御前試合③ 悠里、フルボッコ
オレが考えていた配慮なんて、悠里にできるわけもなかった。
いや、むしろここまでよく耐えたというべきか。
職員室内の教員もリタも青ざめた顔でうろたえるばかり。
悠里の怒気に気圧され動く者は誰もいない。
そんな中、王子の付き添いとレンがいち早く我に返り引き剥がそうとする。
だが、二人がかりでも悠里はものともしない。
仕方なくオレも参加してようやく彼女を引き剥がすことに成功した。
王子の顔はそりゃひどいモノで、ここで雄弁に語っていた男前が見る影もない。
こりゃあ、死んだか? 誰もが思っただろう。
そんなところを、しかし彼はよろめきながらも立ち上がる。
すかさず付き添いが側に寄り、回復呪文らしきものを掛け始めた。
万が一のため鑑定眼で王子を探るが、見た目ほどダメージはない。
どうやらアイテムか魔法かなにかしらの防御効果を受けていることが分かる。
しかし、それでこのありさまか……。まったく。
てかこいつ、この国の第二王子じゃねえか。
この学園に通っているのに、末の王子くらいかと思ってた。
ちなみに、レアリティランクは3だ。
いや、だからどうだということはないんだけど。
しかし、どうするかねえ。
やらかしたのは悠里だが、この流れだと連帯責任を取らされかねない。
オレはともかく、リタやレンにそれが及ぶのは……。
「ふ、ふふ、勇ましいことだ。
お前たち、こ、こんなことをしてくれて、どうなるか。
分かっているのだろうねぇ……」
やはり『お前たち』と来たか。
さて……どう弁明するかな。
とりあえず謝ってみるか。
「ええ、お気持ちは分かります。
申し訳ございません、こいつが無礼を働きまして」
「アンタはぁぁぁ!!!!」
オレの卑屈な態度に悠里の怒声が飛ぶが気にしない。
「しかし、処罰は待ってもらえませんでしょうか」
「はあ!? このわたしに手を挙げたのだぞ!
転生者とはいえ、何事もなく済ませられるか!」
すっかり回復した王子。
ボコられる前の余裕ある態度も見せずに怒気もあらわに言葉をぶつけてくる。
「いえいえだから、待ってほしい、と言っているのです。
報いを与えるならもっとふさわしい場所があります。御前試合という」
「ふざけるな! なんでわたしがわざわざそれまで待たねばならないのだ!!」
まあ、普通そう来るよな。さてどう切り返そう……。
「そうでしょう、そうでしょう……お怒りはごもっとも。
しかしながら殿下。
ここで安易に処罰なさいますと御身の名誉に傷がつくことになります」
「なにぃ? 傷だと?」
「はい、先ほど彼女は『闘いは身分ではなく、心でするものだ』と語りました。
ここで処罰してしまったら周りから後ろ指をさされることになりはしませんか?
『下々の者に反論もできず闘いから逃げた』、と」
「ぐ、ぬぬ。そんなの、ここにいる者の口を――」
「お封じになりますか? 中には教会から派遣された者もおりますが」
「そ、そこまでは言っていない! ただ、口にしないよう厳命すれば――」
「信用できますか?」
「……では、どうすればいいのだ?」
思ったよりも早く落ち着いたようで、こちらに答えを求めてくる。
鑑定眼で状態を視る限り、見せている態度ほど冷静さを失ってはいない。
これなら……。
「なにも特別なことはございません。
御前試合にて我々を打ち破り、ご自身の正当性を主張すれば良いのです。
また陛下や観衆の前で、御自らの手にて蹂躙なされば、気も晴れましょう」
「……ふむ。その言には捨ておけない魅力があるな。
しかし、お前たちがわたしに相まみえることなく敗退したらどうする?」
「そうなれば、単に彼女の言が戯れ言ということに他なりますまい。
あとはご随意に」
「……よし、そこまで言うのなら分かった! 処罰は保留としよう。
愚妹と関わったことを後悔させてやる」
そこへ、タイミングを見計らっていたのか、教師が書類を渡す。
てかそもそも、それを受け取るために王子は職員室へ来たんだろう。
王子たちは、渡されたものを受け取るとこちらを一目し職員室から出ていった。
オレたちは同じ教師にリタの御前試合棄権の相談を……できるはずもなく。
手早くパーティー申請し、早々に別の出口から職員室を出た。
「さすがシュウくんね。商人のわたしも顔負けの交渉だったわよ?」
「でも結局、御前試合に参加することになってしまった……」
「あの! すみません! こんなことになってしまって!」
「いや、リタが謝ることじゃないよ。悪いのは君の兄さんと、そこのアホだ」
「……わたし、間違ったことしてないから」
悠里に反省の色は見えない。
だがさすがに悪いとは思っているのか、言葉にいつもの勢いがない。
「こちらこそ、御前試合に参加することになってしまってゴメンなさいね。
リタちゃん」
「そんなことないです! レンさん。
むしろわたしの方こそ巻き込んでしまって……。それに……」
そう言ってリタは悠里の手を取った。
「ありがとうございます!
わたし、悠里さんが兄様に言い返してくれた時、とても嬉しかったんです!
……それでも、暴力はいけないと思いますが……」
「……ゴメン」
一番傷ついたはずのリタにそう言われたら、悠里も謝るしかなかった。
「それにしてもシュウくん、らしくなかったわね。
てっきり御前試合に参加しないよう話を持っていくと思っていたのに」
「……それは結果論だよ。レン姉さん」
確かに今にして思えばやり方はあったかもしれない。
例えば教会の権威を盾に取ってもよかっただろう。
王子のプライドなり自尊心なりに訴えかけるやり方もあったはずだ。
そのほうがもっと無難に済んだかもしれない。
だけど。
「まあ、でも、うん。あの時はちょっとね、ぶん殴ってやりたかったんだ」
やっぱり姉さんのいう通りか。
確かにあの時のオレは、らしくなかった。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます!
もし、
・面白かった!
・続きが気になる!
・更新がんばって!
・応援するよ!
と思われた方
よろしければ
広告の下にある☆☆☆☆☆から評価をいただければ大変うれしいです。
すごく面白かったなら☆5、あまり面白くなさげでしたら☆1と、
感じたままでかまいません。
また、ブックマークいただければ作者の励みになりますので、よろしくお願いいたします!
 




