御前試合① 御前試合というものがあるらしい
お礼に来た次の日から、リタは店に顔を出すようになった。
オレはオープン準備に手を動かしながら、彼女と雑談。
たまに手伝ってもくれる。
彼女が店前のイスに座っていると、子供が駆け寄ってきたりすることがある。
どうやら付近の住人とは以前から結構な顔見知りのようだ。
子供たちに付き合って遊んでいる様子を見ていると、とても王族とは思えない。
てか、なんていうか、尊い。
そうこうしていると悠里がすこし後からあらわれる。
彼女とリタは早くも打ち解け合い、親しげに話すようになっていた。
これまで同世代で親しげに話しかけられる友人がいなかったのだろう。
それが今はガールズトークに花を咲かせている。
やっぱり、尊い。
そして最後にレンが顔を出す。
彼女は最近、オレや悠里にやたら抱きつく。
だが、さすがにリタに対してはほとんどそういうことをしなかった。
レンが悠里とじゃれてるところをすこし寂しげに見てるリタの視線が、尊い。
そしてまれにレンがリタに抱きついたとき。
その照れくさそうな、うれしそうな表情や仕草が、尊い。
そんな感じで、ここ数日は店に来るのが楽しくなっている。
さて、今日はどんな……おや?
着いてみるとめずらしくリタが先にきていて、店前のイスに座っていた。
遠目で見るに深刻……というか若干疲れた顔をしているように見える。
やがてオレに気づくと彼女は笑顔を向けてくれた。が、それにも陰りが。
「あれ? 今日は早いね。何かあった?」
そう軽く訪ねると彼女は遠慮しがちに、それでもポツポツと語り始める。
リタが言うには、どうも近々御前試合というものが開催されるようだ。
それは年1回行われ、タッグによるトーナメントで優勝を目指すらしい。
タッグは王侯貴族の誰かと、教会の指名した戦士で組まれ、戦闘を行う。
その一人としてリタが参加することになったようであった。
「リタはそれが嫌なの?」
「はい……。戦って勝つとか負けるとかなんて、そんなこと……」
まあ、聞くまでもないか。
ここ数日、彼女を見ていたがナイフ一本持ったことがなさそうだった。
それが、いきなり戦えなんて言われて。
よっしゃやったるでー、とかそんな気分になるわけがない。
それにしても、もうすぐ魔王が復活するっていうのに御前試合ってなんだよ。
とは思うが、予言に記されたその時期は10年ほど先。
ちなみに以前に復活したのは300年ほど前。
魔王なんておとぎ話の産物なんじゃないかと思っている連中さえいる。
とはいえ一応、魔王不在の今でも魔王軍というものが存在してはいた。
だが、前線はここから馬車で半月ほど掛かる砦付近。
戦闘もそこでたまに小競り合いがある程度。
結局、王都の住人にとって魔王は異国の大火事程度の認識しかないのだろう。
「どうしたの、二人とも。何か困ったことでもあったの?」
大体事情を察したところでレンがやってきた。
悠里よりも早いなんて珍しい。
「それが、リタが御前試合に参加することになったみたいで……」
「御前試合? それってパーティーメンバーは?」
「え? パーティーメンバー? それって一体なんでしょうか?」
「御前試合ってタッグで戦うんじゃなかったっけ?」
オレたちが聞くとレンが半ばあきれた顔で説明を始める。
どうも今年は『王侯貴族一人+転生者数人』のパーティー戦になったらしい。
そして、貴人が自分と組むメンバーを自ら選び出すという。
なるほど、召喚された転生者の力を示そうってわけか。
そもそも魔王復活が10年先だというのに、なぜ転生者が今召喚されたのか。
それは教会が転生者召喚でその権威を民に示すため、という側面が強い。
だが当然、王侯貴族は彼らが必要以上に力をつけるのを常に警戒している。
教会も民に権威は示したいが、貴人たちに目をつけられるのは本意ではない。
多分、御前試合はそのあたりのバランスを取るために行われるのだろう。
「それにしてもマズいわねえ。
もうエントリーされた王族や貴族は、パーティーを決めているわよ?
転生者ではわたしとシュウくん、悠里さんしか残ってないんじゃないかしら。
それと、こよりちゃん?」
「マジか、オレ全然知らなかった」
「まあ、わたしたちみたいに戦闘に不向きな転生者にはあまり関係ない話よね」
「まさか、そんなことになっているなんて。
……でも、それってひょっとして勇者さまと一緒に戦えるってことですか?」
「おいおい、オレを戦力の頭数に入れるのは勘弁してくれよ。
言っておくけど、太陽の指輪のようなハッタリは通じないと思うぜ?」
「じゃあ、シュウくんはリタさんを助けてあげないの?」
「いやまあ、オレしかいないなら……。
リタがケガをせずに無事試合の日を乗り切れる程度にはがんばるけどさ……。
それより、この状況を利用できないかな?
こんなポンコツパーティーじゃあ無理だって、なんとか不戦敗とかに……」
「あきれた。シュウくん、そんなに戦いたくないのかしら?」
「いや、これはリタのためだよ。
オレも面倒くさいと思ってるけど……」
と、リタからさっき聞いたことを話してみる。
「ああ、そうなのね。
確かに、リタさんにはすこし酷ね……」
「だろ?
しかもパーティーメンバーが農民、商人、鑑定士とあと一人って。
……そういえばこよりって誰だっけ?
名前はなんとなく聞くような気がするんだけど……」
「それはうちの雑貨屋に武器をよく卸してくれているからじゃないかしら?
転生者の中でも『鍛冶屋の加護』を受けている娘よ?」
確かに、何度か店でレンと話している娘がいたような……。
「ああ! あの娘か!
いや、てっきりこの世界の職人かと思ってたよ」
「あきれた。同じ転生者学級にいるのに、今まで分からなかったの?」
「仕方がないだろ、女子の顔なんてマジマジと見ないんだよ。
でも……」
鍛冶屋というと、一般的なRPGだとまさに「ドワーフの天職」って感じで。
少なくともオレたちよりは戦闘向きと考えられなくもない。
だが、女の子だっていうならどうなんだろうな。
……それはともかく。
「なあ、姉さん。御前試合エントリーの件って、誰に話をすればいいんだ?」
「そうねえ、今年は転生者の絡みもあって、学園で取り仕切るそうよ?
だから、まずは担当の教員の方に相談するのがいいんじゃないかしら?」
「そうだね。それじゃあ今から――」
と、立ち上がろうとしたところに
「いるわね! アンタに頼みたいことがあるの!
わたしと一緒に御前試合に――」
空気を読まない奴、悠里がやってきた。
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