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本戦準備⑥ 奥の手、攻略Wiki

すみません、抜けていた説明があったので、前話の内容が少し変わっています。

謎解きメインの話ではないので(笑) それほど問題はないと思いますが、

昨日の昼前に読まれた方で気になる方は、前話を読み直してもらえればと思います。

 近日中にある、なにか大きなことを起こす隙。

 それも転生者に化けることに意味のあるなにか。

 ……御前試合か。


 だとすると。


「誘拐? 国王か王妃の……」


「! 君はあの事件を知っているのか!?」


 思わず口から漏れた憶測に、ウィーラーが予想外の反応を示して驚いてしまう。


「いや、状況からその可能性が高いと思っただけですが……。

 その事件ということに関してはなにも……」


「……そうだな、話しておこう。

 魔物がとある人物に化けて起こした事件。

 それが王妃誘拐だった」


 マジか!

 そんな事件が発生していたとは……ん?

 ひょっとして、


「その、『とある人物』って枢機卿のうちの一人では?」


 レンが前に遅れてきたときに話していたことがずっと気になっていた。


「君には、そこまでわかってしまうのか……」


「ああ、いえ。

 1週間前に病気で世間に姿を見せなくなったって辺りが怪しいなって。

 その程度の話なのですが」


 それに、要人誘拐にはその周辺にいそうな地位の高い人物が最適だろう。

 だが、それは失敗に終わった。

 それでも諦めていないとしたら……。


「ひょっとして、御前試合の表彰式には王や王妃が直接勲章なんかを渡す。

 そんな段取りになっているとか?」


「我々はそのタイミングに誘拐が実行される可能性が高いと思っている。

 これも口外しないように」


 黙ってうなずく。

 なるほど、やはりそういう段取りか。


 まあ正直、オレが気にすることじゃないんだろう。

 けどもし、王妃が誘拐されたらリタは悲しむんだろうな……。


「あの、この件に関して相談したいことがあるんですが……」


 あるいは王妃誘拐未遂と今回の首無しの死体はつながりがないかもしれない。

 だけど、そんなこと関係ない。

 リタが悲しむかもしれないと思ったら、動かずにはいられなかった。






 オレは『鑑定眼』のほかにもう一つ、スキルを持っている。

 それは『攻略Wiki』と名づけられていた。

 

 もちろん、この世界には「Wiki」などという単語は存在しない。

 これは鑑定眼が魂の影響を強く受けて派生変異したもの。

 オレだけのユニークスキルだ。


 その力は、世界樹から知りたいことを直接取得できる。

 それを鑑定眼と同じようにゲームのような表示で閲覧できるのだ。

 さらにゲーム攻略Wikiのように関連情報までわかる。


 例えばある男を鑑定眼で視て、彼が「戦士」だとわかったとして。

 鑑定眼では「戦士」がどういうものなのかは自分で調べるしかない。

 だがWikiではリンクを辿るようにその情報を取得できるわけだ。


 しかもその情報の中には、Wiki定番のQ&Aもはいっている。

 例えば「戦士の力を強化するにはどうしたらいいか」など。

 まさにいたれりつくせりのスキルである。



 ただ、攻略Wikiも万能ではない。


 レアリティランクの高い事項に情報の欠落が発生するのは鑑定眼と同じ。

 また自分の知識にない単語や概念は伏せ字で表示されてしまう。


 つまり例えばランクが高い魔王の情報は現時点では伏せ字で見れない。

 それは、鑑定眼の力を上げることにより情報の取得が可能になる。

 だけどオレの知らないこの世界独特の固有名詞はやはり伏せ字でわからない。


 実際、今回の事件に関してもほとんどろくな情報は載っていない。

 そもそもメリオールの変化アイテム自体のレベルが高くてどうにもならない。


 記載を増やすためには物を視る目を養い、また多くのことを知らないとダメ。

 そういうことだ。



 そんな強力なユニークスキル『攻略Wiki』。

 だがオレは最初の頃に試しただけで、現在このスキルを実質封印していた。


 体験することなく、世界を攻略できてしまう。

 その能力がひどくつまらないもののように感じたからだ。


 自分はTVゲームでも初見プレイを楽しむタイプだったわけで。


 だから今回の御前試合に関しても、このスキルを使う気はなかった。

 てか、なくてもなんとかできるつもりでいたんだ。




 でも、リタの母親が御前試合でさらわれる可能性があると聞いた。

 それも転生者を瞬殺できる存在によって。


 しかもウィーラーによると、午前試合の中止はされないようだ。

 教会は『あくまで可能性にすぎない』といい、警護の手すら貸さないと。


 つまり、転生者抜きで王妃を守らないといけないということだ。

 正直、任せておくには心許ない。


 オレも手を貸したいと思うが、どこまでできるか怪しい。

 それに、御前試合も疎かにするわけにはいかない。


 あきらかに自分の手にあまる事態だ。

 もう、初見プレイがどうのと言ってる場合じゃない。

 もはや手段を選んではいられない。



 とりあえず王妃誘拐のこと、そして王妃を守ることをレンと悠里に話してみる。

 レンに頭をなでられた。


「なるほど、じゃあわたしがその誘拐犯をぶん殴ればいいってこと?」


 悠里の答えはいつだって、シンプルだ。


「いや、二人は本戦に集中してくれ。

 ただ状況によっては、オレが抜けることになるかもしれない。

 その時は二人ともよろしく頼む」


「わかったわ。でも……本当にわたしたちにできること、ないのかしら?」


「そうだな……。

 とりあえずレン姉さんはその場の判断で補佐してもらえれば助かるよ。

 悠里は――」


「わたし!? できることがあれば、なんでもするよ!」




「……で、わたしはなんで薪割りなんてやってるのかな?

 御前試合にも、王妃護衛にも関係なさすぎだと思うんだけど」


 悠里には、王都のはずれで薪割りの仕事をやってもらうことにした。

 薪は王都内でも庶民の主要なエネルギー源。

 森林部から運ばれてきた原木を加工する仕事はいくらでもある。


 てか、斧をこちらに向けるのはやめてほしい。


「まあ、聞けよ。

 お前には御前試合までに少しでも強くなってもらう必要がある」


「ふむふむ、それで?」


「そして薪割りというと、ボクサーのトレーニングの定番中の定番だ。

 体幹っていうのか? 構えが安定してくるんだ。

 ほら、予選でも最初の一撃で吹っ飛ばされていただろ?

 ああいうのが防げるようになる」


「それ、ホント!?」


「ああ。

 確かに戦闘経験も大切だが、こういう基礎的なトレーニングも重要なはず。

 だろ?」


「そう! わかった! がんばるよ!」


 オレが思っていたよりだいぶ行き詰まりを感じて悩んでいたのかもしれない。 

 悠里は嬉々として薪割りに取り組み始める。



 とりあえず悠里残してその場を離れる。

 その先にいたレンが近づいてきた。


「くすくす。二人とも、ホントに仲良しさんね」


 レンは、まるで公園デビューをした我が子を見るかのような笑みを浮かべてる。


「そうかなあ?

 確かに、いきなり横から跳び蹴りを食らうことは少なくなったけど」


「くすくす、あれも友情表現の一つだと思うけど。

 それにしても……さっき言っていたのは本当なの?

 なにかごまかしているような感じがしたけど」


 聞いてたんだ。

 ……正直、ホントかどうかオレにもわからない。

 たまたま漫画でそういうのを見かけた受け売りだ。


 もっとも、別にイタズラに彼女に薪割りをさせているわけじゃない。


 これは『攻略Wiki』によって導き出された現時点でのベターな修行の1つ。



「うーん、姉さんにはわかっちゃったか。

 つまりさ、薪割りは加護の強化のためなんだよ」


「!? 本当にそんなことできるの!?」


 姉さんは驚愕の表情を見せる。


 まあ、そうだろう。

 それが可能なことは、この世界の誰にも知られていない事実。

 その知識を得られたのは『攻略Wiki』のおかげだ。


 もちろん悠里の場合、それで戦士の能力が高まるわけじゃない。

 単に人としての基礎能力が強化されるだけにとどまる。

 それでも、某RPG風に言えばLv10の戦士はLv40の遊び人に負ける。

 つまりそういうことだ。



「そんなスゴいことができるのなら、素直に教えてあげればいいじゃないの?

 どうしてごまかすのかしら?」


「加護は、その内容にふさわしい行動をすることによって高まっていくんだ。

 例えば戦士なら戦士らしく、魔術師なら魔術師らしくね」


 そして、この世界では薪割りは農夫らしい行動ということにされているのだ。

 また、それ以前に「斧を使う」という行為自体にも意味がある。


「ということは、農民の加護を受ける彼女は……」


「そういうこと。

 姉さんは悠里に言える?

 『強くなるためには農民らしく振る舞いなさい』とか『畑を耕しなさい』とか」


「そうね……。

 あの子、本当は戦士関連の加護を得られなかったことを悔やんでいるものね。

 口では強がっているけど……」


 ただ、その修行は漫然とできる範囲のことをしていてもダメだ。

 常に自分の限界へ挑む意気込みで行わないと強化も遅くなる。

 その点、悠里に関しては心配いらないと思うけど。



「ところで、それってわたしも雑貨屋を運営していれば強化されるのかしら?

 商人の加護が」


「ああ、そうだよ。

 ただ、レン姉さんは現時点で加護がかなり強化されているからね。

 それだけでは効果が薄いと思う。

 その点ではオレも同じような感じだよ」


「わたしたちは地道に鍛えていくしかないってことね……」



 それにオレにはもう一つ、やらないといけない重要なことが別にある。


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