御前試合予選③ とっておきを使った甲斐があった。リタが喜んでくれたようでなにより
回転の指輪の使用回数は残り7回。
それを使い切って、敵リーダーに接近してタッチを決めるか。
だが指輪を使った移動は、今のところ途中で方向転換できないという欠点が。
そうなると、到達する前に逃げられてしまうかもしれない。
魔法使いのさなえ嬢の妨害もあるだろうし。
やはり初志貫徹、リタの元へいち早く戻るべきか。
目潰しの太陽の指輪は、全力の光で1分持つかどうか。
回転の指輪もリタのところに戻るのに6回使えば、残りあと1回。
足止めのために相手を転倒させるには使用回数が微妙である。
少し心許ない。
いや、一か八かアレをやってみるか。
成功すれば確実に時間が稼げると思うが、成功確率は高いとはいえない。
……よし、決めた。
やはり最初の予定通り、敵リーダーはレンに任せよう。
やがて視界に色が戻り始め、タイムストップの指輪の効力が切れた。
同時にオレはその場から離れる。
中也に攻撃を食らえば即リタイアだ。
だが彼はオレを見向きもしない。
いや、こっちのほうを見ることはできなかった。
その視線の先にあるのは悠里の姿。
彼女に持たせた『魅惑のネックレス』の効果である。
中也は悠里から目を離せなくなっていた。
前にネックレスを手に入れてからあと。
オレは鑑定眼を鍛え、情報を収集し、結果その鑑定が大幅に進んだ。
『装備者に見つめられると、装備者から目を離すのを不快に感じるようになる。
その度合いは、装備者にどれだけ意識を向けられるかによる』
それがネックレスの効果だったのである。色気のないオチだ。
この状態ではオレへの接近はおろか、頭の向きにさえ制約がかかることだろう。
悠里が防御に徹すればどうとでもしのげるはずだ。
ちなみに効果の強さは、そこそこ気合いを入れれば抗えるくらいの強制力。
だが今は『自分がやらなくてもほかの2人に任せておけばいい』という状況。
なら、なにがなんでも抗おうとは思わないはず。
オレは中也を悠里に任せ、例の高速移動でリタの元まで駆けつける。
「リタ!」
右拳を前に突き出すと、彼女はその意図を察してぎゅっと目をつぶった。
オレはリタのそばで待機し、サイドの2人をある程度引きつける。
そしてオレも目をつぶると、拳を再び前方に突き出した。
太陽の指輪。その力を全力で解き放つ。
指輪から放たれる直視困難な光。
それは、近づいてきた2人の視覚をたやすく奪う。
オレは懐からサングラス代わりの色眼鏡を取り出し、装着して目を開く。
あたりを見回すと、発光をモロに見てしまっただろう2人は歩みを止めていた。
右側の牧が盾を手放し、目を押さえながらめちゃくちゃに木刀を振り回す。
やがて勢い余ってバランスを崩し、倒れた。
左の木元は光を直視しないよう前方に木盾を構え、その体制からにじりよる。
だが隙だらけだ。オレのほうから近寄って軽く足払いし横転させてやった。
2人ともしばらくはロクな動きもできないだろう。
敵陣のほうを見ると、悠里は中也をうまく押さえている。
レンは魔法使いのさなえ嬢と交戦中。
敵リーダーは彼女から隠れるようにさなえのうしろ約5mのところを右往左往。
魔法使いはうしろのリーダーを気にしてうまく立ち回れていない。
いや、そう追い込んでいるレンがうまいというべきか。やはり戦い慣れてる。
それでも一進一退といったところだ。
一見形勢が逆転したように見える。
だが時間切れで指輪の光が消えれば、形勢はまた不利に戻ってしまう。
その残り時間からして……レンは間に合わないかもしれないな。
いよいよ指輪の光が途切れた瞬間、オレはリタをうしろから抱きしめた。
……うーん、あいかわらずいい香りがする。
「え? え?」
この状況にリタが思わず目を開き、真後ろのオレのほうに顔を向ける。
「動かないで、大丈夫だから」
説明している余裕はない。
だけど彼女はオレのその一言でうなずき、穏やかな笑顔で正面を見すえる。
オレは具現の指輪に意識を集中した。
細長い葉っぱのような形の、全長2m近くの魔法物質。
それがオレたちの前後に1枚ずつ展開される。
そのうち前方の魔法物質がさらに2枚に分裂。左右からリタとオレを包む。
具現の指輪も鑑定が進み、ゆっくりだけど発生後の移動変形を可能としていた。
すでに指輪の光は消えており、木元と牧の視界も回復し始めている。
だがその得体のしれない状況が、迫ってくる2人の足を止めた。
好都合だ。
魔法物質はビニールに近い性質のもの。
打撃はともかく、切ったり突いたりしたら途端に引き裂かれてしまう。
ハッキリ言ってハッタリ半分。
2人はこちらに動きがないことを見てやがて少しずつ近寄り始めた。
もっとも、オレの策もこれで終わりじゃない。
そのタイミングを狙ってオレは回転の指輪の効力、最後の1回を使う。
自分の足下の地面に対して全力で。
オレたちはほぼ真上に向かってとてつもないスピードで跳ね上がる。
このときの衝撃を魔法物質で吸収できるかが第一関門であるが、無事にクリア。
数秒後には5階建てビルくらいの高さまで上昇した。
正直今、真下を見て確認する勇気はない。
だがとりあえずピンチは脱した。
とはいえオレたちは浮かんでいるわけではない。
数秒後には落下し、待ち受けている敵の餌食になるだろう。
このままでは大した時間稼ぎにもならない。
しかしオレの策はここからが本番である。
頂上付近で、後方の葉っぱ形状の魔法物質はさらに分裂・変形した。
『翼』
試合を観戦している多くの観客にそう見えただろう。
1対の巨大なそれがオレの背後に形成された。
もちろん、これで羽ばたいて空が飛べるとかそんな都合のいいものではない。
だが、グライダーの要領で滞空時間を伸ばすのは可能。
おあつらえ向きにコロシアム上空には微風が吹いている。
オレたちは風に乗り、旋回しながらゆっくりと滑空していく。
正直このあたりを実現するのが第2関門で、かなり試行錯誤を繰り返した。
てか、いまだに成功率は50%だ。
まさに賭けだった。
「ゆ、ゆ、勇者さまああ! 空を、空を!!!」
リタが珍しく大きな叫びを上げている。
ちなみにオレたちを包んでいる魔法物質が風をさえぎり、普通に会話もできる。
「ああ、みんなこっちを注目しているなあ」
ほっと一息つく。
オレは改めてフィールドを見渡した。
下の2人があぜんとしてこちらを見ている。
バカだなあ。
2人が急いでリーダーのところに戻れば形勢はまだ分からないのに。
レンのほうを見てみると、対峙しているさなえを昏倒させていた。
さらにリーダーに迫るが彼はぼうとこちらを見るばかりで逃げる気配もない。
程なく、姉さんがタッチして勝利をアピール。
少しの間を置いて。
それまで呆然とした雰囲気に包まれていた会場全体が、震えた。
不意に特別席にいる人物が目についた。
ゾクリとするものを感じ、思わずそいつを凝視してしまう。
――勇者。
遠方で表情までは分からない。
だが、奴が憎しみのこもった視線で睨んでいるのはなぜか分かった――。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます!
もし、
・面白かった!
・続きが気になる!
・更新がんばって!
・応援するよ!
と思われた方
よろしければ
広告の下にある☆☆☆☆☆から評価をいただければ大変うれしいです。
すごく面白かったなら☆5、あまり面白くなさげでしたら☆1と、
感じたままでかまいません。
また、ブックマークいただければ作者の励みになりますので、よろしくお願いいたします!




