本戦準備⑤ 正解率0%の惨劇に挑め! 犯人はヤスではない。
「……そんなことをオレに教えるためにこの店に来たんですか?」
「いや、もちろんそうではない。
君にこの前の事件のことについて詳しく話を聞きたくて、ここまで来た」
これまた意外な答えが返ってきた。
遺物の回収・管理・解析が主な仕事である彼らがなんでこの事件に……。
「それは、また。どうして」
「そうだな……その質問に答える前に、こちらもひとつ問いたい。
この間預けた指輪に関して、そのあとなにか分かったことはあるか?」
ああ、そういえば彼から『変化の指輪』を預かっていたな。
……変化!
「まさか、コロシアムの死体は……」
「メリオールの変化装備は指輪のほかに剣、盾、鎧、兜があるはずだ。
そのどれかを使い、被害者になりすましている者が王都に潜んでいる。
その可能性を考慮して我々は調査を進めている」
「その証拠は、なにかみつかってますか?」
「今のところ状況による憶測でしかないが、なにかあってからでは遅いのでな」
彼はそう言うが、オレはそれが事実であると確信していた。
さもなければ、首なし死体になったはず奴が食堂に飯を食いに来るはずない。
そしてそれは同時に、メリオールの変化アイテムに欠点があることを示す。
「それで、今まで誰か怪しい人物を目撃していないだろうか?」
「いえ、そういう人物は見かけていませんが……」
悩みどころだ。
オレは被害者の身元を知っている。それを話してもいいものか。
てか、ウィーラーを、読書会を信用していいのだろうか?
被害者は次に戦うことになる王子パーティーのメンバー。
そして今、変化の指輪を持っているのはオレだ。
これってオレが犯人と疑う奴も出てくるんじゃないか?
身の潔白はいくらでも証明できそうだが、権威の元にうやむやにされかねない。
そう考えると、もう教会のワナなのではないかとすら思えてくる。
しかし実際、犯人は何者なんだろうな。
遺体は心臓が一突きされ首が切られてはいたが、それ以外の外傷はなかった。
この世界の住人が不意打ちでも戦闘系の転生者を1、2撃で殺傷できるか。
それは不意打ちでもトラを人間が一刀で倒せるか、という問いに等しい。
そんなことができそうなのは転生者か魔物といったところだろうか。
それにしても、魔物か。
確かに魔の気配を持つ者は王都の仕組みで容易に検知できる。
だが、メリオールの変化アイテムで化けた場合はどうなるんだろうな。
……疑っていても仕方がないか。
とりあえず、この指輪の最後の持ち主のことは知るべきだろう。
ひょっとしたら今回の犯人につながるかもしれない。
そう思い、視点を少しそらしてみる。
「ひとつ、変化の指輪について聞きたいことがあるのですが、いいですか?」
「ああ、答えられる範囲なら」
「この変化の指輪を付けていたのは、ひょっとして魔物でしょうか?」
「……どうしてそう思う?」
「犯行は見ていないのですが、実は現場にはこれが落ちていたのです」
と、魔物の爪らしきものを見せる。
ちなみに、落ちていたという話はウソというか鎌掛け。
さっきガラクタ整理中に見つけて、カッコいいから分けていたものだ。
……けしてちょろまかすつもりはない。
「君は! なぜそれを提出しなかった!?」
ウィーラーが驚愕の表情を露わにする。
が、それは動揺した感じではなく、ただ驚いているように見えた。
「いや、犯人がどこにまぎれているか分からなかったので。
あなただから信用して、見せました」
「まったく、お前という奴は……。
ああいや済まない、どうしても私の知り合いと混同してしまう」
もちろん、ここにいるウィーラーは誰かが変化したモノであるかもしれない。
だけど、それは薄いと思っていた。
その理由は人物鑑定結果にある。
といって別に化けた奴に『○○の偽物』みたいな鑑定結果が出るわけじゃない。
偽者の鑑定したところ、むしろ表示に名前しかでていなかったのだ。
前に本物を鑑定したときはステータスくらいは出ていた。
おそらく、変化アイテムによって阻害されているためだろう。
ウィーラーの鑑定結果にそういう問題は見当たらなかった。
それにだ。
あのアイテムは、おそらくいつでも化けられるわけではない。
そういう特徴というか欠点を持っていると思われる。
例えば『本人が生きていてはいけない』とか。
おそらく、そんなレベルの制約があるに違いない。
だってそうだろ?
いつでも化けれるのなら、ことを起こす直前に化けたほうがバレにくいはず。
そして事が終わったらバレる前に変化を解いて、なに食わぬ顔で離れればいい。
転生者に関する諜報目的だったとしても、ならもっと適した人物がいるはず。
たとえば学園の教師とか学園長とか。
そのほか、長期工作、隠れミノとしても、転生者は明らかに適さないのだ。
ウィーラーは語り始める。
「今から数日前、とある男が取り押さえられた。
その際に戦闘の末、衛兵が彼の片腕を切り落としたそうだ。
するとそいつはたちまち魔物に変化したという」
「その切り捨てられた腕の指に変化の指輪がはまっていたと」
「その通り。このことは秘密にしてもらいたい。
もし今明るみに出れば王都が、いや世界中がパニックに陥ることになる」
事情はわかる。うなずくしかない。
しかしまさかホントに魔物とは。
爪を見せたのは、別に犯人像に確信があったからではなく。
とりあえず指輪の持ち主が人か魔物か、状況の切り分けをしたかったからだ。
しかし、もし指輪の持ち主と今回の犯人に関係があるなら、問題は1つある。
魔物がコロシアムに現れたなら、王都の仕組みに検知されるはず。
それが無いのなら、転生者を殺したのは人か、人に化けた何かということ。
つまり、あの偽転生者がやったわけではないということだ。
偽転生者以外に少なくともさらに一人、化けている奴がいる。
あるいは今回の件に人間の協力者がいるという線もありえるだろう。
そしてそれはある深刻な事態を意味する。
転生者に匹敵する実力の何かと、転生者に成り代われる実力の何か。
それが最低二つも敵陣営に存在するということだ。
しかし、目的はなんだろう。
転生者に化けて意味のあること……。
侵略目的……という線は薄そうだ。
転生者が1、2人いたってどうにかなるもんじゃない。
化けるなら門番とかになって大群を王都内に引き込むほうが簡単だし現実的だ。
前線から部隊をひっぱって来れるなら、の話だけど。
どうあれ、変化アイテムを対策される前に事を起こすほうが成功率も高いはず。
そう考えると、Xデーはそんなに遠くないかもしれない。
近日中にある、なにか大きな事を起こす隙。
それも転生者に化けることに意味のあるなにか。
……御前試合か。
たしかに会場に混乱を起こし、乗じることができれば都合がいい。
とすると……国王暗殺?
いや、この国の王は、暗君ではないが名君でもない、凡庸。
やるなら中枢の官僚、そして跡継ぎを片っ端から抹殺するくらいでないと……。
だが勇者などを前に、一人ならともかく一度に複数の要人殺害を企てるか?
だとすると……。
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