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幕間⑥-2 伝説の勇者の剣を鑑定することになった  後編

 気になることがなくもなかった。


 それが、この破片の量。


 宝石剣の鑑定でわかった情報によると剣の長さは90cm。

 それにしては破片の量が多い。


 オレも破片を見たときは大剣を連想した。

 だがその長さなら刃が3~4本作れそうな量だ。


 なら、なにか余分な魔宝石でかさ増しされているのか。

 だとしたら鑑定結果は「魔宝石屑」となるはず。


 そもそも誰かがかさ増ししたとして、その理由はなんだ?

 鑑定や修復を阻害するなら、ネコババするなりすり替えるなりすればいいだろ。


 もし、剣の破片をまるごと盗んで入れ替えるとしても。

 偽装ならむしろ同じ量を盛るはずだ。

 第一、柄がなければ単なる宝石屑でしかなく、刃だけ入れ替える意味がない。


 謎である。


 とはいえ、それらはあくまで違和感レベル。

 どうあれ鑑定結果は一般の鑑定士のものと同じなわけで。

 復元できないことについては、適当な理屈を取ってつけるのはたやすい。


 それで、この仕事は終わりだ。



 けどまあ、そうだな。


 破片の量に、なにか理由があるとするとなんだろう?

 それを推測したうえで、どうして復元ができないのかを考えてみるか。


 再び鑑定してみる。

 鑑定結果は変わらず「エンジャの魔宝石屑」「武具の残骸」と……。


 『武具の残骸』?


 そうだ、鑑定したときなにか違和感があったんだ。

 普通は『武器の残骸』じゃないか?

 『武器』と『武具』の違いってなんだ?


 武具というのは、厳密には武器だけではなく鎧なども含まれるってところか。

 だとすると……。


 これは宝石剣と何かそれ以外の装備の混ざりものってこと?

 例えば、勇者は魔宝石の鎧を着ていてそれも壊れた……とか。


 いや、あの絵を見る限りそんな感じじゃない。宝石って感じじゃなかった。

 色ならむしろ、あの悪魔の持つ盾のほうが剣にかなり近かったような。


 そういえば、絵にも違和感があったな。


 だってそうだろ?

 最高の強度を誇る、なんでも切り裂く剣。

 それを防いで、あまつさえ砕く盾ってどんな盾なんだよ?




「まさか」


「なにかわかったの!?」


 オレは砕けた宝石を一粒だけつまみ、それだけを鑑定する。


 概要は『エンジャの魔宝石屑』、前の結果と変わらない。

 だが、その概要の補足が『宝石剣の残骸』となってた。

 やっぱりそうだ。


「多分、この残骸は剣だけのものじゃない。

 悪魔の持っていた宝石盾の残骸と混じってるんだ」


「宝石盾!?」


 某漫画で、最硬度の拳と盾を持つ敵が出てくる作品があって。

 主人公は、その拳を盾と衝突させて両方を破壊するという手で攻略してた。

 まさにそれに近い展開になったのだろう。


 多分つまり、最強の宝石剣は同じ素材の宝石盾によって防がれ。

 その際に両方が粉々に砕けたのだ。


 そして遺跡ではそれらの破片が混ざった状態で発見。

 おそらくそういうことだ。


 そして同じ宝石でも別装備の異物が大量に混じれば、復元スキルは発動しない。

 鍛冶士がスキルで復元できなかったのはそういうことだろう。



 オレは黙々と破片の鑑定を一粒ずつおこなっていく。


 なまじっか全体鑑定で概要がわかるから1つ1つを視ていこうと思わなかった。

 ウンザリするほど面倒そうだし。


 多分ほかの鑑定士もそうだったんだろう。

 むしろオレなんかは1度発動すればあとは見ていくだけだ。

 ほかの鑑定士は1回1回、発動で数十秒待たされるのだから発狂モノ。


 それでとりあえず数十個前後を鑑定してみた。

 やはり1:4の割合で剣に別の破片が混じってる。


 多いほうの破片の鑑定結果は『ガルベルスの魔宝石盾の残骸』。

 悪魔、としか伝えられてないが、ガルベルスはその悪魔の名前なのだろう。


 オレは自分の考えと魔宝石屑の鑑定内容をレンに語る。


「それにしても宝石盾なんて……ハッキリ言ってスゴい発見よ?

 今まで誰もその存在を知る人なんていなかったもの。

 神話にも出てこないし」


「でも……そうなると。

 つまりこの宝石屑のうち、盾の残骸のことは他の鑑定士にはわからない。

 そういうことでいいのね?」


「多分。オレよりもスゴい鑑定士がいたらわからないけど」


「そんな鑑定士いるわけないじゃない。

 なら……エルネスさんへの説明は私に任せてくれるかしら?

 ちょっと考えがあるのよ」


「ああ、姉さんがそういうなら」




 それから、宝石屑を半分ほど分けたところでエルネス氏が戻ってくる。


「これは……なにかわかったのかね?」


「ええ!

 実は、この宝石剣の残骸が『ただエイジャの宝石屑』と混ざっていたようです。

 それが、彼の詳細な鑑定によってわかりました!」


 ……え? ね、姉さん?


「本当かね!?

 しかし今までの鑑定士は、そんなこと言っていなかったが」


「当然です。他の鑑定士は精々名前や簡単な効果などしか鑑定でわかりません。

 しかし彼の場合はそのアイテムの詳細な情報まで得ることができるのです。

 そして彼の鑑定の結果、宝石剣の本当の長さが判明したのです!」


「本当かね! だとしたらそれは歴史的な発見じゃないか!」


「ええ、ええ。

 それで残された残骸が本来の残骸の量より遙かに多いことがわかりまして。

 この結論に至ったわけです」


「なるほど……しかし一体なんでそんなことに……一体どこで別の宝石屑が……」


「そうですね……これは憶測でしかないのですが。

 おそらく魔物が剣の完全な復元を恐れて混ぜたのでしょう。

 そして人間達が復元を諦めたところで復元を自分たちでしようと考えたのでは」


「いや、なら宝石剣を回収するだけで良いのでは?」


「確かにわたしたちが考えればそうかもしれません。

 ですが、魔物のことです。

 神をも恐れぬ邪悪なたくらみを推し量ること、我々では困難でしょう……」


 オレの推論をかなり歪めたレンの芝居がかった説明に少し頭が痛くなる。

 でもエルネス氏もレンの説明に納得しかけている。


「しかしそうなると、その粒から剣の残骸を取り出さないといけないのか……。

 どれだけ時間が掛かるのだろう。

 鑑定士を数人は用意する必要がありそうだな……」


「いえいえ、その必要はありません!

 彼なら、ほかの鑑定士より数倍は早く鑑定できるのです!

 そうよね? シュウくん」


「ええ、というか今一粒一粒鑑定している最中です」


「なんと! じゃあ、もう半分近くは鑑定済みと言うことか!?

 そんなに素早くどうやって!」


「自分は一度スキルを発動すると、それを切らさずに別の鑑定ができるのです」


「それはスゴい……、同じ鑑定士でも転生者はここまで違うのか……」


 それから全ての粒を鑑定し終え、念のため剣の残骸の方のみを鑑定し直す。


 エルネス氏は分けられた残骸と柄の部分をお抱えの鍛冶士の所へと持っていく。

 そして復元可能のお墨付きを得られた。

 オレの考えは正しかったのだ。


 その後レンは鑑定の報酬の受け取りを断わった。

 代わりにその残った宝石屑の買い取りを申し出る。


 ずいぶんと値切ったようだ。


 それでも宝石剣が復元できればその価値と得られる信用は計り知れない。

 今後の付き合いも考えてるんだろう。エルネス氏は快く応じてくれた。


 それでも宝石盾のことをエルネス氏が知れば、その値で売ることはありえない。

 なるほど、盾のことを隠したのはそういうことか。


 こうして、オレの仕事は大成功に終わった。




 エルネス氏の店からの帰り道。

 日はとっくに暮れており、街の所々にあるパブの明かりが鈍く光っている。


「今日は本当に助かったわ。ありがとう、シュウくん」


「それはこっちのセリフだよ

 今日のことでこの世界で鑑定士としてやっていく自信がなんとなくついた。

 ありがとう、姉さん」


「きゅっ」


「きゅ?

 そういえば、宝石屑はどうする? バラで売りさばく?」


「いえ、これはこれで復元するつもりよ?」


「復元って、宝石盾を? そんな当てまであるの?」


「当てもなにも、こよりちゃんがいるじゃない。

 そんじょそこらの鍛冶屋に頼むより、ずっといい仕事をしてくれると思うわ」


 そういえば。

 なんか彼女は、鍛冶屋というよりクリエイターというくくりになりつつある。

 オレの中では。


「でも、もし売れたらスゴい儲けになるな。

 王都の一等地に店が持てるんじゃないか?」


「それどころではないわ。

 組合の三大幹部の椅子と貴族の位を買って十分おつりが返って来るでしょうね。

 でも……」


「でも? 売る気はないってこと?」


「今のところは、ね。

 もちろん、シュウくんが良ければだけど」


「それって、やっぱりエルネス氏にバレるのがヤバそうだからってこと?」


「それもあるわ、それに、色々とね」


「わかった、べつに姉さんがそうしたいならオレはそれでいいよ。

 商売は姉さんに任せた方が良さそうだし」


 それに、いきなり金持ちになっても税金とか付き合いとか大変になりそうだ。


 それにしても。


「……思ったんだけど、姉さんはこの世界でお金を儲けて、どうするつもりなの」


「べつに? どうもしないわよ?」


「え? それじゃあどうしてがめつ──商売にこだわるの?」


「そうね……それが商人だから、かな。

 ホントに夢だったのよ? ……気の置けない誰かと店をやっていくのが」


「それって、前世の話?」


「そうね……」


 レンは穏やかに、懐かしげに微笑んだ。

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