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御前試合本戦② 結局、龍介と1対1で戦うことになった

 突然、敵の前衛と後衛の魔術師が、手に持っていた武器を振りかざした。 



 魔法発動のモーションである。

 ヒーラーの呪文詠唱の文言がオレの耳に届く。


 後衛にいるのは稔彦だが、彼にバフ系の呪文は使えない。

 乱戦になる前にオレたちの陣に向けて広範囲の魔法攻撃をするつもりだろう。

 前衛ヒーラーの浩はバフの可能性もあるが、おそらくは眠りかマヒ呪文。


 それらが決まればオレらはなすすべもなく敗退する。



 だけど、それは発動しなかった。


 『何をしてるんだ!』という視線が、前衛の2人から魔術士たちに向けられる。

 敵4人がそろって困惑している。




 当然、オレの策の結果だ。


 連中のことは調べられるだけ調べている。

 そのデータに、彼らが魔法を発動しないと思い込む根拠はない。


 オレが使ったアイテムは『記憶消去の指輪』。

 こよりにも渡してある。


 もちろんこの指輪に、覚えた呪文を忘れさせる効果なんてない。

 その効果では3秒ほど前までの記憶しか消去できないのだ。


 だけどもしその記憶消去が、呪文詠唱中に行われればどうなるか。


 確かに彼らは呪文を覚えてはいるが、それは頭の中で文章を記憶しているだけ。

 まるで九九のように反射で言えるようになっているわけではない。

 それは実戦を伴って何千、何万と詠唱されて初めて体得できる領域。


 つまり詠唱中に3秒も記憶を奪われると、呪文をどこまで読んだか見失うのだ。

 それによって読み違えた詠唱が成立するわけもなく、こうなる。



 さらに、こよりにはもう一つタネがあった。


 鍛冶屋の持つスキルに『形状記録』というのがある。

 本来、それは見た物の造形を細かく頭の中に記録し制作に活用するためのもの。

 だがこの場においてその利点は、発動が距離の影響を受けにくいところにある。


 特に彼女は転生者だ。

 数10m先の人物でも、唇の動きまで細かく記録できる。

 それにより彼女は、敵リーダー前の魔術師の動きを見て指輪を発動できるのだ。




 オレはタイムストップの指輪をつかった。

 景色が色を失い、オレも含めた全ての動きがなくなる。


 悠里は早速、龍介の抑えに入っていた。

 彼女には今回も、倒すことは考えず長く敵を足止めすることを指示してある。


 打ち合えば確実に悠里が負け。

 だが、悠里が防御に徹すればそう簡単にはやられないだろう。

 と言っても現状見る限り、数分と持ちそうにない。

 それも想定に入っている。


 その短い時間で、どう他の前衛二人を退けるか。




 オレはタイムストップの指輪を解除後、ここで大会中に木刀を初めて抜く。

 そして、まずはヒーラーの浩へ向けて高速接近した。


 おそらく高速移動のことは聞いているはず。

 だが、目の前で見れば迫力の違いに気付くだろう。

 彼がうろたえてるのが見てわかる。


 ましてや、今の彼は呪文詠唱を成功させることに必死。

 頭の切り替えができていない。


 まあムリもない。

 成功させればそれがそのまま試合の勝敗に結びつくのだ。

 だけど、それが命取り。


 相手との距離が数メートルに迫ったところで。

 オレはさらに回転の指輪の効力を発動する。相手の足下に。


 彼は対応が遅れ、その効果をモロに喰らう。

 それは単に彼を転ばせるにとどまらなかった。


 ヒーラーの浩は大きく吹っ飛ばされる。

 オレが予選で跳躍したとき以上のスピードで。

 場外に向けて。


 予選ではアホ悠里のせいで残り回数が足りなかったので跳躍で時間を稼いだ。

 だけど、目潰ししたあとにこうやって場外に飛ばすのが本来の作戦。


 自分が飛べないのなら相手を飛ばせばいい。

 結局どうとでもなる話だったのだ。




 続いてオレはもう一人の前衛、アタッカーである真澄に接近する。


 ちなみに名前は女っぽいが、男だ。

 だがさすがに戦士職のことだけある。

 オレの急接近にまるでひるんでいなかった。


 また足下への警戒を怠っていない。

 さっきヒーラーが吹っ飛ばされたのをキチンと見てたのだろう。


 だが足下に気を取られすぎだ。

 それで彼は懐付近までのオレの接近を許してしまう。

 オレの狙いは、少し違った。


 オレは、具現の指輪で魔法物質を展開する。


 魔法物質はまるで新たな長い棍を形成するように木刀全体を包みこんだ。

 その魔法棍と呼べるような棒の片方の先端を地面に斜めに刺す。


 さらにもう片方を伸ばし、鎧の腹に接触させる。

 まるでアタッカーと地面の間に、つっかえ棒のように斜めに棍が挟まった

 そこで回転の指輪による反発力を、鎧と接触した先端に発生させる。


 するとどうなるか。



 転生者実戦訓練用のダンジョンで、ワームで似たようなことをしたとき。

 棍の後ろに支えがなかったので魔法棍が後ろにすっぽ抜けてしまった。

 だけど、今は地面という支えがある。


 オレとリタの体を瞬間時速80Kmで空中に放り投げるレベルの反発力。

 それが鎧との接触部分に集中し、彼を大きく弾いた。


 だけど、アタッカー真澄は大きくのけぞるにとどまる。


 場外に吹っ飛ばされれば簡単だったが、やはりそう都合良くはいかないか。

 それどころか、この威力で意識を狩ることすらできないとは。

 まったく、戦士系の加護ってのはやっかいだな。


 だけど、それで構わない。


 オレはそのまま奴の足下に回転の指輪の効力を発動する。

 のけぞった体勢からそれを避ける術はない。


 そのまま、アタッカーの真澄は場外のほうに吹っ飛ばされる。




 これで、前衛3人のうち、龍介を抜かす2人を場外に排除した。


 だけど、オレにそれを見届けている余裕はない。

 すかさずヒーラーが吹っ飛ばされたほうを向き、タイムストップの指輪を使う。


 視界に入ってるのは、悠里と龍介が押し合っている様子。

 それと、国王たちの席付近にまで吹っ飛んだヒーラーの姿。


 よし、ヒーラーは場外まで飛んだな。作戦通り。

 だけど安心している余裕はない。


 よく見れば、悠里が龍介にかなり押されてることがわかる。

 多分、ここから悠里の場所まで高速移動しても悠里の手助けには間に合わない。


 オレが一人で龍介を抑えなければいけないようだ。


 想定した状況の一つであるとはいえ、ホントに対峙するとなると気が滅入る。

 ま、なんとかしないとな。




 オレは自分からタイムストップを解除。

 龍介と悠里が対峙している場所まで高速移動を始める。


 予想通り助けには間に合わなかった。

 目の前で悠里は龍介に横薙ぎに吹っ飛ばされ、倒れたまま立ち上がらない。


「ふん。頼みの綱の彼女は、ご覧のようにぶざまな有様だ。

 降参するか?」


「まさか。お前を悠里と同じ目に遭わせてやるよ。

 後悔するはずだぜ。

 悠里をぶざまじゃなくもっとカッコいい感じで吹っ飛ばせば良かったって」


「粋がるじゃないか。

 しかし驚いたぞ、まさか残りの前衛を場外に飛ばすとは。

 だが、指輪の力もだいぶ使ったのではないか?」


 事実だ。

 既にこれまでに反発の指輪を10回使ってしまっていた。


 その残り2回のうちの1回を即座に、惜しげもなく龍介の足下に発動させる。

 『残り少ないから、あとは慎重に使うだろう』なんて考えてるなら好都合。


 だがそれは龍介に避けられてしまう。

 ちっ、悠里と違って初見でも簡単に予兆を察知するか。


「慌てるな。

 せめてコレを見てから、リアクションを見せてもらいたいものだ」


 龍介はそう言うと、おもむろに左の手袋の人差し指、その先を引きちぎる。


「それは!」


 人差し指に指輪がはまっていた。破壊の指輪だ。



「アイテムを戦闘に生かせるのは自分だけだと思ったか?

 お前など、頼みの綱の指輪がなくなればそこらの町人と変わらないのだろ?」


 オレはそのまま反発の指輪も使わず特攻をかける。

 だけど、それを龍介は軽くいなす。


 さらに勢い余って膝をついたオレに破壊の指輪を向ける。

 指輪は赤色の、鈍いが強い光を発した。

 たちまちオレの付近でパチンパチンと何かが砕ける音が発せられる。


 それはアイテムが砕け散る音。

 むき出しになっている人差し指と中指にはまっている指輪も崩れていく。


 棍になっている魔法物質は指輪と関係なく一定時間存在し続ける。

 だがそれだけの話だ。


 龍介はそれを誇るように高笑い――などはせず。

 むしろ哀れむような視線でこちらを見ると


「……女を想う、お前の気持ちも分からなくはないがな」


 そうつぶやいた。



 オレは膝をついたまま、龍介のもとにずるずると近づく。

 まるで頭をもたげた蛇のように。


 だけど、木刀が龍介に届く位置まで来てオレの動きは止まる。


「木刀が私に届いたところで、なすすべはあるまい。

 その根性を、この世界に来たときから見せれば良かったのだよ。

 だが、もう手遅れだ。お前の戦いは終わった」






「……普通、そう思うよな」

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