御前試合② リタの兄貴ってことは、あれでも王子か
次の日の昼。
リタの御前試合棄権の相談をするためにオレたちは職員室へ向かう。
悠里は試合に出たかったようだが、思いのほか簡単に納得してくれた。
「すみません……」
「いいのいいの。ただ、力試しをしたかっただけなんだから。
ついでに、こいつをみんなの前で赤っ恥かかせてさ。
そうすれば、汚名挽回のためにがんばるようになるんじゃないかなって」
はい、ベタな誤用ありがとうございました!
「悠里さんはシュウくんが好きなのね」
「勘違いしないでください、レンさん。
わたしは、努力できる奴がそれをしないでバカにするのがイヤなだけです」
「いや、別にオレはバカにしてなんかいないぜ?
ただ、無駄な努力をしたくないだけだ。
したい奴は勝手にやっていて構わないさ」
「それがバカにしてるって言ってるの!」
「うんうん。やっぱり仲良しさんね」
「「どこが!」ですか!」
そうこうしているうちに職員室に着いた。
レンが先行して入り、リタ、オレ、悠里と続く。
昼飯で外出してるかもと心配したが、運良く担当教員は残っていたようだ。
レンはそいつの方へ迷わず歩を進める。
ん? 既に先客が二人いる。
彼らはどうやら教員がなにかを終わらせるのを待っているようだ。
その一人がこちらを見ると、なぜかこちらに近づいてくる。
「やあ、リタ。元気にしているか?」
「え、ええ。兄様こそ、ご機嫌麗しく……」
レンが気を遣って二人の間から退くと、リタがその人物にあいさつをする。
どうやら彼女の兄のようだが、彼女の態度がなにかぎこちないような。
……なら彼は王子ってことか。
なにか振る舞いが軽々しく、あまり敬いたくなるような感じがしない。
リタのことが気になって、前々からある程度王室のことを調べてはいた。
だが、たいしたことは分からなかった。
元々王室には二人の王妃がおり、兄弟はリタも含めて六人いる。
うち五人は第一王妃との間に生まれた子であり、彼女だけが第二王妃の子。
十年ほど前に第一王妃は病気で他界。現在、王妃は第二王妃だけ。
また第一王子に関して、王位継承が不安視されているわけでもない。
仮に問題があったとしても、間にはまだ四人の王子がいる。
ありがちな王位継承のいざこざにリタが巻き込まれているわけではなさげ。
こんな程度だ。
結局、コーデリアの指輪に通じる情報は得られていない。
ただ気になるのは、第二王妃が王妃になる前の記録が一切存在しないことだ。
その辺り人物鑑定すれば分かるかもしれないが、だいぶ気がひけている。
それこそ「知ったら命に関わる情報」がてんこ盛りの予感がしてならない。
てか、正直「第一王妃は病気で他界」という辺りも疑っている。
十年前というと、リタが冷遇された時期となんとなく一致しているし……。
「わたしの方の用件が少しかかりそうなのだ。しばらく待っていてもらおう」
「承知しました。兄様」
「そういえば……君も御前試合に出場するんだったな。
ああ、よく見ると共にいるのは有名人たちではないか。
彼らと試合に臨むのか?」
「ええと、どうでしょうか……。
その……そんなに有名なのですか?」
「ああ、なんでも魔王討伐に参加できる実力もなく、無駄に転生してきた者たち。
そう聞いているが。
こんな連中と組まざるを得ないとは……父上も中々酷なことをなさる」
なにかよほど手持ち無沙汰なのか、ベラベラと話し続けていて耳ざわりだ。
だけど言いかたは気に食わないが、リタに対して酷というのは同感ではある。
「父様がどうかなされたのですか?」
「いやなに、お前のようななんの素質もない妾の子を、大衆の前にさらす。
それも恥さらし共と一緒になんぞ、酷と言わずなんと言えばいいのか」
……妾の子!?
「君たちも、彼女を主人に据えるのはやめておいた方がいい。
こんな小娘――おっと失礼、ド素人の童と一緒に試合に参加することはない。
どのみち負けるにしても大けがをすることになるだろうさ。
今一度考え直したまえよ」
なんだこいつ? なんのためにこんな意味のないことさえずってやがるんだ?
大体オレたちは御前試合を棄権しに来たんだっての。
なにを勘違いしてやがる。
だけど。
ここで棄権したらこいつの言うことを真に受けた感じになりはしないか?
不愉快極まりない。パンチの一発も食らわせたくなる。
……もっともオレ、人を殴ったことないしなあ。
オレたち転生者は前の世界よりダメージに耐えられる体になっているようだ。
けど、ここの住人はどうだろう?
てか、王族なんて殴れば政府に目を付けられることになるんだろうなあ。
魔王討伐まではいきなり処刑ってことはないんだろうけど……。
いや、でもオレは戦闘できないからなあ。そんな考慮されるか?
なんてことを考えている間にも王子のくだらないイヤミは続いていた。
「――ましてお前たちでは、わたしの率いるパーティーに歯も立たないだろうよ。
出世したければ、もっと強いリーダーを探してその下につくがいい。
まあ落ちこぼれでは難しいだろうから、なんならこのわたしが慈悲を――」
言いかけて、突然顔を引きつらせながらこちらを凝視し、言葉を止める。
振り返ると、オレの頭上を越え王子へ飛び込もうとする悠里のつま先が見えた。
悠里はそのままリタをも飛び越し、彼の顔面に膝蹴りを入れる。
その勢いで王子をぶっ倒したあげく、倒れた奴のマウントを取りボコ殴り。
「ふざけるな! 妾がどうしたっていうんだ! 闘いは身分でするもんじゃない!
この体と心でやるもんなんだ!
なにもできないかどうかは、わたしたちと戦ってから言ってみなよ!」
……ですよね~。
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