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章末③   レンの店がオープンした

「あのレンも、テメエから寝取っテヤルゼエェ!!!

 テニイレタラ、オエノメノマエデヤリツクシテヤル」


 オレが勇者の言葉を理解する前に、展開していた魔法物質が全てはじける。




 気づくと、いつのまにかオレは木刀を手にしていた。

 それは知らぬ間に前方に突き出されていて、目の前の魔法物質を貫通。


 直前に誰かの声が聞こえた気がする。


 さらに木刀は魔法物質により伸ばされ。

 回転の指輪の反発力を帯びていた先端が勇者の顎にヒット。


 勇者は膝を屈し、その場に倒れる。

 コイツがいつまでも立ち上がらないことを確認して、オレは意識を手放した。

 



 少しして目を覚ましたあと、オレは各方面にめっちゃ叱られることに。

 だけど龍介を助けるための緊急措置だったことが認められ、特に罰はなし。


 彼はかなり危ない状況で、すでにガッツスキルも発動していた。

 もうあと1~2撃を喰らえば、確実に死にいたる状態だったのだ。


 意識も未だに回復していない。


 そこまでいくともう魔道士ではどうにもできない。

 本人の回復力に賭けるしかないという話だった。


 ただ、オレの鑑定で見るかぎり回復は順調。

 生死の境というほどヒドい状況ではなさげだ。



 勇者壮五はオレよりさらに少しあとに目を覚ました。

 だが、以外とダメージが入ったようで、しばらくは起き上がれそうになさげ。


 格闘マンガでよく見る、脳が揺さぶられてどうのっていうアレなんだろう。



 試合は結局、龍介と壮五を抜きにして仕切り直しとなった。

 

 こうなると龍介パーティーのアタッカー無双かと思えた。

 だけど、彼も意外と連戦でダメージが入ってたらしく、あまり振るわず。


 結局、意外と連携が達者だった勇者抜きパーティーが勝利をつかみ取った。

 どうでもいい話だ。


 表彰式では一応、別の魔物による王妃誘拐が行われないか警戒してみる。

 だがそういう動きはなく、閉会式まで何事もなかった。



 勇者はそのあと龍介を見舞うが、彼は未だに昏睡状態。


 しかたがないので周りには、


「まさかこんなことになるなんて……。僕の未熟さのせいです。

 彼は強かった! しかも魔王を倒すという使命感に燃えていて、必死だった。

 彼をおもんばかる余裕を僕に持たせられないほどに……」


 と、いつもの八方美人顔でアピールしてた。

 周りにもどうやら受け入れられているようだ。


 ただ『龍介を助けるため割りこんだ者への攻撃はやり過ぎ』という声もあがる。

 そこは勇者も弁解のしようもなく、完全にスルーを決め込み。


 オレに大したダメージが入っていないこともあって、炎上することもなかった。

 一発くらい喰らっておけばよかったか。いや、ないな。





 そして今にいたる。


 店には、すでにリタや悠里やこよりも来てた。


「ホント、あいかわらずえげつないことするよね。

 ああいう手合いには関わり合いたくないなあ」


「えげつない?

 なんのことですか?」


「ああ、いやいや。

 こっちの話だよ。ねえ、シュウにい」


 こよりは以前、裏でオレとやり合っていた所を目撃したそうで。


 そんなわけで勇者に対してあまりいい印象を持っていなかったようだ。

 今回の件でそれが決定的になったようだ。


「まあ、とにかくお見舞いに行きたいな。

 レン姉さん、大丈夫なの?」


「ええ、特に問題はないと思うわよ。

 わたしも一緒に行くわ」


「わたしも行きます……いいでしょうか?」


「ええ、よかったらリタちゃんも」


「わたしも行く!

 考えてみたら、まだ直接謝ってもらってないし」


「ならあたしもいく! なんか面白そうだし」


 むむ、今すぐお見舞いに行かなきゃいけなさそうな流れになってしまった……。





 それから数日後。

 ついにレンの雑貨屋がオープンした。


 店は朝から大繁盛……ということにはなってない。

 まあ、当然だろう。


 それでもまったく人が来ないわけではなく。


 レンの知り合いがちょくちょく入ってきて、挨拶してきてた。

 ご祝儀的になにか買っていってくれるときもある。


 ただ、本当はキチンと購入したいモノが別にあるらしい。


 だけど、身内が初日から買ってしまうと外向けに目玉商品がなくなる。

 という配慮もあるようだ。



「いやあ、この店。さすが品揃えいいねえ。

 いったい、どこでこんなに調達していたの。

 うちの店にも前日まで結構な品を卸してくれていたのにさ」


「ええ、それは――」


 どうやらレンも、貴重品を根こそぎ独占してたわけではないようだ。

 一部は他の店にも融通してたらしい。

 レンらしい気配りである。


「いやあ、これならなんでも入手できたりするんじゃないかい?

 ご禁制の品とかでもさ」


「そうですね……なんでも融通できると思いますよ?

 弟以外のものでしたら」


「……」


「いえ、冗談ですから」 


 なんで、弟以外なんて敢えて限定するんだよ。

 冗談に聞こえないよ、怖いよレン姉さん。




 こんな感じで、忙しくもなく、かといって暇でもない時間を過ごす。

 すると、午後にはリタと悠里とこよりもやってきた。


「勇者さまの店、いよいよ開店したんですね!」


「いや、レン姉さんの店な。

 オレは単なる雇われ店員」


「それにしても、ずいぶんと暇そうにしてるじゃない、アンタ。

 大丈夫なの? この店」


「さあな。まあ、始まったんだ。

 あとはなるようにしかならないさ」


「なにこれ!! なにこれ!! シュウにい!!

 なにこの『エクスカリバー』って、こんなの前はなかったじゃないか!」


「ふふふ、実はお前向けに隠してたんだよ。

 それは本物だ」


「本物!?」


 もちろん、元の世界で伝説になっているあの武器そのものではない。

 ただ、この武器を鑑定すると『エクスカリバー』と出るのである。


「多分、数百年前の転生者の中にオレたちと似たような奴がいたんだろうな。

 そいつが誰かに作らせたか、あるいは作ったか」


 一応かなり強力な呪術回路が刻まれている。


 ただこの世界の記録を見る限り、これが前回の魔王討伐に使われた史実はない。

 てか、鑑定結果に『アーサー王』などこの世界の存在ではない記述まである。


 完全に趣味の一品である。


「じゃあさ! じゃあさ!

 刃の部分を見えなくするとか、そういうこともできるのかな!?」


「これにはそういうのは実装されてないけど。

 オレたちなら作れるかもな」


「むむむ、創作意欲が湧いてきたぞぅ!!

 ゴメン! ちょっと工房に戻るよ!」


 こよりは、とっとと店から出ていってしまった。

 まあ、しばらくの間は戦いなんてないと思うけど。

 そういう武器に胸が躍らないかと言えばウソになる。



「ところで……。

 勇者が辺境に派遣されることになったの、知ってる?」


 勇者のことはあれから見てない。

 てか、寮を退去するときに嘲笑しにくるかと思ったがそれもなかった。


 オレは決勝戦で、アイツが首無し死体に大きく関わってると直感した。

 だけど、そのことは誰にも話してない。断定できる証拠もないし。


 まあどうあれしばらくの間、王都を離れるのなら幸いだ。


「まあ、わたしも勇者が1人で行くのなら関係ないんだけどね。

 転生者の多くが自発的にアイツについてくみたいでさ」


「へぇ?」


 悠里の話によると、これを実戦訓練ととらえてる奴らがいるらしく。

 ガチ勢、エンジョイ勢の大半が彼についていくらしいのだ。


 ちなみに王子パーティーは、龍介の傷が癒えてないので王都にとどまるらしい。


「で、お前はどうなんだよ。悠里。

 今なら斧さえ装備すれば足手まといにはならないだろ」


「わたし? わたしは残ろうかなって思ってる。

 実はさ、こよりに専用武器を作ってもらえることになったんだ。

 行くとしても、それを使いこなせるようになってからかな」


「へえ!

 それは良かったじゃないか」


「それに、レンさんも残るってさ。

 この店をまかせるには、アンタが頼りないからってことじゃないの?」


「ほっとけ!

 てか、オレは残る前提かよ。まあ、その通りなんだけどさ。

 で、多分こよりもここに残るだろうな」


「でしたらわたしたちのパーティーメンバーは全員残るんですね!」


「いや、御前試合は終わったんだから。

 もうパーティーメンバーでもなんでも――」


「そういう寂しいこと、言うなよー。

 もうこうなったら、一蓮托生でいいじゃないかー。

 そして、いつかわたしたちで魔王を倒そう!」


「知るか!

 オレは――」


「こーら! もうそろそろ忙しくなるわ。

 カウンターに戻って準備して」


「忙しく!?」




 レンの言うとおり、夕方頃になって急に客が入り始めた。


 この時間、冒険者などがダンジョン探索を終えて王都へ帰還。

 そして、そこで得られた物を鑑定したり売ったりするために雑貨屋を訪れる。


 この世界では装備品への理解度が高いほど神の加護の力が強まるわけで。

 そんなわけで自分で使うにせよ売るにせよ、より精度の高い鑑定を求める。


 だから『この世界唯一の転生者鑑定士』のいる、この店にみんな殺到すると。


 そんなことをレンが説明してくれた。



 そんな客の中には、鑑定ついでに明日の冒険に必要なものを買ってく人もいる。

 そして、オレのウワサを聞いて、ただ物見遊山で来てる奴も。


 そんなわけで、昼の状況からは想像できないほど店の中は人でごった返してた。


「すみません、商品の購入はこちらになります」


「おーい! 薬草の棚、空になってるってよ!」


「ちょっと待っててね、ユーリさん」


「てか、こよりを呼んできた方がいいんじゃないの!?

 アイツ、簡単な鑑定ならできるんだよね!?」


「ならお前が呼んでこいって!

 オレは手が離せない!」


「じゃあ、わたしが呼んできます、勇者さま!」




 魔王を倒さないといけない。

 なんて、ここの偉い人に言われたときには期待半分怖さ半分って感じだった。


 だが今のところ特に戦いに巻き込まれることもなく、平和な日々が続いている。


 ずっとこうならいいな……そう思う。

 まるでフラグになってしまいそうなので口にはしないが。








前章「御前試合編」終


 本章「魔王襲来編」につづく

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