本戦準備⑧ これが転生者実戦訓練用ダンジョンか……。なんだ、大したことないな
こよりをパーティーメンバーに加える交渉をしてから2日後。
オレたちは学園から少し離れた所にある洞窟の前にいた。
2日の間、ダンジョンの入り口には何回か足を運んでいる。
すでに図書館の魔物図鑑と『鑑定眼』『攻略Wiki』でマップは完成済み。
「この奥に必要なものがあるの? シュウくん」
オレはうなずく。
手に入れれば、こよりの説得に役立つはずだ。
「しかし、街から離れた所にこんな洞窟があるんですね」
「ちなみにここ、転生者実戦訓練で使われた場所なのよ?」
あれってこのダンジョンでやってたのか、知らなかった……。
「ここは戦闘向けの加護を受けていた転生者でもずいぶん苦戦していたんだ。
勇者だってワナで死にかけてたし。
わたしたちだけで大丈夫かな」
俺は不安がっている悠里に斧を渡してやった。
「斧!? これで戦えっていうの!?」
「ああ。まあ、騙されたと思ってやってみてくれ」
とりあえず、このダンジョン向けのパーティー編成を行う。
今回はオレと悠里が状況によってアタッカーとタンクを入れ替わり兼任。
レンとリタの二人は後衛として、弓で敵を牽制してもらうことにした。
オレたちは慎重にダンジョンの奥へ足を踏み入れる。
「で、アンタ。ここ攻略の秘策はなにかあるの?」
「あるようなないような……。
まあ、さっき渡したその斧が秘策といえば秘策だ。
オレも色々試したいことがあってさ」
「それって、新しい技ですか? 勇者さま」
「まあね。岩とかで試してはいるんだけど。
やっぱり動いているものでないと実感が湧かないというか」
「とか言っている間に魔物が出てきたわね。シュウくん」
レンの呼びかけで前を見ると、暗闇の中、魔物が迫っていた。
出てきた魔物は「ワーム」という芋虫の形状の奴1体。
10つの目を持ち、大きさは人と同じくらいの大物。正直キモい。
実際に鑑定眼で見る限り、確かにそこらの魔物より強い。
だがまあ、弱点さえ狙えれば今の悠里でも問題にならないはずだ。
「じゃあ、とりあえず悠里。戦ってみてくれないか?」
「ああ、わかったよ。
……大丈夫かな」
「わかってると思うが弱点は目だ。
赤くなった時を狙うんだぞ、わかってるよな?」
「わかってないってば!
なによ、その赤くなった時に狙えっての!?
初めて聞くんだけど!」
「よく見ろよ、10個ある目のうち1つだけ赤いはずだ。
ちなみに時間が経つと別の目に切り替わるから注意しろよ?」
「そんなのがあるのね、シュウくん
目が弱点というのはみんなすぐに気がついたんだけど」
「目を狙うだけでもダメージ入るけど、やっぱり効果が高いのは赤い時だな」
「でも、狙うのも難しそうよ?」
「まあ見てなって、姉さん」
悠里が斧を振るうと、それは極めて自然にワームの赤い目にヒット。
その状況に悠里も、後ろで見ていたレンもハッとした表情で驚いてた。
「ねえ! どういうこと!
前なんか、わたしの攻撃じゃあ全然ダメージが入らなかったのに!
薪割りの効果なの!? それとも弱点狙ったから?」
半分アタリで半分ハズレだ。
確かに薪割りで加護の力が強まり、ステータスの上昇はだいぶあった。
それでもクリーンヒットが決まったのは、神の加護の抜け道を突いた結果。
加護を与えられた者が戦闘時に受ける恩恵のなかに、武器の技量上昇がある。
ただ、これは武器だけの話ではなく加護に関係した行為全てにおよぶ。
例えば農民の加護なら鎌や斧などの農具がうまく扱えるようになるなど。
そして実は農民がそれらを攻撃に使う場合にも技量の上昇効果がおよぶ。
このことは知られていないのだが、攻略Wikiの内容を参考にしてわかった。
ここの住人は、とりま剣か槍や弓、みたいなノリで武器を選ぶ。
でも実際は加護によって有効に使えるエモノは違うのだ。
それがわかってない。
「これすごいよ! どう動けばいいか、わかるよ!
わたし、戦えてる!」
斧を使う彼女は、技量において戦闘系転生者の中堅どころと互角に渡り合える。
パワーだけなら上位でも勝てる奴はいないはずだ。
もっとも、農民の加護による技量補正だけではここまでにはならなかった。
元から持っている戦士としての資質を彼女が地道に鍛えた結果でもある。
前に『ムダな努力』と言ってしまったが、そこは詫びないといけない。
「ただ、本戦は注意しろよ! 木刀じゃあ、それほど動けないからな!」
「ちぇっ、そうなのか。
うん、でも、まあ、この洞窟では十分戦えそう!」
「ねえ、わたしにもああいうのはないのかしら? シュウくん」
「ああ。残念ながらね」
商人や鑑定士が武器として使える装備は見つからなかった。
オレとレンは今まで通りの武器で戦ってくしかない。
ここでの戦闘の気配に呼び寄せられたのか、大きいのがもう1体。
今度は小さめのワーム3体ほど引き連れて襲ってきた。
「大きい1体はオレに任せて! 悠里は他3体を頼む!」
そう言いながらオレは木刀を構え、具現の指輪に意識を集中する。
「……なに!? なにそれ!? 木刀がどんどん伸びてる」
正確には伸びたわけではない。
木刀の周りに具現の指輪による魔法物質が展開されたのだ。
具現の指輪は普通、ブヨブヨとしたゴムみたいな物質を生成する。
だけど、この指輪に指定の物質を擬似的に生成させる方法が最近わかった。
例えばこうやって木刀の周りからにじみ出るようなイメージで魔法物質を生成。
すると木の性質をもった魔法物質が、木刀の周りに生成されるのだ。
これは金属をイメージすれば金属が生成されることも確認済み。
ただしこのやり方で生成するには、元になるコアの物質を手で持つ必要がある。
また1つの指輪で一度に生成できるのは1種類の物質だけ。
例えば剣を柄ごと複製なんてことはできない。
それに、生成した物質は一定時間で魔素に戻ってしまう。
ちなみにそれらがわかったのも鑑定眼の強化と攻略Wikiの成果である。
「すごい!なんか、孫悟空に出てくる如意棒みたい!」
「まあ、如意棒みたいに伸縮自在とはいかないけどな。
ちなみに孫悟空は登場人物の名前で、物語名は西遊記だ」
「でも……洞窟のなかでその長い棍はどうなのかしら? シュウくん」
「それはそうなんだけど、今回はあくまでも実験だからさ。
フォロー、頼りにしてるよ、レン姉さん」
「きゅうぅぅ――。
ええ、わかったわ! お姉ちゃんに任せなさい!」
うーん。
なんか誘拐犯でも、弟を自称するならホイホイついていってしまうんじゃ。
心配だよ、レン姉さん。
ちなみに、魔法物質の棍の先には回転の指輪による反発力を付加できる。
はたしてそれが実戦で使い物になるか。
今回試したいのはこのあたりだ。
「んー。何度見てもキモいなあ」
「そうですか? 悠里さん。わたしは可愛いと思いますけど……。
こういうのを、勇者さまの世界では『キモカワイイ』と、言うんでしたっけ?」
「リタ?!」
誰だ、リタに変な文化を教えているのは。
「それにしても、大きいのはわたしがやったほうがいいんじゃないの?」
「実験にはこれくらいの大きさのほうがいいんだよ。
手に余ったらよろしく頼む、悠里」
「はいな」
リタは、実戦においては弓がけっこう使えた。
てか、少なくともオレや悠里と比べれば段違いで弓の扱いがうまい。
またレンもリタと同じかそれ以上の使い手だ。てかレンはなんでもできるな。
とはいえそれで敵に高いダメージが与えられるわけではない。あくまで牽制。
そんな感じで3人には他の魔物を相手にしてもらって。
自分は一番大きなワームを相手にする。
その動きはワームというには思ったより早い。
だけど、油断さえしなければ攻撃を受けたりするようなことはなさそうだ。
さっそくオレは生成された棍の先に回転の指輪によって反発力を与える。
さて魔物に対してこの反発力でダメージを与えられるか。
オレはそのまま棍で敵を突く。
が、棍はワームに軽く凹みを与えただけ。
そのまま後ろにすっぽ抜けてしまった。
うーん、こうなったか。
要するに、棍の先に魔物を押す力が発生すると逆方向に同じ強さの力が働く。
結果、握りが弱いと棍が抜けて後方に飛んでいってしまうのだ。
前に岩に対してやった時もこうなった。
動いているものなら大丈夫かと思ったけど……。
多分、試合で使ってもこんな感じなんだろうなあ。
「勇者さま!?」
「アンタ、なにやってるのよ!」
「わたし、お姉ちゃんだからお姉ちゃんだから……」
オレの失敗を見てリタが慌て、悠里が怒鳴りながらも腹を抱えて笑い。
レンは……ブツブツ言いながら、一心不乱に矢を打っている。
その後、色々な魔物が出たが、特に危機的な状況になることもなく先にすすむ。
ここに来る前、転生者訓練用ダンジョンは話に聞いて警戒してた。
だけど実際体験すると、正直、肩透かしだ。
とはいえ、オレの目的の一つだった実験に関してはうまくいかず。
似たようなことを色々繰り返したが、大した収穫は得られなかった。
結局、大部分の魔物を悠里に任せてしまう結果に。
なにかうまい方法を考えないといけないな。
すみません、しばらくの間、投稿時間が不安定になります。
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