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御前試合予選④ 中也がいちゃもんをつけてきたが知るか

 まるで優勝者が決まったかのような大歓声だ。


 オレがなんとか着地すると、悠里とレンの2人が着地点に駆け寄ってくる。


 なにか言葉をかける――

 その前に悠里の跳び蹴りが入った。彼女の顔は満面の笑みである。


「なによ、アンタ!!!

 あんなのがあるんだったら、初っ端に使えば楽勝だったじゃないの!!」


「成功するか分からなかったんだよ。

 ホント、勝てたのはたまたまと言っていい。

 大体それを言うならお前が――」


「分かってる。

 次はわたしらしくいくよ。

 ……まあ、そういうのを期待されているみたいだし」


「いや、別にオレは『想定』しているだけで『期待』しているわけじゃ……」


 ふと顔をそむけると、その先には泣きながらこちらを見ているリタが。


「お、おい、大丈夫か? どこかぶつけた?」


「そ、そうじゃない、ん、わたし、わた、ありが――」


 もう泣きながらしゃべっていてぐちゃぐちゃである。


 レンのほうはなにかまぶしいものを見るような淡い笑みを浮かべていた。


「ごくろうさま、シュウくん。がんばったね」


「なに言ってるんだよ。

 これはみんながそれぞれ役割を果たした結果だろ?

 オレ1人じゃあ、どうにもなってなかったよ」


「そうね。でも、お姉さんとしてはがんばった弟をほめてあげたいのよ」


「そんなもんかい?」


「そういうものよ」




 試合終了の挨拶のために、全員が中央に集められる。

 だが、


「ふざけるな!!!!!」


 呆然としていた中也が我に返ったのか突如大声で叫び、オレの胸ぐらをつかむ。


「こんな、こんなの! 普通に戦えば負けるはずねーんだ!

 ズルばっかりしやがって!!! こんなの認めねー!!」


「どうしてだ? ルールにはなに1つ違反してないはずだが?」


「お前! ぜんぜん戦ってねーだろ!! ふざけたこと言うなよ!」


「だからどうした?

 つまり、お前は非戦闘職の二人に負けるほど弱かったって話じゃないのか?

 てか実戦で敵が卑怯なことをしたら、お前は戦い直しを要求するのかよ?」


「……クソ!!」


 納得したんじゃないだろうが、少なくとも口で言い返せないと分かったらしい。

 胸ぐらから手を離すと挨拶をする位置まで下がる。


「フン! 魔王討伐にも参加できない落ちこぼれが」


 そんな捨て台詞を残す。


「お前らが全員、魔王軍に倒されれば自然とこちらの番に回ってくるさ。

 オレに負けてるようじゃあ、そんなに遠い日じゃなさそうだな」


 中也はもう、なにも言い返してこなかった。


 挨拶のあと、連中は重い足取りで出入り口のほうに去っていく。

 信じられない、とか、俺たちの努力はなんだったんだ、とかつぶやきながら。


 ただ努力すればいいってもんじゃないだろなど、ツッコんでみようかと思った。

 だけど、彼ら以上に努力していた悠里は、ただ黙って連中の背中を見ている。

 ならオレがなにかを言うのは無粋だろう。




 それから試合が一通り終了し、予選の閉会式が行われる。

 勇者はいつのまにか帰っていた。

 あの野郎、試合だけ見に来たのか?


 レンは疲れがたまっているのかすっかり眠っており、悠里におんぶされていた。

 オレも帰って寝たい。


 閉会式では貴族の口上が終わったあと、10日後の試合の内容が告げられる。

 本戦は、予選を通過した6組とシード2組のパーティーでの勝ち抜き戦。

 事前に聞いていたとおりだ。

 だが、そのトーナメント表を見ておどろく。


 オレたちは初戦から王子パーティーと当たることになっていた。


 これはかなり都合がいい。

 ほかの連中との戦いで手の内がバレ、さらに疲れた状態で対決、はキツい。

 てか、本命の前に勇者パーティーと当たればそこで即詰みだ。

 なので、それらが避けられたのは幸いと言えるだろう。


 みんなを見るが、レンは悠里の背で気持ちよさそうに寝ている。

 悠里は今日のことで腹が据わったのだろうか、特に動揺も気負いも感じない。

 リタは、ホントに分かってるのか? と心配になるくらいニコニコしてた。




 閉会式が終わったあと。

 レンも寝ていることだし祝賀会は後日にして、今日は帰ることになった。

 その際レンは悠里が送り、オレはリタを送ることになる。


 フィールドから控え室へといたる廊下の途中。

 リタは、コロシアムの一番高いところからまわりを見たい、とお願いをしてきた。

 自分も特に帰ってなにかをするわけでもないし、快く応じる。




「うわあ、外から見るより、ずいぶんと高いですね!」


 コロシアムの観客席の一番うしろ。

 そこから周囲を見渡してリタは感嘆の声を挙げた。

 オレは、ちょっと怖くて端まで寄ることができない。


「リタはコロシアムに入ったことないの?」


「はい、コロシアムは外から眺めているだけでした」


 リタはくるりと振り返ってオレを見る。


「今日はコロシアムに入って、パーティー戦に参加して、勇者さまと空を飛んで。

 初めての体験ばかりでした」


「ああ、オレも今日は初めてのことばかりだったよ」


 でも、今日はうまくやれたかな?

 だけど、いろいろ課題の見えた試合だった。

 帰ったら本戦への対策に盛り込むか。


 そんなことを考えていると、リタがオレのところにまで戻ってきた。

 そして一言、


「ありがとうございます!」


 なぜかオレに礼を言った。


「おいおい。

 昼にも言ったとおり、オレたちはそれぞれの役割を果たしただけだぜ?

 それに第一、礼にはまだ大分早すぎるんじゃないか?

 まずはリタの兄貴に一泡吹かせてやって、それから――」


「いえ、そうじゃないんです。

 その、うまくは言えないのですが……」


 運に寄るところも大きかったとはいえ、パーティーを勝利に導いた。

 それ以外に感謝される要素なんてあるんだろうか?


「そのっ、試合でお空を飛んでいるときに思ったんです。

 この世界に来てくれてありがとう!

 わたしの前に現れてくれて、本当にありがとう、って!」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。

 そもそもオレは教会に召喚されたわけで、自分でここに来たんじゃないぜ?」


「はい。だから、どう言ったらいいのか分からないのですけど……」


 オレも彼女が何に、誰に感謝しているのかはよく分からない。


 でも、まあ、そうだな。

 いつかこの世界を去ることになったとして。

 そのときにもリタにそう言ってもらえるようにがんばろう。




 コロシアム出口へ通じる廊下を歩きながら、いまさらなことを口にしてみる。


「ところでさ、前にも話したと思うんだけど、オレは勇者じゃない。

 勇者っていうのは――」


「はい、それは聞いています。

 でもやはり、わたしにとっての勇者さまは勇者さましか……ダメでしょうか?」


「……いや、まあ、パーティーメンバー以外の耳に入らないなら」


 オレがそう言うと、リタはただニッコリと笑う。


 照れを隠すようにオレは顔をそむけた。

 廊下の左の分かれ道先に人の足が落ちているのがちらりと見える。


 ……足?




 オレは今まで、無意識のうちに勘違いをしていた。

 RPG的なファンタジーオブジェクトが満載なこの世界。

 ここがゲームの延長上にあると。

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