章末② 見てられない……ので勇者壮五と龍介の試合に割りこんだ
※御前試合本戦当日
御前試合決勝の組み合わせはどんでん返しも面白みもなく。
勇者と王子の2パーティーのカードとなった。
オレたちは観客席で試合を見てる。
ちなみにこよりは、『シュウにいの出ない試合は興味ない』と早々に帰った。
王子のパーティーの編成はヒーラーがいないことで定番の型になってた。
タンクである龍介とアタッカーが前衛、魔道士が後衛でリーダーを守る。
一方勇者パーティーは勇者壮五一人だけが前面に立ってる。
ヒーラーとバフとタンクが後方で援護やリーダーの防衛、という編成のようだ。
試合が開始された。
まもなく王子パーティーのアタッカー真澄が突っ込んでいく――
隙もあたえず、壮五が一凪で彼をノックアウトさせてしまった。
てか、普通の木刀を振るのが遠隔攻撃になるとか、どんなチートだよ。
龍介が勇者を抑えている間に真澄が敵陣地に切り込むほうがよかった。
だけど今それを言うのは結果論だろう。
2人がかりで勇者を手早く落としてそのまま攻め込むという考えも悪くない。
ただ、壮五が尋常じゃなかっただけの話だ。
だがこりゃあ、勇者パーティーの勝ちはまず決定してしまったも同然だな。
龍介を壮五が引きつけているうちに他2~3人がリーダーを攻めれば終わり。
つまらん。
だが、勇者パーティーはそれをしなかった。
なにか壮五と龍介が中央で言い合っている。
当然ここからでは聞こえない。普通なら。
「いったい、二人でなに話してんだろう?」
「どうやら、壮五と龍介で頂上決戦としゃれ込みたいようだぜ」
「勇者さま、聞こえるのですか!?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどな」
『風読みの指輪』という、空気の流れが波紋のように見えるようになる指輪。
試合では使わなかったものだ。
これはダンジョン内で空気の流れを読み、出口などを見つけるために使われる。
だがうまく調節すれば発声時の空気の振動を視覚化することが可能だ。
もっとも視覚化といっても漫画みたいにフキダシや絵文字が見えるのではない。
波紋状の音波の模様が空中に描かれるだけ。
だけどその波紋をオレが鑑定すれば、どういう声を出しているかわかるのだ。
ちなみに遠くの人が話す内容を知るには、唇の動きを鑑定する方法もある。
だけどしゃべってるときの感情もわかるので『風読みの指輪』のほうが便利。
そうこう考えている間にも、龍介と壮五の一騎打ちは続いていた。
今のところは互角に見えるが、勇者はまだ本気でないようにも思える。
だがそのうち、わずかずつ龍介の攻め手が少なくなっていき。
壮五の手数のほうが多くなっていく。
やがて勇者の攻撃が相手の防御の隙を突いて当たり始める。
もう龍介に反撃する余裕はなくなっていた。
「これは……もう」
剣術のセンスもないオレでも、もう龍介に勝ち目がないのが見て取れた。
体をゆらゆらとさせながら、おぼつかない足取りで勇者に近寄る。
だけど簡単にあしらわれ、隙だらけのところに一撃、一撃、一撃と喰らい。
それでも龍介は倒れなかった。
「リュースケさん、がんばるわね……意地があるということなのかしら……」
意地? ……この世界に来て喜んでいる連中に対して……なのか?
いや、というよりこれは……!?
ある可能性に気がつき『風読みの指輪』を発動しつつ2人の周りを見る。
オレは思わず立ち上がり、回転の指輪で跳躍。
数秒後には龍介と勇者の間に入っていた。
「これは……、どういうことかな? シュウ君」
勇者が問う。
「どういうこともなにも。
お前、なにかやってるだろ」
「なにかって……コレのことかな?」
瞬間、勇者の木刀の刀先がオレの左肩から10センチほど離れた所で揺れてる。
いや、刀先がオレの肩を打ち据えようとするのを、透明の羽根がさえぎってた。
「なるほど……ね。
訓練の時よりは大分進歩したようだね。
僕の攻撃が見えているのかな?」
「さて、どうだろうな」
……あっぶねー。
こいつは龍介に対して見えないほどの神速攻撃を織り交ぜていたのだ。
それでぶっ倒れそうなのを弾いて強引に立ち上がらせていたと。
オレは風読みの指輪で不自然な空気の流れを鑑定してそれがわかった。
だがわかってることと、それを見切れることはまるで別である。
オレが神速攻撃を受けられたのは、前もって羽根を展開してたからにすぎない。
『コイツだったらこうするだろうな』とあらかじめ読んで。
オレが適当に返事して龍介のほうに振りむくと、彼は既に倒れていた。
いや、本当はもう随分前に倒れていてもおかしくなかったのだ。
「ったく、とっとと膝を折っていれば、その場に倒れられたものを」
「それは無理だと思うな。
彼の意識が薄れて抵抗が弱くなった辺りで、足にマヒの呪文を使っていたから。
とくに膝辺りは殆ど動かなくなっていたはずだよ」
「どうしてそこまで! そんなことしなくても勝ちは決まっていただろ!
殺すつもりだったのか!」
「君が健闘したからだよ」
「……それは、オレたちに辛勝じゃあ、転生者の面目が丸つぶれってことか?」
だから、勇者が圧倒的な強さを見せて、転生者のメンツを保った、とでも?
「転生者の、じゃない、僕のだ。
こんなのが2番手じゃあ、僕まで弱く見られちゃうじゃないか」
「……オレは龍介の攻撃を絶対に受けないよう細心の注意を払った。
だけど、お前の今の攻撃は避けなかった。なんでだかわかるか?
お前の攻撃なんて、避けるまでもなかったってことだ」
「へ、ハハ、き、君はいつも僕のカンに障ることを言うねえ。
そうか、ここで僕が切れれば僕の化けの皮が大勢の前で剥がれるって、ことか。
フフ、危うく引っかかるところだったよ」
そんなつもりはなかった。
くやしまぎれに言ってみただけだ。
だけどまあ、そうだな。
「君! いったいどういうつもりかね!
試合中にいきなり飛び込んでくるなんて」
ようやく審判がやってきて、オレと勇者の間に入る。
「どういうつもりもない。
既に龍介は意識を失ってるぜ?
早く連れていったほうがいい。下手をすると死ぬ」
慌てて審判が龍介の元に駆け寄った。
状態を確認すると、大声で救護担当を呼び寄せる。
「あとひとつだけ、いいか? 勇者」
「なんだい? シュウ君」
「お前、予選の日、あんなところでなにしてたんだ?」
べつに、わずかな可能性の一つだった。
コイツが首切り死体の件に関わってるなんて。
だけど、まあコイツ頭はいいからオレが犯人と疑ってると察するだろう。
プライドの高いコイツのことだ。
オレなんかに犯人扱いされてぶち切れるかもしれない。
その程度で軽く言ってみたつもりだった。
今、コイツの顔を見て確信する。
本物のヒーラーを殺ったのは勇者壮五だ。
同時にオレは魔法物質を多重に重ねて生成。
「てめえ!!! てめえ!!!
あんなところって! あんなところでって!!!!
上から語るんじゃねえぇえぇ!!!!!!!!!!!!
クソックソックソックソックソックソックソックソッ!!!!!
クーーーーーーーソーーーーーーーーがぁぁああああぁぁぁあああぁぁ!!!」
直後、彼は暴れ馬のようにオレめがけて突進。
生成した魔法物質の上を木刀でなんども、繰り返し繰り返し殴打する。
打撃ならそれなりのダメージに耐えられるはず。
だが、それが1枚1枚剥がされていく。
神速攻撃ではない。
あれは精神が研ぎ澄まされないと出せないことがWikiでわかってる。
今は技もなにもなくただ、力任せに振り下ろされているだけだ。
「寄生虫が!!!! 出しゃばってんじゃね!!!!!
クソに帰れ! クソクソクソクソクソ!!!!!」
鑑定で見る限り今のコイツの状態は『混乱』。
ただただ純粋な怒り。
ひょっとしたらオレの口から真相が漏れるんじゃないかという恐怖。
ついにやらかしてしまったことに対しての後悔。
かといってもう止めることもできない自分への諦め。
押し込めていただろう、自分の欲望が解放された快感。
それらがない交ぜになってるってとこか?
なんて、分析している場合でもない。
普通なら砕けるはずの木刀が、勇者の加護によって保護され、殴打は続く。
剥がされてもそのたびに裏に生成を行っているのでなんとか持ってる。
だけど、ついとっさに自分を包むように魔法物質を生成したのはミスだった。
オレは引くこともできないまま、勇者の暴力を受け止め続けるしかない。
やがてダメージを吸収しきれなくなり、内側のオレにもダメージが入り始める。
そのダメージは徐々に、徐々に、オレの、意識を、薄めていった。
だが、気絶は、マズい。
意識を失えば、オレは、勇者に、殺される。確実に。
気絶は……。
「へへ、いつもの減らず口はどおしたああぁ!!
終わりか! もう終わりか寄生虫がぁああぁあ!!
キサマをぶっ殺して、全部手に入れるんだぁあああ!」
どうやら、感づかれたか。
ニヤニヤしはじめやがって……。
「あのレンも、テメエから寝取ってやルゼエェ!!!
テニイレタラ、オメエノメノマエデヤリツクシテヤル」
オレが勇者の言葉を理解する前に、目の前の魔法物質が全てはじけた。
『ボクのねえさんに手出しはさせない』
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