御前試合本戦① 王子パーティーが舐めた戦列を組んできた
いよいよ御前試合本戦当日となった。
今日は街の賑わいも予選の時よりある。
会場に到着するのもだいぶ苦労した。
エントリーは、予想外にもこより特製の短剣がチェックに引っかかる。
試合中、ナイフなどの軽いものは使用不可でも所持は可能だと聞いてたが。
どうやら魔法のかかったものには検査が必要になるらしいのだ。
幸い、この短剣に刻まれた術式は簡単な硬化術式と単純な振動術式だけ。
特に試合に差し障りのあるレベルではないと判断され、所持を認められた。
控え室に入ると4人がすでに揃っていた。
こよりはなにか小さな箱みたいなものを耳の近くに寄せている。
どうやらオルゴールをならしているようだ。
耳をそばだてて聞いてみるが、覚えのない普通の曲だった。
「なんだ、アニソンじゃなかったのか」
「ぶー、あたしのこと、なんだと思ってるのさ。
これを聞いてると緊張がほぐれるというか、やすらぐんだよ」
確かにずいぶんと落ち着いているように見える。
うらやましい。
「それにしても……予選と比べて今日は観客がずっと多いね」
こよりがのんきにそんなことを言う。
確かに今日は予選以上に完全な満席状態で、通路や階段にまで立ち見客がいる。
さすがに本戦は注目度も違うということか。
「どうやらシュウくんが空を飛んで、街では天使が召喚されたって噂になってね。
それを聞きつけて、今回は例年より人がだいぶ増えてるそうよ」
え? オレが原因?
「シュウにい、天使だってさ。どうする?」
「といって、アンタは天使というガラじゃないね。
どちらかというと黒ずくめの……カラスっていったところじゃない?」
「そこはせめて『漆黒の悪魔』ということにしておいてくれ」
入場の流れも予選と変わらない感じだった。
今日は勇者も開会式に参加していて、皆の注目を集めている。
だがオレたちにとって、そんなことよりまずは打倒王子パーティーだ。
見る限り、どうやら今日の悠里に予選のような気負いはないようだ。
緊張していないわけではないようだけど。
いや、そういう意味ではオレのほうが気負っているかもしれない。
両手をぎゅっと握りしめ、少し集中してみる。
うん、キチンと『視えている』。
これならアレも大丈夫そうだ。
「母さま……」
いや、もっと気負っているのがいた。
特別席で観覧している王様と王妃を、先頭でじっと見ているリタだ。
王妃誘拐の話は彼女には隠すつもりでいた。
だが前日になって結局、アホ悠里がバラしてしまったのだ。
以来ずいぶんと不安がって、今も精神的に相当追いつめられてる感がある。
まったく、王様の考えは理解できない。
危険なんだから御前試合なんて中止にするなり欠席するなりすればいいのに。
それを体面なんぞ気にして決行するなんて。
オレは開会式が終わったあと彼女に駆け寄る。
そして頭をポンポンした。
「心配するなって、オレがなんとかしてやるから。
この試合のことも、王妃のことも」
リタは驚いた顔をしてこちらを向くが、もう一回軽くたたいてやると、
「はい!」
いつもの柔らかい笑みを見せてくれた。
「コラー、殿下にそんなことをすると打ち首獄門だゾ? シュウにい」
「打ち首獄門って、どんなファンタジー世界だよ?」
てか本来はそうなってもおかしくないんだろうけど。
そういうことが起こらないのが現在のリタの悲しい境遇と言えた。
彼女の今の想いが、王妃に伝わればいいのに。
開会式が終わったあと。
今回は待たされることなく、いきなり対戦させられるようだ。
各転生者が控えに戻るところ、オレたちと王子パーティーのみが残される。
「さて、大道芸にどれだけ磨きがかかったか、見せてもらおう」
「まあ楽しんでもらえればいいが、気をつけろよ?
大道芸だって、なにかあれば死人だって出るんだぜ?」
整列の際に掛けられた龍介の言葉を軽く返すが鼻で笑われてしまう。
特になにか感情が動いた様子はない。
どうせ、しょせん小物、とか思ってるんだろう。
あなどってるのならいい傾向だ。
そして挨拶がおこなわれ、そこで審判から追加ルールが軽く説明される。
『リーダーが5秒以上地面から離れたら敗北』というのがその内容だ。
つまり、以前話をされたように、リタを伴っての跳躍&滑空が封じられた形。
まあ、どういうルールが追加されても関係ないな。
今回は飛ばない。
審判の合図で配置につく。
王子パーティーは
タンク :青井 龍介
アタッカー:海藤 真澄
ヒーラー :遠藤 浩
メイジ :轟 稔彦 (攻撃型魔道士)
+リタの兄貴『リチャード』で、構成されたパーティー。
訓練で見る限り堅実な印象がある。
だけど驚いたことに、今回は王子パーティーの戦列が想定と違っていた。
後衛になると思っていた2人のうちヒーラーが前衛についてる。
てか後方に1人残して3人が前衛という戦列は予選の中也パーティーと同じ。
『自分たちならあんな負け方はしない』という無言の主張を感じる。
それとも単に意表を突くためか。
てか、中也たちは3人がアタッカーなので、あの戦列が有効に働いた。
だが、王子パーティで前衛向きなのはアタッカー、タンクと2人だけだ。
ヒーラーを前に置くのは、あまりうまい配置とは言えない。
過剰に意識しているなら、良い傾向だ。
だがこりゃあ、2人でしのげるか?
だいたい、この試合では体力や傷の回復があまり意味を持たない。
だからヒーラーをアタッカーとして使うのは的外れでもないようにも思える。
まあ、なにはともあれ、やることは最初に決めたことから変わらない。
オレたちの今回の戦列は自陣の前方にオレと悠里。
その少し後ろにレン、中間にこより、後方にリタという感じ。
作戦の基本はおおすじ前回と同じ。
悠里が強敵を抑え、その間にレンが敵をかいくぐりリーダーにタッチ。
オレはほかの敵アタッカーをしのぎつつ、可能なら悠里やレンの補助につく。
前回と違うのは、オレのバックにこよりがつくことだ。
彼女は攻撃には出ず、リタを守ったり逃したりするために動く。
それに、もう一つ援護も頼んだ。
これでオレが積極的に攻撃に回れるというわけだ。
もっとも本当は、こよりにはアタッカーになってほしい所なんだが……。
やはり荒事は避けたいらしく、パーティーには入ってもアタッカーは嫌がった。
それに、リタもこんな小さな娘に戦闘をさせるのには抵抗があるようだ。
敵を前にして、彼女がこよりを守ろうとしないかどうか心配だが……。
状況を整理しながら落ち着こうとしている中、試合が開始される。
突然、敵の前衛と後衛の魔術師が、手に持っていた武器を振りかざした。
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