに敵も普通に目視できる距離まで近寄ってきていた。

 その数6体。


 が、悠里は射程に入るのを待つことなく単身突っ込んだ。

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