本戦準備⑨ オレしか知らない秘密の部屋へたどり着いた
目的の場所に着くまでに何回も魔物に遭遇し、そのたびに4人で退治していく。
悠里はいい訓練になるとほくほく顔。
リタも、初めてパーティーの一員として貢献できてる気がすると楽しそうだ。
そしてダンジョンに潜ってどれだけ時間が経っただろう。
ここへきて、まもなく太陽の指輪の光が弱まりだした。
すかさず2つ目を装備して発動させるレン。
「それにしても、太陽の指輪の正しい使い方。
よくわかったわね。ホント助かってるわ」
「いや鑑定眼で見ただけだよ。
ただ、オレの場合は精度が高いだけで」
「だとしてもです、勇者さま!
今さらこの指輪を鑑定しようなんて思う人、だれもいなかったんですから」
「それにしても、地味にすごい指輪だよね。
元の世界じゃあ、こんなサイズの懐中電灯なんてなかったのに。
なんか、スゴい負けた気分」
「まあ、光のもとになっているのは魔法だからな。
電気を使う元の世界の文明と単純には比べられないよ」
「魔法?
これって光を吸収して放出する指輪じゃなかったっけ?」
「詳しくはちょっと違う。
これは光を魔力に変換して貯めて、光らせるときにはその魔力を利用するのさ。
元の世界で言うと、太陽電池つきの懐中電灯に近い」
そう説明してやると納得する悠里。
そもそも、この世界の量産品以外のマジックアイテムは古代文明の産物だ。
遺跡などからそれを拾って再利用しているにすぎない。
その技術を現代文明に再現しようという努力が読書会を中心に行われている。
でも解析はうまくいっていないようだ。
だけど、オレのスキルはその壁を易々と越えてしまっている。
オレの鑑定眼はアイテムだけではなく、そこに刻まれた呪術回路を鑑定可能。
レアリティによってはその鑑定結果に回路の構造・動作内容まで記されている。
これらの知識の収集により、現在Wikiには呪術回路の情報が蓄積中。
この成果を、こより嬢の手によってアイテムとして形にできれば……。
少し怖くなってはくるが、胸も躍る。
「それにしても、もうそろそろダンジョンの最奥まで到達するのだけれど。
……ひょっとして欲しいものって、そこで手に入る魔法石のことなのかしら?
シュウくん。それなら、わたしと悠里さん、持ってるんだけど……」
「あ、いや、それじゃないんだ。
オレが欲しいものはその先の――」
「止まって! シュウくん!
もうそろそろ、数歩先に大きな落とし穴のワナがあってね。
それを外してからでないと」
「ああ、わかってる。でも」
オレはその数歩を踏み出す。
突然、前方にある扉周辺50mほどの床が消失し、みんな真っ逆さまに――
落ちなかった。
床が消失した瞬間、具現の指輪によって穴を塞ぐように魔法物質を生成。
それで落下を防いだのだ。
「これって……ひょっとしてシュウくんが?」
オレはうなずく。
前まで魔法物質は
○ 普通に生成する
○ 自分を基準に定位置に生成する(動いても常に自分から同じ位置に見える)
この2通りでしか生成できなかった。
けどその後の鑑定で、他のものを基準に定位置生成できる方法がわかったのだ。
それで地面を基準にして生成すれば、空中に固定することができる。
魔法物質の床が落ちていかないのはそういう理屈である。
ただそのやり方で生成した場合、透明度の変更や生成後の変形などができない。
それができれば透明のまま空中に固定配置して敵を妨害とか、応用がきくのに。
惜しい。
まあそれは置いといて。
「で、オレの目的地はこの先だ」
オレは、扉の反対の壁にいつの間にか開いた穴を指さす。
「え? え? こんな穴、前に来たときありましたっけ? 悠里さん」
「いえ、多分なかったと思います」
「ああ、これは今空いた穴だ。
この壁はワナと連動していて、床が消失すると壁も消える仕組みなんだ」
「へえ! こんな仕掛けがあるなんて、知らなかったわ!
わたしたち、扉のワナを解除して部屋に入っていたの。
さすがシュウくん」
「あ、あの、中が何かぼんやりと明るくありませんか?」
リタの問いかけに、オレたち全員の視線が壁の穴のほうへ向く。
「ちょっと待って。
姉さん。ちょっと太陽の指輪の光を消して」
オレの指示にレンがその効力を無効にする。
目が慣れてくると、確かに穴の中が薄ぼんやりと明るくなってるように見えた。
やはり目的のものはこの先にありそうだ。
オレはレンに再び太陽の指輪を動作させてもらうと、先を急ぐ。
そこから先の洞窟は、所々が淡く光っていた。
「これは……なんですか? 勇者さま」
「ヒカリゴケの一種だよ。
暗闇の中でも光を放つコケなんだ」
「へぇ……こんなコケさんがあるなんて……」
「シュウくんの目的のモノって、このコケなんですか?」
「いや。でも多分この先にあると思う」
その先はぐねぐねしながらも1本道で、オレたちは迷わず進むことができた。
ヒカリゴケも、奥に行くに従って少しずつ増えていき。
やがて太陽の指輪も必要ないほどに明るく洞窟内を照らすようになる。
そしてその最奥、少し開けた場所に目的のモノはあった。
「この樹は……」
洞窟の中にあって明らかに異質な樹木。それは葉が緑に淡く光ってた。
そしてつけている花びらが赤、青、黄、と葉より明るく光る。
それは、まるでクリスマスイルミネーションをイメージさせた。
「綺麗……」
「淡光樹っていうらしい……」
周辺のヒカリゴケが樹木に入りこんで葉や花に――みたいな原理のようだ。
だけど、ここでその説明をするのはヤボに思える。
オレも黙って樹をずっと見てた。
「……で、アンタの探しているモノはこれなの?」
その沈黙を破って口を開いたのは悠里だった。
「ああ、そうだ」
オレはその樹に近づく。
そして道具入れから空の水筒と、金属でできたストローのような物を取り出す。
そして、ナイフの柄でそれを樹木に打ち付けた。
するとそのストロー状の金属の先から樹液らしき白いモノが垂れてきた。
それをすかさず用意した水筒に回収する。
結構多く出てくるな。
これなら時間も掛からずに回収できそうだ。
「それって、甘いの?」
「どうだろう。
なめたことがないからわからん」
悠里がくるりと振り返ると、適当な岩に腰掛けた。
飲み物の類いでないと知った彼女は興味を失ったようだ。
「この液体が、こよりちゃんの加入の決め手になるというの? シュウくん」
「ああ、間違いない」
今のこよりにとってはきっと喉から手が出るほど欲しいものに違いない。
オレはそう確信していた。
しばらくして樹液が水筒に満ち。オレはストロー状の金属を樹木から抜き取る。
そして樹木に空いた穴に綿のようなモノを詰め込んでその流出を止めた。
この木にはこれからお世話になりそうだからな。
「これで用は済んだ。帰ろう」
用は済んだので帰ろうと3人のほうを向く。
「ご苦労さま! シュウくん」
「よし! 疲れも大分取れたし、帰りもバリバリ戦闘するぞー!」
レンがこちらに寄ってきた。
悠里も立ち上がって斧をぶんぶん振り回す。
リタだけは呆けた感じで辺りの風景を眺めていた。
「終わったよ、リタ」
オレはリタの側に寄り肩を叩く。
リタはハッと我に返ったようにこちらを向いた。
「勇者さま? 目的のモノは――」
「ああ、大丈夫。回収できた」
「そうですか……では戻るのですね」
少し残念そうな顔でつぶやく。
「その……初めてなんです。
こんな洞窟の奥に木が立っているのを見るのも、こんな綺麗な場所を見るのも。
勇者さまはなんでも知っているのですね。スゴいです……」
「別に知っていたわけじゃなくて、調べたり視たりして知ったんだよ。
調べれば誰だってここに行き着くさ。
それに世界的にはそんなに珍しいモノでもない」
「そうなのですか!?」
「だから、そんなにスゴいことでもないんだよ。
普段通っていない道にちょっと入れば、今まで見たことない景色が広がる。
この場所もそういう景色の一つなのさ。結局、視野の問題なんだろうな」
「アンタ、それにしては驚いてたじゃない」
「だってオレたちの元いた世界にはこんな所なかっただろ。
調べた時も『ああ、そういう場所があるんだ』位に思っててさ。
まさかこんなにスゴい場所とは思わなかった」
「でも……そうかもしれませんね。
前に、知らない道を通って勇者さまの雑貨屋に来たときも怖かったんです。
でもあのとき勇気を出したから、今こんなに綺麗な景色を……」
オレはもと来た通路のほうへ歩き始める。
「魔王が倒れたらみんなで調べて、探して、こんな場所を一杯見に行こう。
ちょっと町外れの洞窟に入っただけで、こんなにスゴい景色が見れるんだ。
他も見に行かなきゃもったいない」
「『倒れたら』って、『倒したら』でしょ?
あたしたちで魔王を倒すんだ!」
「いや、そういう無茶なことは勇者とか龍介たちにまかせて――。
イテッ、何するんだ!」
「無茶とか言うなあ! やるって言ったらやるんだあ!」
「大丈夫ですよ。お姉ちゃんがしっかりサポートするんだから」
「姉さんまで……」
オレと悠里が話してる所にレンとリタが駆け寄ってくる。
「……わたしも勇者さまたちに精一杯力添えします!
だからいつか、みんなでこんな場所を巡りましょう!」
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