幕間③ 勇者壮五、とりみだす その2
※神宮壮五視点
クッソ!
あれから何回訓練やればクリア出来るんだ!?
クソ共があまりにも足手まといすぎて、未だに攻略が完了していない。
だがどうにか少しずつ探索範囲を広げ、ようやく最奥近くまでたどりついた。
へへへ、やったぜ。
マップを見る限りあれが最後の扉だ。
うらあ! 俺が一番乗りだ! トップは誰にもわたさ――。
すっと自分が宙に浮かぶような感覚に襲われる。
扉へ向けて駆け出したはずが、気づくと、俺は地面に横たわっていた。
「クソぉぉ!!! 聞いてねーぞ!!
なんであんな場所に落とし穴のワナが!!」
ああそういやあ、いつもは盗賊の加護を受けた奴がチェックしてたな。
クソっ、とっととスキルを使いやがれよ、ウスノロが。
俺には暗視スキルがあるが、それでも天井が見えねえ。
だいぶ落とされたか。
とにかく立ちあがろうとする。
が、身体がうごかねえ。
それどころか身体に突然、針をさしたような痛みが走り、それが強まる。
あの時と同じだ。確か元の世界でトラック事――。
「があああああぁぁぁぁああああぁぁああぁぁあああ!!!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!
「ぐぎゃあぁあああぁぁあぁっぁぁぁっっぁっっぁっっぁあああああ!!!」
がががあぁぁぁああああぁぁあああああぁあっ、ああああああぁあぁぁあぁ!!
「がはぁああああっぁぁぁぁあぁぁ!!!ゲホッゲホッ」
い、いでえっつ、クソッ、クソックソッ……。
ちらりと、目の端に、ほかの、メンバー、が、入る。
……バカな! 全員、無事じゃ、ねえか!
ケガしたの、俺だけ、かよ。
「あがぁぁあ――ちくしょう!」
「なんでっ、この俺が、クソみたいなぁ!!
これも、全部クズ鑑定士の、がはぁ!!!」
痛みは相変わらずヒドいが、我慢できないほどではなくなってきた。
苦しんでいる間に、クズ共の会話も耳に入ってくる。
どうやら俺以外は、寄生虫野郎の入れ知恵で無事だったようだ。
『具現の指輪』だと? そんなの聞いたこともない。
俺は転生者全員がもつガッツスキルによって即死を免れた。
そのスキルは死ぬようなダメージを喰らってもギリギリで助かる。
ふん、そんな寄生虫臭い指輪に頼らなくても問題ねーんだよ。
だがそのスキルは発動すると教会で治療しないと再発動はムリだ。
それまでは通常の回復もほとんど効果がない状態になっちまう。
つまり今から強いダメージを1回でも受ければ、今度こそ俺は死ぬってことだ。
……許されねえ。
なんでこんなところでっ勇者の俺がなんで死にかけてるんだよ!!!?
死なねえぞ!
せっかく生き返ったのに!
勇者に転生したのに!!
あの寄生虫野郎に思い知らせるっていうのに!!!
まだ痛みは残るが立ちあがり、まわりを見渡す。
クズ共はなにか話し合いをしているようだ。
だからてめーらはダメなんだよ!
「もたもたするな! 俺が敵に襲われたらどうするつもりだ! ウスノロ共!」
イラっとしてつい本来のしゃべり方になってしまったが気にしてられねえ。
「あ、でも撤退戦の準備と戦列を――」
俺はクズ共に発破をかけるとゴミの泣き言を無視、一つだけあった通路に入る。
ホント、こいつらは俺がいねえとなんにもできねーな。
落ちた先はマップに載ってないが、通路は枝分かれのない一本道だった。
だが敵が現れた場合は避けることができず、戦うしかねえ。
まあ、幸運な俺なら問題ないだろうがな。
クソ、攻撃を喰らっちまった!
さすが俺でも疲れがたまっているのか、攻撃がちっとも当たりやがらねえ。
ていうか、なんでこんなところに敵がいるんだよ、クソが!
「壮五さん! 危ないから後列に下がってくださ――」
「うるせぇ!!!!!
俺は勇者だぞ! うしろになんか下がれるか!!
危ねーと思うのなら、お前らが俺を守れ!」
死にたくねえ。
だが、このままこのクズ共に守られてばかりなのはゴメンだ!
……なんだかクラクラしてきた。
俺のこの鎧を着ている限り、ここの敵の攻撃なんてほとんど効かないはず。
分かってはいるが、なにかがたまっている気がする……。
さすがに後退するか?
うしろを見ると、悠里のクソガキがいっちょ前に回復薬を飲もうとしている。
それもレンさんが生成した特別製。
そうだ! 回復だ!
「うらあ! 回復薬よこしやがれ!!!!」
「あぁ! 今の壮五君には回復薬は――」
レンさん、すまねえ。
だが、俺が生き残ることが世界平和につながるんだ。
俺は手にした回復薬を一気に飲み干した。
……なにか蓄積したモノが晴れていっているような気がする。
ハハ、回復が効かなくなる、なんてウソじゃねーか!
見ると悠里のクソガキがこちらを冷めたような目で見ていやがる。
「なんだよ、その目は!
おめえが飲んだってしょうがねーだろ!?」
クソが。
大体、てめーらがクズグズしてるから俺があんなワナに引っかかったんだ!
こんな時ぐらい役に立ちやがれっていうの。
なんとかダンジョンの外へ出ることに成功した。
だがそうだな、緊急事態とはいえ必死になりすぎてつい地が出すぎてしまった。
普段の俺を見慣れている連中に取っては刺激が強すぎただろう。
部下がクズ野郎でも、だまして幻想を見せてやるのが上に立つ者の度量だぜ。
「その……。
今日はすまない!
みんなを守りたくて、つい、その、我を忘れてしまって……」
「! お、俺こそ、足をひっぱって申し訳なかったです」
「ひ、瀕死になっても懸命に戦おうとする勇者の姿、拝見させて頂きました!」
「あの、わ、ワイルドな壮五様、カッコよかったです!」
へへへ、チョロいぜ。
とにかく今日は、最後の扉の前まで到達できたんだ。
次に訓練の課題をこなせば、名誉挽回。
すべては元通りだ!
夕食のために寮の食堂へ入る。
食堂は混雑していて相変わらず騒がしいが、こういうのは嫌いじゃねえ。
俺のためにいつも空けられている席に座った。
普段なら俺を賛美するような会話の一つや二つは耳に入ってくるところだ。
だがまあ訓練があれじゃあ、今日は仕方がねえだろう。
どうあれ失敗は失敗だ。
それを受け入れられない俺じゃねえ。
もっと、クソ共をしっかり指導しないとな。
「普段偉そうにしていて、死にそうになったらあんなザマかよ」
「戦うだけでろくな指示もできない。ああいうのを脳筋って言うらしいぜ。
勇者にお似合いの称号じゃないか」
「失敗で悠里に八つ当たりとか、あれはないよな」
……なんだ?
今日はやけに俺のだけの悪口が目立ちやがる。
ていうか、クソガキに八つ当たりってなんだよ!
だがここは表情一つ変えずに黙ってスルー。それが鉄則だ。
こんなのに構うだけまわりの心証を悪くする。
とにかく、次の訓練をクリアする。
それでこんな根も葉もない悪口も収まるはずなんだ。
「今までは、あの鑑定士が作ったマップがあったからうまくいったって話らしい」
「まあ、確かに不真面目で役立たずだったけど追い出すってのはさすがになあ」
「追い出していなけりゃ今ごろ訓練も次のステップに進めていただろうに」
……ふざけるな!
そんなわけねーだろ!!
あの寄生虫野郎なんざお呼びじゃねーんだよ!
クソ! クソッ!!! クソッ!!!! クソォッ!!!!
俺はいつの間にか王都の外にある草原に立っていた。
クソッ! スルーするつもりでいたのに!
結局あの寄生虫野郎か!!
野郎はいつもいつもいつもいつも!!
なんで実力もねーのに俺の手にいれようとするものをかっさらっていくんだ!
クソゴミめ!!!
……そういえばあの寄生虫野郎、御前試合に出てくるんだったな。
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